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霧の王  作者: zan
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04「霧の魔法」

 孤児院の中でも、大人たちは努めて私へ行われるイジメを見ないようにしている。そして、見たとしてもその場では止めない。

 なぜそのようにするのか、理由がいくつか考えられる。いずれもくだらない理由だ。

 私をいじめさせることで、彼らのストレス発散をさせているというもの。子供は子供同士のルールがあるからと、好きにさせているというもの。私は身なりも汚く、ひ弱そうなので死んでも構わないと思っているというもの。

 いずれにしても、私からしてみればたまったものではない。死んでなどやらない。


 そういうわけで私は孤児院で働く大人をあまり信用していなかったが、例外が一人だけ存在する。

 クオードという名前の男性だ。そこそこ若く、二十台半ばごろと思われる。彼は私にも優しかった。小児性愛の類というわけでもなく、純粋に子供好きなのだろう。

 おやつも私に手渡しで与えてくれたり、時折体調が悪くはないかと気遣ってくれたり、世話をやいてくれる。

 他の大人は皆私を厄介者のように扱っているだけに、クオードの存在は私の心を実に癒してくれた。

 ある日、そのクオードが買い物にでかけるというので、私はそれに同行することにした。迷惑に違いなかったが、とにかく外に出る機会は少ないので何とかする必要がある。私は頼み込んで、彼の同意を勝ち取った。


「カリナ、手を離さないで。キョロキョロしないで、前を見て歩くんだよ」


 クオードはしゃがみこんで私と視線を合わせてから、そんな注意をしてきた。

 私としてもはぐれてクオードに迷惑をかけることは本意でない。素直に頷いておく。

 彼の手をしっかり握って、私はようやく孤児院の外に出た。


 町並みはやはり、知り尽くした『エギナ』の始まりの村と同じだ。

 そうそう、ここで買い物しすぎると値段がオーバーフローして異常に安く買えたりしたっけな。あのバグは残しておいてもよかったかもしれない。

 などということを考えながら、クオードが買い物するのを見守る。

 『エギナ』では武具や薬品の類しか買い物できなかったが、ここでは日用品や食糧も買うことができるようだ。当然だろう。そうでなければ住人の日々の生活が成り立たない。

 買い物が終わるのを待ち、私はクオードに書店に立ち寄りたいと申し出た。クオードはこれを承知してくれた。いい人だ。

 しかし書店では本が非常に高額であるため、子供には触らせられないと言われる。そこでクオードが本を開いて、私の読みたいところを見せてくれた。

 当然、見せてもらったのは魔法の扱い方について書かれたものだ。


「カリナはこれが読めるのかい。でも、魔法はほんの少しの人だけにしか使えないんだよ」

「あ、その。絵、絵がおもしろいから。見てて楽しいの」


 しまった。3歳児が魔法書を読みすすめるのはいくらなんでも不自然だろう。

 私は適当に誤魔化しておいた。

 計画はとりあえず成功だ。詳しい火の魔法の扱い方を、しっかり脳裏に刻み込む。


 そしてその日の夜、そっと試してみた。確かに、火は燃えた。

 最下級魔法に過ぎず、それも威力は無きに等しい。しかし、それでも魔法が出たのだ。

 発生プロセスは非常に面倒だったが、仕方がない。

 私はこれを反復練習することで少しでも身体に慣れさせることを決意した。

 まず精霊を吸収して魔力を身体に溜め、それを魔法に変換する。そして、どこに魔法をぶつけるかを指定する。

 この一連の動作をいかに素早く、効率的に行えるかが魔法使いの全てだろう。

 私はこのとき、そう思っていた。


 次の日にそれはひっくり返った。


「カリナ、どうしたの。そんなにびっくりした顔をして」


 クオードが本を持ったまま声をかけてくる。私は驚愕していたのだ。無理もない。

 そうだった。

 魔法は、何も攻撃魔法ばかりではなかったのである。

 弱体化魔法。デバフ。

 そういうものが、存在していたのだ。

 僧侶が自らの力を増幅させる強化魔法を習得するのに対して、魔法使いは敵を弱体化させる魔法を習得する。


 クオードが開いて見せてくれているページに記されているのは、霧の魔法だ。

 敵の周囲を霧に包んで、相手の視界を狭める。これにかければ、簡単に相手の不意をつくことができるのである。

 これにかけた相手を、ナイフでグサリとやれば一瞬で倒せる。

 人間相手ならそれだけでどれほど強力なことか。

 あのいじめっこたちに復讐する際にもこれは絶対に役立つ戦術だ。殺すかどうかは別にして。

 そう考えてみれば攻撃魔法など目立つし、魔法力を消費するしでろくなことはない。威力過剰だ。

 旅立った後、魔物との戦いとなるが、その際ナイフでは役者不足に感じるかもしれない。

 だが、それも杞憂だ。


 クオードが買い物をするときに見えたが、この始まりの村には最強の杖が売っている。その名もパワーロッド。

 攻撃力が低く、魔法力も低い初期魔法使いを手助けするための救済武器だ。このロッドは魔法使いだけが装備できて、使用者の魔法力を吸収して打撃力に変えてくれる効果をもつ。

 しかしデバッグしたときにわかったが、実際に使ってみると最初のうちは吸収する魔法力が少ないのでそれなりの力しかもたず、初期魔法使いの救済としては役に立たなかった。結局、初期魔法使いは休憩して魔法力を回復しながら、地道に魔法で戦っていくしかなかったのである。

 ところが、このパワーロッドという武器は中盤以降になると吸収する魔力量が増えるため凄まじい威力を発揮することになる。魔王軍の最終防衛ラインにおいても、この杖を装備した魔法使いは出鱈目な打撃力を発揮する。中盤以降は最後まで通用する優秀な打撃武器に化けるのだ。

 つまりなんとか序盤を乗り切れば、あとはパワーロッドで無双できる。という具合だ。

 霧の魔法で視界を封じて、背後からパワーロッドで殴りかかれば魔王城のガーディアンでさえ簡単に倒せるはずである。


 魔法力を吸収して打撃力に変えるパワーロッドを使いこなすには、相応の身体能力も要求されるだろう。

 身体を鍛える必要がある。同時に、魔法の訓練も行わなければならない。

 といっても、破壊魔法などではない。補助魔法の訓練だ。さしあたっては霧の魔法。

 1秒以内に発動できるようになるのが理想だ。いや、実戦では1秒も惜しいかもしれない。

 とにかくできるだけ早く霧の魔法が出せるように、訓練を行うしかない。

 私は決意を新たにして、クオードとともに孤児院に戻った。


 その後数ヶ月、夜になるたびに孤児院が霧に包まれるという謎の怪異があったのだが、真相は誰も知らない。

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