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霧の王  作者: zan
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03「魔法使い」

 自棄酒で深酒をした同人ゲームクリエイターの私が、『エギナ』の世界に落ちたことは何の意味があるのか。

 あのときエンディングまで組み込んだテストプレーは、最後までできていなかった。

 剣士、盗賊、僧侶は終わっていたが、魔法使いだけが残っている。


 そして、孤児院からスタートしているということは、私は『魔法使い』である可能性が高い。

 剣士は故郷の農村から、盗賊は大貴族の屋敷から、僧侶は教会からのスタートだ。これらではないだろう。

 とはいえ果たして私はプレイヤーキャラクターの特性を持っているのだろうか。

 一部のRPGの場合、プレイヤーキャラクターであれば、死んでも復活可能である。だが、『エギナ』はアクションRPGであるが、死んでしまえばそのままゲームオーバー。教会から再スタートだとか、課金アイテムで復活だとかそういう要素はない。

 『エギナ』におけるプレイヤーキャラクターの特性としてはやはり成長に関することだろう。

 敵対するNPCを殺せば、そのNPCのレベルに応じて成長ポイントを獲得できる。この成長ポイントを自由に割り振って、好きな特徴を伸ばすことができるのだ。


 例えば、最弱のNPCである「街の乞食」を殺害した場合は成長ポイントが1もらえる。

 そのポイントを消費し、プレイヤーは筋力、耐久力、魔法力、精神力、器用さ、魅力といった要素を成長させることができるのだ。成長させればさせるほど、一段階成長させるのに必要なポイントは増えていくが、それだけ効果も見合ったものになる。

 NPCがNPCを殺害した場合でも成長するが、その場合もプレイヤーがポイントを割り振らなければならない。『エギナ』には友好的なNPCが非常に少ないが、彼らをプレイヤーの好きなように成長させることができるというわけだ。

 つまり、私がプレイヤーキャラクターであるのなら、成長ポイントの割り振りができる。そのはずだ。

 だが、どうやって割り振ればいいのだろうか。身体のどこかにボタンがあって、それを押すなどという方式でないことは確実だが、この世界がゲームではない以上、メニューボタンなどあるはずもない。

 うむ、考えてもわからない。だが、物心ついて以来、ただの一体もNPCを殺害していない自分に成長ポイントがあるはずもないので、わかったとしてもしばらく役に立ちそうにない。

 とりあえずその疑問は棚上げにしておくことにする。

 私がプレイヤーキャラクターの特性を持っていないという可能性を含めて、未確定なことが多いからだ。

 とりあえず、窓に映っている私の姿は間違いなく『エギナ』で設定した魔法使いのデフォルトの姿だ。あどけない子供の姿だが、面影がある。成長すれば設定した姿になるだろう。


 設定では魔法使いの旅立ちは14歳のときになっている。自分の年齢が詳しくわからないが、恐らくは3歳くらいだろう。

 ゲームの設定どおりに進むとは限らないのだが、もしそうなるとするなら旅立ちまで残り、11年だ。

 いや待てよ、確か魔法使いが14歳で旅立つのはそれなりの理由があったはずだ。孤児院にいられる上限年齢が14歳だったとかそんなんではなかっただろうか。

 魔王が存在するのなら、彼を倒さなければ滅亡エンドが待っている。

 実際にはテストプレイでもほとんどありえなかったのだが、『エギナ』には制限時間オーバーによる強制エンディングがある。ゲーム開始から、ゲーム内時間で1000日が経過すると魔王が侵攻して来てゲームオーバー確定なのだ。

 つまり旅立ちの日から二年半程度は余裕があるということだが、そんな悠長なことをしている暇はないだろう。

 部屋の隅で毛布をかぶりながらそんなことを考えていると、羽虫が一匹、私の顔にたかってきた。それを手で叩き潰そうとしたが、3歳児の力ではなかなか難しい。しばらく躍起になり、数分後にようやく仕留めた。

 成長ポイントを獲得したという実感はない。羽虫も敵モンスターとして登場することがあり、成長ポイントをもっているはずなのに。


 数週間後、私は夜に孤児院内を闊歩していた鼠を殺した。やはり成長ポイントは得られない。

 鼠を殺すのは罠を仕掛けるところから行って、大変だったのに。無駄だった。

 成長ポイントという、いかにもゲームじみた要素はこの世界に存在しないのかもしれない。

 この町並みは『エギナ』に酷似しているが、ゲーム世界などではないのだろう。

 だが、魔王の伝承がある以上は間違いなく魔王は存在するし、世界を救えるのは私一人だけだ。そういう設定にしてしまっている。

 滅亡エンドがある以上、他の誰かが勝手に魔王を殺してくれるということにはならない。


 そのようなことを考えている間に、暇になったのか目に付いたのか、子供たちがやってきた。

 私はかぶっていた毛布を引き剥がされて蹴られた。口々に彼らは私を罵り、謗り、嘲りながら蹴りつける。

 結構痛いものではなるが、傷が残るようなことはなかった。子供の身体はやわらかいものだと思う。

 この苦痛は日常的に行われており、私も痛いながら慣れてきつつある。

 毎日、少しの辛抱だ。

 

 次の段階に進まねばならない。

 私は恐らく『魔法使い』である。魔法使いは最初からデフォルトで魔法を一つ使えるはずだ。

 キャラクターメイクの際に火魔法の最下級魔法か、光魔法の最下級魔法を選択するようになっている。

 終盤では光魔法が圧倒的な力を発揮するが、序盤は火魔法が非常に強力だ。デフォルトのカーソル位置は火魔法になっているので、私の習得している魔法も火魔法である可能性が高い。

 とはいえ使い方がわからない。『エギナ』なら魔法ボタン一つで出る火魔法最下級魔法でさえ、出し方がわからない始末だ。

 何か情報を集める方法はないものか。『エギナ』世界において魔法使いはそれほど珍しい存在ではない。魔法の使い方などという教本も少なからず存在しているはずだ。


 そこで私は積極的に外に出るようにした。

 基本的に毛布をかぶって過ごした方が痛い思いをしないですむのだが、魔法を覚えるためには仕方がない。

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