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霧の王  作者: zan
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21「他生の縁」

 破壊魔法で扉や壁を壊すからバレてしまうのである。

 必死に修練して覚えたテレポーテーション、転移の魔法で牢の外に出ればそれで終わる話だ。問題はその転移の魔法がどうにも不完全であり、あくまでも直線移動する魔法でしかないということだろうか。つまり、障害物があるところには移動できないのである。

 『エギナ』のストーリーを台無しにするような魔法は使えないということなのだろうか。あるいは、必然力とでもいうのか、私に『エギナ』の魔法使いとして振舞わせたい神の不必要な介入があるのかもしれないが。

 とりあえず私は魔法を使って扉のカギを腐らせ、役立たずの錆び鉄に変えた。大きな音や振動を生み出すこともなく、扉は開く。何事も使いようだ。

 とはいえ、いつまでもバレないということもないだろう。さっさと用事を済ませて、脱出したほうがいい。私は一部融解した扉を開き、濃霧に覆われた牢獄の中を歩き出した。


 まずは奪われた装備や荷物、それに所持金を取り返す必要がある。『賢者の宝玉』は無事であるし、いざともなればそのまま脱出しても問題なさそうだが、やはりパワーロッドは持っておきたい。先立つものもあるにこしたことはない。

 濃霧の中を進み、うろたえる看守たちを尻目にして、没収したものが置いてある倉庫に到達。たやすく装備を取り返す。

 盗賊ならここで他の人間が持っていた武器や金を奪うかどうかの選択肢がでる。YESを選択した場合は所持金が二倍になり、いくらかの装備が手に入るがカルマ値が最低になる。つまりこの時点でバッドエンドが確定だ。一応、やめておいたほうがいいということを伝えるメッセージは出るが。

 選択肢も何もない今の状況では魔法使いである私も他人の荷物をまさぐることが可能だ。だが、カルマ値などに関係なくそんなものに興味がない。自分の荷物だけを回収して、出ようとした。

 が、一つの小さな荷物に目が留まる。以前、それを見たことがあったからだ。


 思わずそれを拾い上げて、まじまじと見つめてしまう。確認したが、間違いない。あの孤児院で見たもの。クオードが持っていたものだ。

 彼に関係のある人物が、この牢にいるらしい。だが、誰が?

 クオードが形見として託したのか、それとも誰かが彼から奪い取ったのか。この状況ではわからない。

 ここに彼が愛用していた懐中時計がある、という事実以外は。

 クオードが亡くなってからもう9年もの歳月が流れたが、まさかこれをまた見ることになるとは。この9年間、これは誰の手にあったのか。

 いや、待てよ。

 私は一つの可能性に思い当たった。あまり考えたくないことだったが。

 ……まさか。

 その可能性を決定的に否定する論拠を見出せないまま、私はその場を後にした。


 ドレインダガーは壁に隠されている。

 ある人物のいる牢の壁に。だから、その人物とは出会ってしまう。とはいえ無害な人物なのでさほど問題ではない。

 牢を開けるのは簡単だ。こじ開けるか、カギで開けるかすればよい。そうしたなら、無事にこの人物とご対面だ。

 この人物の名は、ターナ。12歳の少女である。

 盗賊の場合、彼女を養うために盗賊団を結成するというエンディングも用意されているのだ。一端のヒロインといえるだろう。

 このターナがどういう人物なのかは特に明示していないし、設定もない。盗賊でプレイしているのでなければ、特にストーリーに絡んでくるようなこともないオマケキャラ扱いである。

 そのはずだが。ターナが12歳ということは、9年前には3歳という計算になる。

 クオードの子供と同じ年齢なのだ。もしかしたらということが、ありうる。

 そんな設定をした覚えはないが、クオード自体が『エギナ』の設定に全く登場しないのである。ターナがクオードの娘であったとしても、全く矛盾を生じない。ゲーム内で出会ってもほとんど何事もなかったようにその場限りで別れてしまい、連絡も取らないのはお互いに気付かなかったからだということもできる。


 勿論、ターナには会う。会って確認したいが、怖い。

 はっきり言って、クオードを殺したのは私のようなものだ。彼を頼って、無理難題を押し付けた結果、彼は殺されたのだ。

 妻子を逃がしたとクオードは言っていたが、その後生活に困り、食い詰めた彼女らが犯罪におよんでしまったとしても、無理からぬことだ。ターナがここにいることに関しては、クオードの娘説を採用したとしてもそれほどの不自然さを感じない。


 若干のためらいを覚えながらも、私はターナのいる部屋に近づいた。濃霧のせいで、彼女から私の姿は見えないだろう。

 扉のカギをテレキネシスで壊す。内部構造を破壊してからカギを開けばそれほどの物音はたたない。

 私の所業によってターナを閉じ込めている牢の扉は放たれた。だが、12歳の少女、ターナは牢の中で座り込んだままだ。

 そこで私はまず、彼女の足元にクオードの懐中時計を放り投げた。確かめる必要があったからだ。何よりもまず、疑念が当たっているかどうかを。


「これは」


 彼女はすぐに時計に気付き、それを拾い上げた。霧の魔法はこの牢の中だけ解除してある。

 つまり、ターナからも私の姿は見えるようになった。しばらくは懐中時計に夢中で気付かなかったらしいが、数十秒ほどで彼女もこの部屋にいる侵入者に気付いたようだ。


「誰?」


 警戒心をあらわに、ターナは身構える。ゲーム内での彼女の行動は単純なものだったが、このように怪しい行動をしては仕方がないか。

 本来なら扉を壊すだけで「逃がしてくれるの? ありがとう!」と勝手に納得し、プレイヤーの後をついてくるようになるはずだが。現実はこんなもんだろう。

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