19「投獄」
西の遺跡に出向いた私は、罠のある迷宮を庭のように歩いて踏破し、魔法書を入手した。
マジックドレインの魔法だ。この魔法が手に入れば、敵から魔法力を吸収することができるので、とても快適に戦うことができる。しかしマジックドレイン自体の魔力消費が結構高いので、計画的に使わないと魔力はやはり枯渇する。
だが、実はこのマジックドレインこそ最強の魔法なのである。なぜならば『エギナ』の仕様として、魔法力はMPとして数値で設定されているが、この数値がマイナスになると致命的なダメージを与えられるからだ。繰り返すが、これは仕様である。バグではないので、直してなどいない。
例えば森の賢者の最大MPは380だが、マジックドレインでこのMPを吸い取りまくってゼロにしたとする。このとき、『敵のMPはもう残されていない』とシステムメッセージが表示される。だがお構いなしに再びマジックドレインを繰り出すとMPこそ吸収できないが、『敵は精神にダメージを受けた』と表示され、内部では敵に5000近いHPダメージを与えている。森の賢者のHPは900なので、5回以上殺せるほどのダメージを与えるわけである。一撃でだ。
実際にはマジックドレインを覚えるのは遺跡をクリアした後なので森の賢者に試すのは無理だが、レベル1の魔法使いでもマジックドレインさえ覚えていれば同じ方法で森の賢者を倒すことが可能だ。マジックドレインで吸い取るMPはそのまま自身のMPを回復させるので、うまくハマれば簡単に倒すことができる。
理屈としては、こうだ。MPへのダメージは、MPが残っている限りそのままMPを削る。しかし、MPがゼロや負の値だった場合、代わりにHPを100倍の数値で削る。致命的なダメージを与えるのは、この100倍というのが狂っているからなのだ。
だが開発中のプレイでは誰一人この仕様を突いてマジックドレイン無双するような人間はいなかった。MPがゼロの敵にわざわざマジックドレインをかけるなどというのは気付かないだろうし、MPを吸い取れなければマジックドレインの消費MPで魔力が枯渇するからだ。
しかし今の私はレベルカンスト状態で、MPの心配などまず必要ない。マジックドレインのような消費の激しい魔法も使い放題だ。
最終ボスである魔王のMPは12000くらいのはずだが、削りきれない数値ではない。もしもパワーロッドが通じなかったなら、マジックドレインで殺すこともできる。こうした手段を用意しておくことは必要なことだ。
パワーロッドは接近武器であるから、魔王の反撃を受ける可能性が高い。しかしマジックドレインなら少し離れた位置からでも倒せる。
近接でも最強武器、離れても最強魔法。このくらいの構えは必要だろう。油断していて魔王の最強奥義が私の心臓を貫きました、じゃ笑い話にもならない。
とにかく遺跡での目的は果たした。
このステージもクリアといって問題ないだろう。『エギナ』ならステージクリアの文字が画面に踊り、サウンドエフェクトで盛り上がるところだが、ここでは全くそういうことはない。遺跡の厳かな雰囲気と、そこらを徘徊する魔物の気配がズルズルと遠くに聞こえるだけだ。
本来なら次のステージは火山である。遺跡で手に入れた武器を使えばドラゴンを退治できるはずだ、ということを聞きつけたプレイヤーたちは火山に向かうのだ。
そこで竜の巣から手に入れた魔王への手がかりを追って悪徳商人の館に踏み込むことになる。魔王の手先になって、人間側の状況を売りまくっていた商人を壊滅させると魔王の本体が封じられている場所が判明するが、館を出たところで敵の罠にかかって衛兵に捕らわれ、投獄される。
そこを脱獄してからは、魔王の本拠まで一直線だ。洞穴内の最終防衛線を潜り抜ければ、あとは最後の決戦。もちろんその舞台は魔王の城である。
つまり、森林→遺跡→火山→館→牢獄→洞穴→魔王城という順序を踏まえなければならないということだ。『エギナ』ならば。
しかしマジックドレインとパワーロッドが手に入った今、残りのステージを回る意味は薄い。すでに魔王の本拠は知れている。『エギナ』をつくったのは私なのだから、わかりきったことだ。それらしき場所も確認している。『賢者の宝玉』があるから、いつでも乗り込める。
あとは直接洞穴へ行って、魔王を滅ぼせば終わりだ。1000日後の破滅はそれで回避される。
しかし今日はもう遅い。別に疲れを感じてはいないが、ここは一度引き返すべきだろう。ゲーム中はいつも昼間だが、夜の間は敵の攻撃力が上がるというようなことを設定として盛り込んでいたような気がする。
念のため、魔王の城へ行くのは昼間の方がいいだろう。そこで私は一度町へ戻った。
始まりの村ではなく、もう少し都会の町だ。宿屋もあるはずなので、そこで一泊しよう。
そう考えていたのだが、町に入ると同時に衛兵につかまった。
抵抗することもできたが、なぜこうなったのか知りたかったのであえて言うとおりに大人しく捕縛されておく。こちらが抵抗しないにもかかわらず、彼らは手荒に私を扱ってくれた。
これでも一応14歳の女なので、もう少し丁重にしてもらいたいものだが。賢者の宝玉とパワーロッドさえとられなければどうでもいいと思っていたが、やはり荷物は取り上げられた。宝玉だけはニセモノとすりかえて、本物は服の中に隠して持ち込んだが、パワーロッドはダメだ。言い訳がきかない。
『エギナ』でも宝玉は何があろうと盗まれることがないので、このあたりは忠実だったといえよう。
そして私は裁判にかけられるようなこともなく、牢獄に放り込まれた。
中から見る限りは、牢獄ステージと同じマップだ。
どうやら投獄されるイベントが発生したようだ。宝玉を持っていて、魔王の城の場所を知っている。
つまりいつでも魔王の城に行ける状況になっている。さらに、私自身もそうしようとした……。
『エギナ』でもプレイヤーキャラは魔王の城に行こうとした矢先に罠にかかって投獄されることになっている。これは、余計なトリガーをひいてしまったようだ。
面倒だが、牢獄ステージも攻略せざるを得ないらしい。
「そうだ」
ついでに、ここに隠されているあの武器も回収することにしよう。




