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霧の王  作者: zan
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18「森の賢者」

 こうなっては仕方がない。風を巻き起こす魔法を使って、元祖『霧の王』を吹き飛ばした。

 風に舞う木の葉のように軽々と老人は吹っ飛び、地面に倒れこむ。一応魔法防御力を設定しておいたはずだが、序盤のボスなので大したことはない。最初からほとんど魔法が通らないようなのがボスでは、魔法使いが不遇になりすぎるだろう。

 森の賢者がそれではどうかという意見もあろうが、手加減しているという解釈もあるはずだ。

 ともあれ、彼は倒れた。HPはかなり削られたようだ。

 ステータス画面上、彼のHPの最低値は1になっており、決して死ぬことはないはずである。とはいえ、かなり加減した。ゲームなどの設定よりも現実として起こっていることが優先されるのは想像に難くない。

 少々心配したが、問題なかったらしい。したたかに背中を打った森の賢者は少し咳き込みつつ、身を起こす。


「つっ……、いやはや、これは」


 力加減はうまくいったらしい。森の賢者は話を始めた。

 彼のこの話を聞く必要がある。


「私の力はわかってもらえたかと思います。魔王を滅ぼすために、何が必要なのか教えてもらいたいのですが」

「ああ、君ほどの力なら魔王の討伐を志すのも当然であろう。わしの知識など古いかもしれないが、役に立ててもらいたい」


 そう言って彼は、魔王を滅ぼすために必要なものを挙げていった。

 まずはイベントアイテムである『賢者の宝玉』。これは森の賢者が持っているので、この場で頂戴する。

 実のところ話など無視し、彼を殺害して奪っても問題はなさそうだが(盗賊の場合強奪したり、賢者が気付かないうちに盗むということもできる)、無駄に血を流す必要もない。

 イベントアイテムを確実に入手しておきたかった、ということもある。この森の賢者から授かる宝玉でもって、魔王の本拠地に乗り込めるようになる。

 『エギナ』はステージをクリアしなければ先に進むことができない設定なのであまり意味がないが、設定としてイベントアイテム『賢者の宝玉』があるのだから、ここは受け取っておく必要がある。手のひらサイズの水晶玉みたいな外見であるが、いざこうしてみると意外とかさばる。仮にも魔法の宝玉なのだからそう簡単に壊れはしないだろうが、用意していた箱に入れておく。このあたりはぬかりない。


「先日、ようやっと完成したばかりだ。わしが討伐に行くつもりだったが、君にならこれを託しても大丈夫そうじゃ」


 私が14歳になるのを待った理由の一つがこれだ。森の賢者はこのイベントアイテムを自作していたという設定がある。

 しかも、ゲームスタートする日にようやく完成するという有様である。これがなければ魔王を倒しに行きたくても、いけないのだ。


「ところで君は魔王についてどのくらい知っているかね。よければわしが調べた彼の特徴を説明するが」

「いや、結構。彼のことは知り尽くしているので」


 本来なら森の賢者からいかに魔王が恐ろしい存在であるか、彼がどのように世界を危機に陥れているかについて詳細が聞ける。だが、今回はそんなことをしている余裕がない。私は手っ取り早くここを立ち去りたかったので、そのあたりは省略する。

 簡単に言ってしまえば、『エギナ』における魔王とは悪意が具現化したものである。古代から人類を支配云々、といったものではない。

 人々が他人を憎しみ妬み、恨むことで負のエネルギーが世界に澱みを生み、その澱みがやがて集まり魔王となった、というものだ。森の賢者がどこでこんな怪しげな魔王誕生秘話を聞き及んできたのかは不明だが、とにかく『エギナ』の中ではそういうことになっている。


「それよりも、私はこの宝玉を用いて西の遺跡に行きます。必要そうなものがあれば持っていくつもりですが問題ありませんか」


 別にこれは訊かなくてもよかったが、一応許可を取る。

 森の賢者は多少驚いたようだが、やがて頷いた。


「そこまで調べたのか。どうやってかは知らないが、君の役に立つものがあるなら持っていきたまえ。

 老い先短い老人が冥土の土産にするより、君のような若者が世界を救うために使うほうがアレも喜ぶであろう」


 西の遺跡というのは、『エギナ』における第二ステージ。いわゆるダンジョンである。

 ここはこの森の賢者が天然の宝物庫として利用している。遺跡内部には強力な魔物がでるので、盗賊避けに丁度いいからである。

 もちろんプレイヤーはその中に押し入り、武器や魔法書を手に入れるわけだ。

 森林ステージをクリアするまでこの遺跡に入れないのは、森の賢者が結界を張っているからだ。西の遺跡がどこにあるかは探し当てているのだが、その結界がまたかなり強固であり、どうしても解除できなかった。プレイヤーキャラの魔法使いは結界術が不得手という設定でもあったのだろうか。

 だが、賢者の宝玉があれば、遺跡の扉を開けることができる。

 遺跡内部では、戦士の場合は強力な槍、盗賊の場合は弓、僧侶の場合は盾、魔法使いの場合は魔法書が手に入る。是非行っておきたい場所だった。

 もっとも、今の状態で魔王に挑んでも勝てるだろうという予想はあったが、一度負けたら後がない。死ぬだけだ。レベルカンストであろうが、最善を尽くす。何しろ回復魔法がつかえないのであるから、このくらいはして当然だろう。


 とるものをとったので、私は森林ステージから脱出する。

 霧の魔法を解く前に一応確認したが、このステージの敵キャラたちの強さは設定相応で、最下級の攻撃魔法でも簡単に倒すことができた。

 およそ、敵の強さというものに関しては謎の補正がはたらく気遣いはいらないらしい。

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