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霧の王  作者: zan
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12「隠れ家」

 シュトーレを連れたままで、私はクオードを訪ねた。

 クオードは自宅にいて、何やら内職に励んでいる様子だ。孤児院の給与だけではとても一家で暮らしていけないらしい。

 彼の家庭は経済的にかなり苦しい様子で、そこにシュトーレまで保護してもらえないかと頼むのは心苦しいが、仕方ない。他に頼れる大人など存在しなかった。


「クオード、シュトーレを連れてきたけれど」


 彼を呼び出し、事実を簡単に説明した。

 私がやってきたことを不審に思いながらも出てきた彼は、眉を寄せてしまう。


「どういうことですか、カリナ。シュトーレはよい里親のもとにもらわれたはずでしょう。

 何があって、ここに戻ってきたのですか?」

「それが、その。ヤフマーっていう人に攫われそうになってたみたいで」

「はあ? どうしてそのようなことになるのですか。院長が許可した相手ですよ。

 実際、そうした報告は孤児院のほうにも来ていませんが」


 言いながら、クオードはシュトーレを見た。シュトーレは余所行きの高価な服を着ているが、ところどころ汚れている。

 ここに来るまで徒歩であったのだから、汚れるのは仕方がない。盗賊たちは丁重に扱っていたようだが、5才児の体では限度があった。


 それはともかく、シュトーレは自分に起こったことをよくわかっていない。

 私が全て説明するしかないのだが、ヤフマーのアジトを強襲してシュトーレを奪い返したなどということを説明してもだ。クオードが信用してくれるだろうか。


「でも、シュトーレは実際にヤフマーのアジトにいたよ」

「なんですって?

 というよりカリナ、貴方はヤフマーのアジトに出向いたというのですか。

 そんなところから彼女を取り返してきたと? 本当ですか」

「ええっと……」


 この始末だ。どうにもなりそうにない。

 うまい言い訳を考える必要があった。仕方がないので最終手段として考えてあった言い訳を述べる。


「えっとねえ。霧の王って人がそうするように言ったんだけれど。

 うん、今朝だけどね……大事な人が倒れているから、このままじゃだめだから、運んであげてほしいって」

「霧の王、ですか」


 ふむ、とクオードが唸る。


「カリナ、霧の王といえば魔法使いの中でも稀有な才能を持った隠者です。確かにこのあたりの森に住まっているということは聞いていますが。

 今更彼のような人物が出てくるとは。彼から啓示を受けて、あなたはヤフマーのアジトに行ったのですか?」

「そういうことになるかなあ。なんか、夢の中みたいでふわふわした感じで。

 すごい霧に包まれてたけどシュトーレのいるところだけ晴れててさ。連れて帰ってきたよ」


 そう、全部霧の王という人物に押し付けたのである。

 ヤフマーをアジトを滅ぼしたのも、シュトーレを取り返すように私に命じたのも、全部霧の王だ。

 多少名前の知れている魔法使いであるのなら、こういうことが起こっても不思議でない。5才児である私がやったというよりも、霧の王が私をけしかけたというほうが真実味を帯びる。

 この言い訳は成功した。


「ふむ、そうですか。いやこれは……実にまいったことになりましたね。

 それでシュトーレ。里親には連絡したのですか」

「あ、あのねクオード。霧の王がシュトーレの里親は信用できないって。孤児院の院長も。

 だからクオードのところに連れてきたんだけど」


 私はあわてて言いつくろった。クオードが里親に連絡をしたのでは、せっかく救い出したシュトーレがすぐにも奪い返されてしまう。

 さすがにレベルカンスト状態とはいえ、私も街中で騒ぎを起こすのは避けたかった。昼間から霧の魔法を使ってもいいのだが、頻繁にやりすぎるのも危ない。


「そうですか……。わかりました、シュトーレはしばらく私の家で預かります。

 院長と里親も少し調べてみましょう。信頼できる人を探して、調査してみないと」

「うん、そうしてよ」


 こうした次第で、シュトーレはクオードのところで過ごしていくことになった。

 クオードの生活も裕福ではないけれど、シュトーレも彼の内職を手伝ったりしているらしい。


 私は孤児院に戻って、相変わらず魔法の訓練をしながら院長の隙を探している。

 夜になるたびに院長の部屋などを探っているが、まだ裏帳簿は見つかっていない。村長の息子と違って、馬鹿ではないらしい。

 それとも村長の裏帳簿が盗まれたのを知って慎重になったか。面倒なことである。


 ある夜に、私はついに発見した。

 裏帳簿ではない。そちらは半ばあきらめの領域に入りつつある。

 見つけたのは、森の中にある小屋だ。その中に入ってみると、ミイラのようにしなびてしまった男性の遺体が見つかった。

 これがどうやら、霧の王と呼ばれた魔法使いだったらしい。

 町の人々のうわさにのぼっているほどの使い手だったようだが、既に死んでいたようだ。

 こうした設定をした覚えなどない。もしかするとスタッフのうちの誰かが「裏設定」などといって考えていた可能性はあるが、そんなものまで反映されているのかという疑問も湧く。

 そもそも「霧の王」という存在が既に私のあずかり知らないものだ。考えても無駄だろう。


 それよりも収穫は、霧の王の小屋にある大量の魔法書だ。すべてもう捨てられたも同然のものだ。

 周囲には荒れているとはいえ畑がある。農具がある。魔法で手入れすれば使えそうだ。

 自給自足の生活ができるだけのものがそろっていた。いざとなればここで生活できるだろう。

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