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霧の王  作者: zan
11/33

11「確たる成果」

 ヤフマーのアジトに連れてこられた娘の居場所を訊ねる。

 シュトーレは今日、ここにやってきたはずだ。知らないとは言わせない。

 私が保護するべきは、ここで売られていく運命にある娘達だけだ。ヤフマーたち一味の命などどうでもいいことだった。


「くそがっ、誰がてめえなんぞに教えるか」


 口答えをしたので、私は彼の足首を踏みつけた。バキバキと音がして、奇妙な方向に足が捻じ曲がる。

 ぐぎゃあ、と大きな悲鳴が上がった。


「もう一度だけ訊こうじゃないか、今日ここに連れてこられた娘はどこにいる?」

「くそお、くそお!」


 彼は情報を持っていないのかもしれないが、そんなことはないだろう。

 ここの責任者でもあるはずだ。


「命だけは助けてやるといっている。言わなければ、とても苦しむことになる。とても」

「くそが、誰がお前なんかに」

「苦しむ、というのは」


 私は彼の左手をたたいた。それだけで彼の手は砕けてしまう。

 おそらく現代の超一流の整形外科医にかからないと使い物にならないだろう。回復魔法でも厳しいレベルだ。


「生きている間、ずっと肉体的精神的、経済的に苦しむという意味だ。その苦しみが増す、ということはな。

 ただ痛みが増すというだけじゃないんだ。わかるだろう。どうするんだ?

 言うのか、言わないのか」

「ひぃ」

「言いたくないなら、虱潰しにさがすだけ。何も問題ない」


 しばらく私は彼を尋問してみたが、何も言わない。

 仕方がないので結局霧の魔法をかけたまま周辺を探し回ることになる。

 シュトーレ!

 できれば、まだ何もされていないことを祈る。


「ああ」


 私はアジトの最奥で発見する。彼女を。

 余所行きのいい服を着た彼女は、長椅子に寝かされている。商品だからか、丁寧な扱いがされているようだ。

 ここに来るまでに何人かの見張りがいたが、全て叩き壊しておいた。魔法を使ってもよかったが、殴るだけで十分すぎたのである。


「シュトーレ、迎えに来ました」


 私はまとっていたぼろ布を脱いで、彼女に歩み寄った。

 シュトーレの周辺にいた男たちが私の声に気づいたのか、慌てたように誰何の声をあげる。


「だ、誰だ?」

「私はそこにいるシュトーレ・サファーの知人で、カリナ・カサハラと申します。

 彼女を返していただきに参りました。急いでおりますので、まずはお品だけを受け取っていきます」


 霧の中を、私のナイフが舞った。二名の命が奪われて、その場に転がっていく。

 この光景は深い霧にさえぎられてシュトーレからは見えないはずである。どちらにしても眠っているのだが、万一ということもない。

 返り血をぬぐってから、私はシュトーレの体をゆすった。


「シュトーレ。迎えに来ました」


 同じ言葉を繰り返す。優しい顔をした孤児院のアイドル、シュトーレ・サファーはゆっくりと目を開いた。

 少しつらそうに目を細めながら、彼女はキョロキョロと周囲を見ている。霧が深すぎて、私の顔も見えないのだろう。


「ああ、ああ……。ええと、私、どうなったですか。

 ここは、どこでしょうか」


 霧の中でも、私の目にはシュトーレが頭を抑えているのが見える。頭痛をこらえているのだろう。

 彼女をここに運んでくるまでの間に、薬か何かが使われたのかもしれない。殴って気絶させると傷がつくのだから当然だ。

 それほど強い薬ではないと信じたいところだ。

 薬物の効力を弱める魔法は、習得することができない。


「シュトーレ。私、カリナです。

 あなたは村長のところからヤフマーに売られたのです。どうか落ち着いてください」

「カリナ? 孤児院のカリナ?

 もう少し近くに来てくれますかカリナ。本当に、本当にカリナなのですか」

「私です。このとおり」


 私はシュトーレに顔を寄せた。カリナの表情が驚きに変わる。

 それから泣きそうな表情になり、不意に私は彼女の胸の中に抱きいれられた。拘束された格好だが、不安はない。

 シュトーレを、私は信頼している。


「ああ。カリナ。

 どうして、あなたが助けてくれたのです。私はあなたの現状を変えられずに孤児院から逃げてしまったというのに。

 でも、本当にありがとうカリナ。

 村長のところで出された食事をとっていたら眠くなってきて、私がこれからどうなるのか聞かされました。

 目が覚めたら、遠い地で奴隷になっているはずだと。目を開けるのが怖くて仕方ありませんでした。

 けれどもあなたの声が聞こえて安心できたのです。カリナ・カサハラ。

 幼いあなたがどうして私を助けられたのか、そんなことはとても聞けません。

 とても苦労をしたことでしょう。どうして、どうして本当に私を助けてくれたのか。

 感謝にたえません」


 ふるえるような声で、シュトーレは私にそんなことを囁いている。

 幼い私はシュトーレの胸に抱かれて、そのままだった。霧の魔法は私たちを深く包み込んでいる。

 このまま逃亡することもたやすい。


 問題は孤児院から出たはずのシュトーレ。彼女をどこに匿っておくかというところに尽きる。

 まずはクオードに相談してみるとしよう。

 シュトーレの証言を、彼ならきっと信じてくれるだろうから。

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