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襲撃

 翌朝、優雅は七時に目を覚まし、いつものように軽くストレッチをして頭の中に残る眠気をとったあと、朝食をとるため部屋を出た。

 ルームサービスで部屋に持ってきてもらってもよかったのだが優が、どうせならみんなで食べよう。と昨夜の雑談の時に提案したので、5階のレストランルームへ向かうところだった。丁度部屋を出たところで隣の部屋を使っていた優と雅がでてきた。

「あっ! おはよ!優雅君」

「おはよう、優、雅」

「う、うむ。おはよう」

 ひとまず朝の挨拶をしてから3人揃って下へと向かった。

レストランルームへとやってきた優雅達は用意された和洋様々な料理から自分たちで好きなものをとって空いている席へと座り食べ始める。

「あら?おはよう。あなたたちも来てたのね」

そこへ今回の任務の依頼主である九峰院華音が同じく朝食をとるためやってきた。

「おはよう華音。華音もここで食べるのか?」

「ええそうよ。一人で食べてもつまらないし、私こういう雰囲気結構好きなのよ。

 お邪魔でなければ一緒に良いかしら?」

「どぉぞどぉぞ~、華音様!」

「ありがと」

 優がそういって手引きしたのは4人席の空いている優雅の隣に華音が座る。

「ところであなたたちは時間まで何をするのかしら?」

「優のわがままでとりあえず買い物に行きます」

雅の若干棘のある答えに優は、ええ~?だって2人も行きたいでしょ?と答える。

「あらそれは大変ね。たしかに前回来てもらった時の優の買い物衝動はすごかったものね」

「は?すごいって何が?」

 優雅は少し疑問に思って尋ねた。

「それは行けばわかるんじゃないかしら」

「ああ、どうせ行くことは決まってしまったんだ。優雅、覚悟しておいた方がいいぞ」

???優雅は意味が分からないといった様子だ。

いつもは優菜(母親)か瑞希さんが必要なものは買ってきてくれるため、買い物というものをあまりしたことがなかった。

「そうね、優がいることだし雅、これを渡しておくわ」

 そういうと華音が雅へ何かを手渡す。

「華音様これは?」

「キャッシュカードよ。私個人の。それなら好きなだけ使っていいわ」

「だ、だめです華音様!そんなの渡されたら優が……」

「きゃぁ~華音様太っ腹ぁ!もぉ大好き!」

 雅の言葉の途中で優の、いかにも現金な言葉が遮った。そして雅の表情があきらかに青ざめていた。いったい買い物程度で何が起きるんだ?といった感じで優雅はその様子を見ていた。



「ただいま~、華音様!」

「あら、おかえり、優。買い物は満足できたかしら?」

「ん~満足とは言えないけど、楽しかったよ!」

 午後五時、買い物から戻ってきた優雅達はホテルの一階ロビーでおそらく優雅達を待っていた華音に会い、優がそう言い、預かっていたカードを華音に手渡した。

 おいおい……あれで満足してないのかよ、と優雅は思っていた。

 そうなのだ。優雅が思うほどに優の買い物っぷりは凄まじかった。正直優雅は女性の……いや優の買い物を完全になめていたのだ。


 午前十時過ぎに優雅達は最初の目的地であるショッピングモールに着いていた。

 そして最初は衣服など軽く見て廻っている程度だったが十一時を回ったころふと雅が昼食を摂ろうと言い出した。まだ朝食からそんなに経ってないぞ?と優雅は言ったが雅が、今無理にでも摂っておかないと摂る時間が無いというので昼食を摂ったのだが……。

 最初に言っておくとそこからの優雅と雅はまるで台風のような優に振り回されっぱなしだった。


 優が最初に行動を起こしたのはある小物コーナーだった。しかしまだ距離があったはずなのにまるで仲のいい知り合いでも見つけたかのように、あ!といって、あっという間に駆け出していってしまった。それを見て雅が、しまった!と言って後を追う。

 優雅は何がしまった、なのか分からなかったが自身がそのコーナーに入ることで否応なく理解した。先んじて入っていた優はまるで分身の術でも使っているのかと思うほどあちこち移動しながら、しかも気に入ったものを片っ端から籠の中へと放り込んでいた。その大半が猫をモチーフにしたものだった。

 隣で雅が、遅かったか。といって肩を落としていた。そして優は籠をレジへと持って行き、カードを預かっている雅を呼ぶ。優雅はどんだけ猫ばっか買うんだ!と思ったが優の猫好き度はこの程度では済まなかった。


 小物コーナーを出てからも優の行動力は収まらない。目についた猫もので気に入ったものは次から次へと買いあさる。荷物を持たされた優雅の両手はすぐに塞がった。しかしそれでも優は止まらなかった。そしてようやく止まった時は優が行動を起こしてから一時間が経過したころだった。そこでひとまず買った荷物を宅配してもらうようにしたあと、一度建物を出て次の目的地に向かったのだが、優雅達がそこにたどり着くことはなかった。


 理由は単純、移動中優の猫メーターが目的を補足してしまったからだ。

 優が目を付けたのは本来素通りするべきはずのゲームセンター。そこを通りがかった時、不運なことに出てきた客によって自動ドアが開かれてしまった。そして優は店内を獣のごとく凝視していた。直後、その目がキラキラと輝き中へと入っていった。

 優がターゲットに選んだのは一際大きな猫のぬいぐるみだった。というか最初からそれしか見ていなかった。しかしながらこいつがなかなか手ごわかったらしく手に入れるのに相当な時間を要するはめになった。そして優雅はぬいぐるみをとろうと必死になっている優を見ながら入ったこともない場所で待ちぼうけを食らった。三時間も……。


 ようやく外へ出た時には日が傾き始めそろそろホテルに戻らなければならない時間となっていたため、優は駄々をこねたがそこは雅に、本来の仕事を忘れるな!と言われ大人しく戻ってきたというわけだった。

 

「そう、それはよかったわね。優雅はずいぶん疲れた顔になっているけど、優の買い物に付き合うのは初めてだったのかしら?」

「ん?あ、ああ、まぁな。というより二人とは昨日が初見だからな」

「あらそうなの?でも同じ二年生でしょ?」

 そう華音が訪ねてきたとこで…。

「お嬢様。そろそろ向かいませんと」

 と、昨日このホテルまで優雅達を送ってくれた運転手のご老人が華音に声をかけた

「あら、じいや。そうね、続きは車の中で話しましょ!」

 どうやらこのご老人は華音の専属の運転手のようだ。

 そして優雅達4人は車へと乗り込みホテルを出た。

 車中いろいろな話をしながら走ること一時間弱。夕刻ということもあり多少時間がかかったようだが、目的地に六時前に到着した。

「ねぇねぇ華音様、今日はいったい誰と会うの?」

 車を降りたあと優がそんなことを尋ねる。

「そういえば言ってなかったわね。今日会うのは私の信頼できる数少ない人のうちの一人、自らの器量で若くして会社を興し、今一番上昇気にある会社の社長。

名前は東郷踏矢とうごうとうやよ」

 知らないな、と優雅は思ったのだが隣で優と、雅までもが同時に叫んだ。

「「東郷!」」

「東郷ってもしかして今すごい有名な化粧品メーカーの?」

「東郷ブランドの社長ですか?」

「そうよ。さすが女の子ね。優雅はその様子だと知らないようだけど」

 優と雅の言葉を呆然と聞いていた優雅を見て華音がそう言う。

「悪いか?化粧品にはあまり興味ないんでね」

 優雅は拗ねた様子でそう返した。

「じゃぁじゃぁサンプルとか貰えたりするのかな?」

 優が瞳をキラキラさせて図々しいことを言う。

「ふふ、それは明日までの仕事が終わったらちゃんとあげるわよ」

「「ほんとですか?」」

「ええ、だから仕事がんばりなさい」

 ずいぶん気前がいいなぁ、それに雅までもがあんなに食いつくとは、その辺はやっぱり女の子だな。と優雅は微笑みながらそんな二人を見ていた。


 優雅達はその後建物の中へと入り、華音の話を聞いた案内係によってとある一室へと案内された。

 案内係の女性が扉をノックしながら、「社長、九峰院様をお連れしました」と言うと中から「どうぞ」と男性の声が聞こえる。中へ入ると一人の男性がお辞儀をした状態で待ち構えていた。

「ようこそ九峰院様。わざわざお越しいただき恐縮です」

 そういうと男性が顔を上げる。

「構わないわ。あなたが忙しい身なのはわかっているもの」

「お気遣いありがとうございます。ところでそちらの可愛いお嬢さんたちと少年は?」

 優雅は、可愛い、と一区切りで言われたことに一瞬むっとなったが今更気にしても情がないかと思いそのまま華音の言葉を聞いた。

「私が今回雇った護衛よ。見た目は可愛いけれどこれでも忍学の生徒さんたちよ」

「忍学というと忍術に目覚めたものだけが入学できるという?」

「ええそうよ」

「それは頼もしい護衛ですね」

「ふふ、でしょう?東郷社長も一度依頼してみてはいかがしら?とっても楽しいわよ。

三人とも自己紹介しときなさい」

華音にそういわれ順に自己紹介する。

「相沢優雅です」

「遠山優でぇす。東郷ブランドの化粧品すごく好きです!できれば一つサンプルがもらえちゃったりするとうれしいです!」

「こらっ優!すみません姉が失礼を。双子の妹、雅です」

「はっはっは、いえこんな可愛い子によく思われているならこちらも嬉しいですよ。

 わかりました。帰りには一つプレゼントして差し上げます。それから九峰院様から聞いているとは思いますがあらためて、東郷踏矢です。以後お見知りおきを」

 そういって東郷は笑顔を見せる。どうやらすごく優しい性格のようだ。まぁ見た目どうりと言えばそうなのだが、笑顔に少しも嘘が混じっていないという感じがしたと優雅は思った。

「では九峰院様、早速ですが契約内容を確認しましょうか」

「ええそうね。少し長くなると思うから3人はそっちの席にでも座って適当に待っててちょうだい」

 華音がそういうと東郷と何やら真剣な面持ちで話し始めた。

 優雅達は言われた通りにして邪魔にならない程度の小声で話しながら時間を潰した。


 話し合いを始めて二時間、ようやくまとまったようだ。華音が席を立ち、こちらへ寄ってくる。

「おまたせ、もういいわ。ホテルへ戻りましょう」

 その言葉を聞いて3人は席を立つ。

「華音様~、私お腹すいたよ~」

「ふふ、戻るまで我慢しなさい」

 そういわれ部屋を出た4人は車に乗る際、見送りに来ていた東郷がこんなことを言う。

「華音様、明日はささやかながらパーティーをご用意いたしておりますので本契約が終わりましたら護衛の方々もご一緒にご参加いただければと思っております」

「それはありがたいわ。一人食いしん坊さんがいるので」

 華音がそういうと優は、私?てへへ、と自分に指をさして照れていた。


一方、優雅達が乗った車を走らせた同時刻。優雅達から約3キロ離れた地点で優雅達を見て不穏な動きをするものがいた。

「目標が出発した。目標の他に子供が3人。おそらく忍学の生徒だろう。面倒だが各自気配を消しつつ配置につき準備を始めろ。合図はおれが出す。失敗した場合はすぐにその場を離れろ!いいな?」

 どうやら複数人に指示を出しているようだ。


 そんなこととはつゆ知らず、優雅達は車中で会話を楽しんでいた。だがふと優雅が何やら考えているといったように黙り込んだ。

「優雅君、どうしたの?」

優がそう尋ねる。

「いや、ちょっと気になってな」

「何がだ?」

 優雅の言葉にやや真剣な表情で雅が尋ねると。

「車通りがやけに少ないなってな。たしかに日はとっくに暮れているがまだ九時前だ。

 狭い通りならまだしもこの通りでこれはおかしくないか?」

「偶然でしょう?」

「華音様の言うとおりだよ。それに歩行者はちゃんといるんだし」

「いや、それならいいんだが」

 しかし優雅はそれが一番気になっていた。たしかに歩行者はそれなりにいる。それなのにこんなにも極端に車通りが少ないのはおかしい!と。そしてその瞬間優雅は何か殺気のようなものを感じた。

「……まずいな。華音!すぐに車を止めろ!」

「「「え?」」」

 優雅以外の反応は一緒だった。だが優雅は、説明をしている時間はない!すぐに止めろ!とさらに強く言った。


同時刻、不穏な動きを見せていた男が無線のようなものに向かって一言発した。

「やれ!」


 優雅の言葉を聞き、華音はすぐ隣にあった車内に取り付けられた電話をとり叫ぶ。

「じいや!すぐに車を止めなさい!すぐによ!」

直後車は急ブレーキをかけ減速する。そして止まる寸前を見計らって優雅は車を飛び出し天井へと飛び移って右手を胸の前へ構え、言葉を発する。

「風遁忍術、風障壁ふうしょうへき!」

 優雅がそう発した瞬間、車を覆うように渦を巻いた風の壁が現れ、五秒ほどで消えた。

 風の壁が消えると同時に地面へカランと音がする。そこへようやく車から出てきた二人、優と雅が動揺した表情で音のしたものの正体を告げた。

「うそ?これってライフル弾?しかも五発も……」

「狙撃か!どこからだ?」

 音の正体はライフル弾だった。それも五発。うち四発は正確に各タイヤを狙い、残りの一発は運転手であるご老人の額に狙われたものだった。

 そこへ車の天井から飛び降りた優雅が2人に告げる。

「おれは今から一番近い狙撃ポイントへ向かう。二人は華音に付いていてくれ」

「え?ちょっ」

「待て優雅!」

 しかし優雅は二人の言葉を聞かず飛び出した。


 狙撃ポイントへ着いた優雅だったが、すでに狙撃者の姿はなかった。

(逃げたか、どうやらうまく人ごみに紛れたようだな)

 そう考え、優雅は一通りあたりを見回し車へと戻った。


「あ!優雅君どうだった?」

 戻ってきた優雅に優がそう問いかけるが優雅は静かに首を振った。

「そうか……」

 雅が悔しそうな表情をする。

「まあとりあえず一度ホテルへ戻ろう。話はそれからだ」

 優雅がそう言い再び車へ乗りこんでホテルへと戻った。


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