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依頼主

 学園の空間結界から外へ出た優雅、優、雅は此処から一番近い駅へと徒歩で向かった。

 「ねぇ相沢君?優雅君って呼んでいい?」

 歩きの途中で優が話しかける。

「ああ、かまわないよ」

「そか、じゃぁ優雅君、私のことも優でいいよ。雅は?」

「私も下の名で構わない、だが」

 雅が突然歩みを止める。

「はっきり言おう。私はきみを認めたわけじゃない。

 水谷や霧島先生が何と言おうと私はきみの力をこの目で見たわけじゃない。

 任務の足手まといになるようなら学園へ戻ってもらう。それでもいいか?」

 雅の言葉に少し考えるようにして黙った優雅だったがすぐに優しい表情で、

「ああ、それでかまわないよ。足手まといにならないよう最善を尽くすよ」

 と答えた。

「う、うむ。その覚悟があるならいいんだ。そ、その別には私もきみが嫌いというわけじゃない。た、ただチームを組む以上実力のわからないものでは何かあった時にこまるからな。で、では先を急ごう」

 雅はなぜか照れたように答えた。

「素直じゃないなぁもう。ごめんね、優雅君。

 雅も私と一緒でかわいいもの好きだから優雅君のこと嫌いじゃないのはほんとだよ。

 でも性格は私と違って真面目だから」

「それは男として喜んでいいのか? いや、まぁ気にしてないよ。それにいいコンビだと思う。さすがは双子だな」

「えへへ、ありがと。ところで優雅君って字はどう書くの?」

「字?優秀の優に雅だよ」

「ほんとに?じゃぁ私たちと一緒だね!なんか運命感じちゃうね!」

「そうなのか?いやそこまで大げさなもんじゃないだろ」

「ええ~、そこは冗談でも、そうだな。くらい言おうよぉ」

 そういうと優はなぜだか拗ねてしまった。



 駅に着いた優雅達だったが待ち合わせの時間まで二時間ほどあったため、いろいろあって昼食を取り損ねた優雅を気遣って、優の提案で近くのファミレスで軽い昼食をとりながら時間を潰すことにした。まぁ実際は優が、お腹すいたぁ。と言い出したためなのだが。

 そして待ち合わせの五時に駅前で待っていると時間ピッタリに優雅達へ一人の年配者が声をかけてきた。

「失礼ですがお嬢様の依頼を受けられた忍学の生徒様でしょうか?」

「はぁい!そぉでぇす」

 声をかけてきたご老人に対して優が返事をする。どうやらこのじいさんが優雅達を迎えにきた運転手のようだ。

「承知しました。ではお嬢様がホテルでお待ちです。どうぞお車の方へ」

 そういわれ後部座席が先ほど昼食をとっていたファミレスの席より広く豪華なリムジンに三人は乗り込んだ。


 目的地であるホテルは一時間ほどかかったが車内の居心地が格別だったためはっきり言ってもう少しゆっくりでもよかったくらいだ。

 車から降りた優雅は目の前にそびえたつホテルを見上げる。

「でかいな」

「でしょ?私と雅も初めてここへ来た時はびっくりしたよ」

「あれ?優と雅は来たことあるのか?」

「ああ、依然も一度任務を受けたことがあったからな」

「皆様、お嬢様は最上階のフロアでお待ちです。どうぞ中へ」

 そう言った運転手に案内されて優雅達は最上階へとエレベーターで上がった。

 フロアまで出たとき優雅の視界に一人の女性を確認した。

「お嬢様、忍学の生徒様をお連れしました」

 運転手がその場にいた女性にそう告げた。それに対して女性が、

「そう、ご苦労様。下がっていいわよ」

 と答える。どうやらこの女性が今回の依頼主のようだ。

「やっほー、華音様。久しぶり~」

 おいおい、といきなり依頼主に対して馴れ馴れしく挨拶をする優に少々驚いた優がだったが相手の対応を聞いてどこか安心する。

「あら?またあなたたちだったの?よっぽど暇なのかしら?」

「ええ~、そんなことないもん!」

「どうかしらね。……あら?」

依頼主が優雅を見る。

「彼は初めてね?」

「あ、そうだったね。

優雅君、こちら今回の依頼主の九峰院華音くほういんかのん様よ」

 紹介されたのはどこか大人びた雰囲気を漂わせた美少女。

 長い金髪をツインテールで結び、瞳は透き通った蒼。若干スタイルに幼さが見え隠れするがかなりの美少女だ。

「相沢優雅です、……」

 優雅はやや緊張気味に答える。

「ふふ、あなたちょっと硬いわね。

 私の前だからって遠慮はいらないわ。そういうのあまり好きじゃないの。

 それに私はあなたより年下よ」

「は?年下?」

 優雅は驚きの表情を作った。

「ん?知らなかったのか?華音様は雰囲気から大人っぽく見えるが正真正銘一五歳だ」

 一五歳!二つも年下かよ!と雅の発言でさらに驚く優雅。

「どうりで胸がっ……」

「なにかいったかしら?」

 優雅は危うく言ってはならないことを言うところだったが華音からの殺気で何とか踏みとどまった。

「と、ところで九峰院さん、明日の日程はどのような感じなんですか?」

「その呼ばれ方は好きじゃないわ。それと敬語も。華音と呼んでくれるかしら?

 九峰院を築いたのはおじい様で、私はまだそれを継いだお父様から継いだにすぎないの。

 だからわたしは自分の、華音としてこの九峰院を今以上に大きくするまで九峰院と呼ばれるつもりはないわ」

 なるほど、強い信念がこの少女にはある。そう優雅は思った。

それくらいでないといまや日本で各地で名の知れた九峰院をしょって立つことなど一五歳の少女には到底無理だろう。

「それは悪かったよ、華音。それで明日の予定は?」

「……突然呼び捨てなんって少しドキッとしたわ。素直なのね。

 見た目通りかわいいのねあなた」

 いや敬語を辞めろといったのはそっちのはずだが?と思ったが、あれ?名前は敬語に入らなかったのか?と悩む優雅だった。

「明日の予定は夕食をとりながらにしましょう。構わないわね?」

「もっちろん!それを楽しみに任務を受けたようなものだしね」

「それは優だけだ」

 同感。と雅の言葉にうなずく優雅。教員棟での優の、あの依頼主の名前を聞いた時の変わりようはこのためだったのだろう。

 優雅達3人は、依頼主、華音に連れられ最上階スイートルームの一室へと入った。

 そこには4人分の豪華な料理の数々が正方形の、これまた豪華なテーブルに用意されていた。4人はそれぞれ窓際から時計回りに華音、優雅、優、雅の順に座る。

「すごいな」

優雅は目の前の料理を見て思わず声を漏らした。

「でしょ?華音様の依頼を受けるとこれが食べられるからほんと幸せ」

「優、みっともないからよだれを拭け」

「むぐっ」

 そういって雅は体を乗り出し、用意されていた布巾で優のよだれを拭いてやる。

「相変わらずね優。まぁそういうことだから早速食べましょ」

 華音の言葉で真っ先に「いただきます」と言って優が食べ始めた。

 三人は優のそれを見て、やれやれといった感じで料理を食べ始めた。


 雑談をしながらある程度食べ終えたところで優雅は先ほどフロアで尋ねたことをもう一度華音に尋ねた。

「ところで華音。明日の予定を教えてほしいんだけど」

「そうだったわね。といっても夕方まであなたたちは自由にしてていいわ。

 それまで私も部屋で仕事をしているから。依頼した護衛は夕方からよ」

「は?どういうことだ?」

 優雅は華音の言葉の意味がいまいち理解できずそう答えた。

「あら?通じなかったかしら?

 夕方から私は取引先のところへ行くの。それをあなたたちに護衛してもらいたいのよ。

 明後日も大体同じよ」

「つまり華音様、私たちの仕事は夕方からだからそれまでは好きにしろってことでいいのですか?」

「ええその通りよ」

「そんなんでいいのか?」

「いいのよ。同じ年頃のあなたたちに一日中護衛しろなんていわないわ」

 何とも寛大な心の持ち主だ。と優雅は思った。

 確かにその通りだ。いくら高校生の忍術者と言っても、Aランク任務となればそれなりの依頼料を支払わなくてはならない。それなのに一日の半分も自分の好きにしていいとは。

「それじゃ私は明日の取引までにまとめておきたい仕事があるから失礼するわ。

 この階の部屋はどこでも好きに使っていいから」

 そういうと華音は部屋から出て行った。

「……なんかすごい理解のある人だな。あれで年下なんてなんの冗談だ?

 優と雅は一度依頼を受けたんだろ?その時もこんな感じだったのか?」


優雅は華音が出て行ったあとでそんなことを二人に聞いた。

「あ、ああ。だがその時の依頼は買い物の荷物持ちだったからな」

「そんな依頼に学年三位と四位がいったのか?」

「まぁな。なんでも華音様が出した条件が正反対の性格でなおかつ親しい女性二人というものだったんだ。そんなものなかなかいないからな。私たちが選ばれたんだ」

「確かにそうだな。それに優と雅なら条件にぴったり合うな」

「ねぇねぇ、ところで明日どうする?みんなで買い物にでも行かない?」

 そこへ夕食を一人食べ続けていた優がそんなことを言う。

 雅は呆れながらこう優へ言った。

「はぁ~、優…。少しは華音様を見習ったらどうだ?」

「え?なんで?私はいいよ。それより華音様が食べなかったデザート私がもらうね」

 そして優はデザートをとり、おいしいぃ、と言いながら口に頬張った。

 優雅と雅はそんな無邪気な子供のような優を見た後、お互いの顔を見合わせ声を出して笑った。笑うしかなかった。



 優雅は好きに使っていいという最上階のスイートルームを借り、シャワーを浴びて、ふかふかのベットの上でいつものようにイメージトレーニングをしていた。

 以前も話したように忍術にはイメージ力は不可欠だ。これをするだけで忍術の発動スピードや完成度は遥かに増す。また、新術を作るのにも大いに役立つ。優雅はこれを忍術(外気)に目覚めた時から毎日続けている。

 しかしその途中で部屋の外から優雅を呼ぶ声が聞こえてくる。

 扉を開けると優と雅が部屋に用意された部屋着姿で立っていた。

一瞬、二人の格好にドキっとしたが、とりあえず平静を装って用件を尋ねる。

「どうしたんだ?こんな時間に」

 こんな時間と言ってもまだ夜八時を回ったところだ。それほど遅い時間ではない。

 だが、男の一人部屋に美少女二人が尋ねるのはいかにもといったシチュエーションだ。

 おまけにシャワーを使った後なのだろう。2人の肌は火照ったように薄いピンク色に染まり、ほんのり香るシャンプーの香りが、よりいっそう色っぽく2人を染め上げていた。

「ちょっと明日の自由行動の前に交流を深めようと思ってね。お邪魔していい?」

 なんとも大胆な行動力だ。と優雅は思った。

「あ、ああ。いいよ」

 しかし受け入れてしまうところは優雅もやはり年頃の男だ。

「お邪魔しまぁす」

「すまない。優がどうしても行くと聞かなくてな」

「ははは、べつにいいよ。雅も大変だな」

「私にとっては笑いことではないがな。いつも優に振り回される」

「でも嫌じゃないんだろ?」

「まぁそうなんだが……」

 なんとも姉思いの妹だろうか、本当にいいコンビだ。そう優雅は思った。


 優雅は3人分のお茶とお菓子を用意して、(まぁ部屋にあったものだが)テーブルへ置き、ベッドに腰を下ろす。

「優雅くんて男の子なのにしっかりしてるねぇ」

「うむ、お茶を出す手際が妙に慣れている感じだ」

 テーブルを挟んで優雅の前に座った二人がそんなことを言う。

「そうか?まあほとんど一人暮らしのような生活をしてきたからな。

 一応料理もできるぞ?さっきの夕食のようにはいかないけどな」

 優雅は普通だろ?といった表情で答える。

 しかし二人はその答えに驚いていた。

「すごぉい!私なんて料理どころか洗濯も雅にやってもらわないとダメだよ」

 いや、それは威張って言えることじゃないだろう。と、堂々と言ってのける優を見て優雅は思った。

「私だってたいしたことはできないよ。

寮に入ってるおかげで料理をする必要はあまりないしな」

「寮って学園の?」

「そだよ。家、お母さんいないから、お父さんも仕事であまり家に帰ってこないからいっそのこと寮に入ろうとって話になってね」

「そうか、なんか悪いな」

「いや優雅が気にすることはない。どうせ物心つく前の話だからな」

 そんな話で部屋の中が一瞬静まり返ったが、

「そぉそぉ。気にしないで優雅君!それより明日の話をしよう」

という優の絶妙な切り替え?のおかげで辛気臭い空気は一瞬でなくなった。

 そして優雅達は明日の予定を一通り立て、二時間ほどで解散した。


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