伯楽一顧
「さて、遊。この書類に仕事の内容が書いてある。会長として好きなように仕切ってくれ。」
「どーせ今の時期やるっつったらあれしかないけどー。そうそう、俺会計も兼任しとくから。しょむと書いて庶務と読む。」
太郎の無茶ぶりに乗ってみる。表の意向に極力沿うようにとはいえ、裏会長として向かないなら校長にその旨を伝え、切り捨てるしかない。その資質をみるには、この新学期の下らない“表生徒会お披露目パレード”は丁度いい機会だろう。
「それじゃそれに目を通してくれないか。」
「うん。はぁ、光貴のお馬鹿め………はい、終わりました。」
「は!?今渡したばっかじゃん?マジで読んだ?」
「はい。まず、どう考えてもこの人数ではパレードの準備など出来ませんから、外部委託あるいは学園内部での委託機関を作るべきかと思います。その件は校長に申し立てをする方向で宜しいですか?」
ひとつ溜息をついて物凄い勢いでパレードの書類に目を通した遊ちゃんが、顔をあげると別人になっていた。
俺らが驚いている間にスラスラと意見を述べ始める。
「すっげー。遊ちゃん豹変。」
「まあ外部首席の張本人だしな。」
「宜しいですね?」
「「はい」」
有無を言わせないのはどうかと思うが、遊ちゃんは中々しっかりしているようだ。し過ぎていて不安だが。
「田中書記、前年度の概容は分かりますか?」
「こちらに。」
「はい…後、会計の資料も下さい。加賀会計代理?」
「はーい。ねぇ、遊ちゃんってもしかして中学でも生徒会やってたのー?」
「……はい、ここまでは了解です。先程申した増員ですが、外部の方を使っていますね。裏生徒会の存在が内密である事を考えれば、これは継続する方針で良いでしょう。余計な事を申しました。ふむ、少し削る事も出来そうですね。後は…」
資料に相当集中しているようだ。無視…された。寧ろ聞こえていないというのが正しいだろう。太郎も先程とは別の苦笑を浮かべている。
トントン、と紙を束ね直す音がして、遊ちゃんがもう一度口を開いた。
「ごめんなさい!何にも見えなくなっちゃって…新人の私がごちゃごちゃ言っても仕方ないよね!うん、前年度の流れは分かったよ。」
声色といい、言い方といい、先程までの恐ろしい集中を見せていた姿が元に戻り、遊ちゃんはヘラっとはにかみながら(その笑顔は女殺しだと思うんだよな、使える)言った。
「本当は一昨年のとかもあったらもっと分かると思ったんだ。でも、2人は知ってるよね。だからサポートして欲しいんだけど…。」
「「勿論」」
少し困り顔の遊ちゃん。もし最初からこうだったらアウトだが、意図してか知らずか彼女の能力の一端を垣間見せた上で下の意見を聞くのならば上々だ。後は俺は適当にバックアップ、太郎が教育する…と校長及び太郎と打ち合わせしていたが。
「これは逸材だな…俺が教育係やっても良いか?」
ありがとう、と言って資料を読み返している遊ちゃんを尻目にコッソリと太郎に耳打ちする。
「良い訳ないだろう。あれを見て興味が出たのは分かるが、あれは俺のだ。」
「馬鹿、俺のもへったくれもあるかよ。会長は伸びたら絶対面白い事になるぜ?そう思うだろ。」
「加賀様のお手を煩わせるまでもありませんよ。クククッ」
「加賀様言うな」
畜生、腹立つ。クククって何だよ悪玉野郎。新人かったるいとか思って太郎に押し付けた俺ホント馬鹿。
「あのー?株とかの話は後にしよう?」
「株ぅ?」
思いがけず声をかけられた太郎が頓狂な声を上げる。恐らく話の一部が聞こえていたんだろう、さっきからチラチラこちらを窺っているのにも気づいて然るべきなんだが。太郎もまだまだだな。
「いやぁ?違う違う。俺の遊ちゃん超可愛い!って言ってたのさー。」
「…俺の?」
「お前がそこ突っ込むのかよ太郎!遊ちゃんに話してんだよ!」
「はい!私突っ込みます!えーっと……孝介は私と同じ名前の犬を飼ってるんだね!」
しかし平常運転時の彼女のスッとぼけ具合は最早神がかっている。普通の女子はメガネを外して囁くと「きゃー恭介様!私はあなたのものです!」位は言うんだが。ってそれは別にいい。
「そーなんだよ。遊ちゃん見にくる?」
「うん、今度機会があったらお邪魔していい?」
「ック、その機会は多分来ないな。」
「たぁーーろーーうーー!」
「どうしたの…?」
「ゴメンゴメン。そんじゃパレードの打ち合わせしよっか?」
「うん。」
いいねえ素直で。うんうん、まだ能力の伸び代はある、素直、人に傾ける耳もある。空気を読むのも苦手じゃない。ブレイクするのもだけどさ。やっぱ欲しいな…
「まずルートはこの道で…」
「歩行者がいないからその分は要らないな。だが詰め寄せる分を考えて…」
「でもそうすると…」
「だから…」
欲しいどころか弾かれてんだけど俺。何だこの仕打ち。俺は一応バックアップとはいえ一員だぞ。
「だから参加させてー!」
「煩い。」
「この外道!大体お前らの考えてるルートは無理なの!」
「無理なの?」
「そう!ここの大通りでしょ?前年度試したんだけどゴミ処理が出来ないんだよ。それに金にならな…」
叱責するような太郎の視線に凍りつく。しまった。本人が気づくべきルートの不備を指摘した挙句、つい裏生徒会の裏金の存在をバラして…。
「ゴミ処理は補助が出るの?」
「う、うんうんそうそう!校長のポッケから!すまん太郎。」
「煩い。」
「全くその通りデス。黙ります。」
「待って孝介、この道で気になってる事があるんだ。」
「何だ?」
「おい俺にチャンスくれよ太郎。なあに?遊ちゃん。」
「うん、このラインの植え込みなんだけど、朝見たら綺麗に咲いてたんだよ。って事はパレードの頃には萎れてるんじゃないかな?」
「確かに。実は去年春が遅かったから丁度良かったん」
「じゃあルート変更か?」
「太郎…。」
「悪い。ック」
嘲笑された。“遊ちゃんが俺に懐いちゃったし俺が教えるよ大作戦”が看破されたのか、俺の涙ぐましい努力が余裕を誘ったか。後者だろうな、よし作戦に支障はない。
「このルートでどうかな?」
「そこそこ広いしいいんじゃないかなー。てか何でルートから手を付けたの?」
「うん、パレードの車とか衣装とかは本人に聞いた方が良いかなと思って。」
「…本人、ック、は難しいぞ。クッ」
「太郎てめえそんなに死にたいか」
「遊、表の生徒会は実質俺らの奴隷と見做していい。」
「逆じゃないかな?」
「本当はねー。でも俺ら頑張ってるし、面倒な時はあいつらの意見からカットしても別にいっかなーみたいな。」
「良くないよ!一番頑張ってる人達でしょ!」
「一番頑張ってる?俺らだよ。あいつらがいて話が纏まった覚えがねえ。」
しかもこの前のパレードで、何かあったら呼べって言って渡した緊急用トランシーバーから『女うるさーい』とか『腹すいたメシ』とか『うわ男もいる』とか心底どうでもいいこと言ってきてマジあいつらいっぺんしばくわ!緊急用って意味も分からん程阿呆か!
「孝介。気持ちは分かるが落ち着け。」
「でもさ、例えば、顔合わせの時に聞いてみれば良いんじゃないかな?」
「ま、遊ちゃんが良いならどうぞーって感じ。俺らはついてくからさ。」
「そうだな。遊が責任者なんだから好きなようにやれ。」
「じゃあ今度席を設けてみます。」
あーあ、大丈夫か?何の足しにもならん気がするが、まあ今回は好きなようにやって貰おうか。
伯楽一顧
意 味:伯楽(馬のバイヤーさん?)が目をかけることによって名馬が見出されることから、賢者が名君・賢相に見出されて重用されることのたとえ。また、世にうもれていた人が、実力者にその才能を見出され力を発揮すること。
大袈裟なタイトルつけちゃいました。
すっかり言い忘れていましたが、感想など頂けたら跳ね回って喜びます。後、コレはねーよみたいなご指摘もお待ちしてます。即訂正します。