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5 サラと黒の衣装

 その日、町中に憲兵がうろうろしていた。

 前日までと様子が違う町を馬車の中から、サラはじっくりと眺めていた。

 けっきょく毎日、午後からロドリゲスの屋敷に通ってアレックスと剣の稽古をしている。

 

 最初は腕力が無いのが悩みで、修道院へ帰ると腕立て伏せやバーベル上げなど、筋肉トレーニングに励んだ。その結果、今では剣を軽々と振り回せるようになった。


「今日は、町の中に憲兵が多いが、どうしたのですか?」

 サラは御者に尋ねる。


「はい、それが、何と言うかァ……そうそう、赤の怪盗とかいう盗人が、シドニア公爵家の王様より拝領の水差しを盗むと、予告をしたそうです。それで、ああして騒いでいるという訳です」

「赤の怪盗?」

「はい、王様からの拝領の品を盗まれでもしたら、大変なことになるのではないかと。今、王様の側近でもかなりの権力を有するシドニア公爵様ですからね。その影響は計り知れないものがあると思います。ロドリゲス様も怪盗狩りに徴収され、出かけられました」

「そう、ロドリゲス様も……では、アレックス様も?」

「……いえ、それがアレックス様にはまだお声が掛かりません、アレックス様では……」

「……役に立たないと?」

「いっ、いえ、そっ、そのようなことは……」

 御者は慌てて否定した。

 そして、それから御者は黙り込んだ。アレックスに知られれば、どうなるか、分かったものではない。


 いつものように屋敷へと馬車は入り、サラを下ろした。


 サラは見事な金髪を一つに束ね、稽古用の服に着替える。

 アレックスは浮かぬ顔で、中庭に立っていた。


「アレックス様、どうなさいました?」

「いや、さあ稽古を始めよう」

「それでは……」


 剣を交える、サラはしなやかな動きでアレックスの剣をかわす。

 アレックスは力で押そうとするが、サラのしなやかな剣はアレックスの力を吸収する。

 そして、見事にアレックスの剣を彼の手から天高く、はじき飛ばした。

 剣は庭の石のぶつかり、金属音が響く。


「……!」

 アレックスは唖然とした。

 女に負けた、しかも修道女だ、いつの間にサラはこのような技を習得したのだ?


「アレックス様、どうなさったのですか? そのようなさまでは、赤の怪盗は捕らえられませんよ」

「馬鹿な、なぜサラに負けるのだ……」

「あなたが、わたしを女だと思っているからですよ、力が無い分、わたしはあなたの力を包み込むよう考えて練習しました、あなたは力で押すことばかり考えていた筈です」

「……お、女には、他の役割がある、もともと剣など振るうものではない、父上は一体何を考えているのだ!!」

「八つ当たりですか?」

「馬鹿にするのか?」

「アレックス様、あなたはすぐに人を値踏みする癖がある、人は見かけによらぬものです、それをお心に留めておいて下さい」

 

 ロドリゲスが睨んだとおり、サラは思慮深く冷静な判断ができる、アレックスに無いものを持っていた。


「女はダンスができればいいのだ、剣など……」

「アレックス様、ダンスも苦手ではありませんか、どうにもこうにも……」


 ロドリゲスの屋敷へ通うようになり、彼はサラにダンスのレッスンもさせていた。

 もちろん、アレックスも一緒に。

 たしなみとして。


「ああ、面白くない、父上は盗賊狩りなどと、悠長にしておられる」

「まあ、悠長ではありませんよ、もし、本当に盗まれるような事があれば、お城は大騒ぎですよ。ロドリゲス様にも火の粉が飛んできます」

「父上の事だ、何とかなさるだろう」


 アレックスは落ち着きを取り戻し、紅茶を運ばせた。


「ところで、サラ、その怪盗というものを見に行かないかい?」

「……怪盗ですか?」

「ああ」

「ですが、これからわたしは修道院に帰ります、それから修道院を出るのは……」

「僕は面白い物を持っているんだ、仮装パーティー用のものだけどね……」


 アレックスはこっそり自分の部屋へサラを招き入れた。

 サラもどうしようか迷ったのだが、アレックスなら大丈夫だろうと、彼の部屋へと入った。

 アレックスは部屋の鍵を掛けた。

 サラの目が大きく開いた。男性の部屋に入ったのは初めてだった。


「大丈夫だよ、誰かに見られたら大変だ、うるさいからね」


 アレックスは部屋が一つ入るくらいの大きなクローゼットから、大きな衣装箱を引っ張り出してきた。

「これだよ、サラ、これなら、こっそり修道院を抜け出して怪盗見物ができる」


 衣装箱の中には黒い仮面に黒いマント、黒のロングブーツ、黒のシャツ、そして黒のショートパンツだった。

「ちょっと、着てみて、クローゼットの中が広いから」

「……これを?」


 サラはためらった。

 ショートパンツが短い。

「タイツは無いの? このまま履いたら、あ、足が出てしまうわ」

「……うーん? 無いね」

 衣装箱をがさがさと探し、アレックスはアッサリと言った。


 仕方無く、サラはクローゼットの奥で着替える、アレックスに絶対覗かないと約束させて。


「でも、サラはあれだけ思慮深いのに、こういう事には疎いんだ」

 とアレックスは独り言を呟いた。


 そう、今、アレックスが立っている所からは鏡に写ったサラが見えた。

 何枚もの鏡に写し換えて、サラが見えたのだ。


 これは後日、サラにばれて、アレックスはこっぴどい目に合わされる。

 だが、この時点ではそれにも気付かず、ニタニタとしているアレックスだった。


「どお? やっぱり、恥ずかしいわよ」

 

 黒ずくめの衣装に長い金髪、サラの太ももがさらけ出され、アレックスはごくりと唾を飲む。

 何とも色っぽい。


「いいんじゃ無いの? どうせ、夜だし、誰にも会うことは無いんだから」

 アレックスはあっさりとサラの姿を肯定した。


「そお? ならいいんだけど」


 鏡は見たのだろうが、少々、そういう事には疎いサラだった。

 

 



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