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4 仮面の男とナタリア

「ナタリア、鳩が飛んで来たよ!!」

 ルーカは興奮したように鳩を追いかけた。

 鳩は、ほんの少し開けた家の窓から入って来た。


「駄目だよルーカ、追いかけちゃ、ほら、家の中が鳩の羽で散らかるだろ?」


 追いかけるルーかを嗜めてはいるが、ナタリアも面白がっている。

 鳩はナタリアへと近付いて来る。ナタリアは鳩の足に付いている手紙を取り、また、家の窓から鳩を逃がした。


 これが、例の仮面の男と連絡を取る方法だった。

 ナタリアの方からは連絡は取らない、何て身勝手な男だろう、ナタリアは憤慨したがそのような意見が通る筈も無く、負けたのはナタリアの方なのだから。


「ナタリア、なあに? それ、手紙なの?」

 ルーカは不思議そうにナタリアの手元を覗き込んだ。


「ルーカには関係ないんだ、読んだら駄目だよ!」


 ナタリアは手紙を上着のポケットへ、荒々しく突っ込んだ。


 ルーカは彼女の本当の弟だった。両親は早くに亡くなり、如何にか二人で生きて来たのだ。誰も当てには出来ない、生きるのに必死だった。

 だからこそ、博打をやった。今まで大きな負けなど無かったから。


「ルーカ、隣のおばちゃんの所へ行って、晩ご飯、頼んでおいで、お金はやるから。あたしは、これから出かけなきゃ、なんないんだ」


 そう言ってナタリアはコインを二枚、ルーカに投げる。


「うん、分かった……でも、何処に行くの? ナタリア?」

 不安げな眼差しで、ルーカはナタリアを見上げた。

 ナタリアはそんなルーカが、何時も愛おしかった。


「内緒だよ、隣のおばちゃんにもね、勿論、鳩の事もだよ……しーいっ!」

 ナタリアは人差し指を自分の口に立て、眉間に皺を寄せ、ルーカを威嚇する。


「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。僕、そんなにおしゃべりじゃ無いもん!」

 ルーカはふて腐れたように、床を蹴って見せた。


「分かった、ルーカを信じるよ、じゃあね!」

「うん、ナタリアこそ、気をつけてね!」


 ルーカは無邪気に笑った。

 頬に出来たえくぼが彼の可愛らしさを引き立てる。




 ナタリアは最初に仮面の男に出会った、居酒屋の二階に向かった。

 居酒屋の亭主は承知しているらしく、顎で二階を示唆する。

 ナタリアは無言で二階へと上がった。


 そこには例の仮面の男が既にナタリアを待っていた。


「遅いじゃないか」

「……遅いって、鳩が来てから直ぐに家を出た、おまえに言われる筋合いは無い!」

「まあ、良いだろう」


 男はそう言うと、大きな袋をナタリアに投げた。

 袋はドサッと音をたて、埃をたてる。


「……これは何だ?」

「これか? これは、おまえの衣装だ、その汚いなりで動かれたんじゃ、おまえだと直ぐに分かる」

 男はそう言って、酒を飲んだ。


 ナタリアは不承不承、袋の中を覗き込み、衣装とやらを取り出した。


 それは赤い仮面に赤いマント、赤いロングブーツ、赤いシャツに、そして赤いショートパンツだった。


「これは如何謂うことだ? ショ、ショートパンツって……」

「あ? 悪かったな、揃えさせたのだが、赤のタイツが無かった。サイズが子供用だろ? ショートパンツしか無かったようだ」


 男はヌケヌケと言った。

 ナタリアは顔を真っ赤にして、立ち尽くす。

 何処まで人を馬鹿にしたら良いのだ。真剣、張り倒そうかと思ったが、何とか、思い留まった。


「で、何処の誰のお宝を狙うんだ? そして、借金からどのくらいの金額を差っ引くんだ?」

「借金の返済は、少しずつで良い、金が要るなら、先にやっても良い。だが、今までのように、博打をやるのは止めてくれ。何で足が着くか分からないからな」

 

 仮面の男は前金だといって、皮袋をナタリアに渡す。

 それだけあれば、借金が消えるのではないのかと思える程の金だった。


「こんなに……? 借金はもう、この金で帳消しだろ?」

「無理だ、借金の帳消しは出来ない、この金を受け取った時点でまた借金は増えている、そうだろ?」

「ば、馬鹿な事を言うな! ならば、この金は要らない!!」

 

 ナタリアは金の袋を床に投げつけた、中から銀貨が躍り出る。


「いや、秘密を知った以上、逃れられないのさ」

 男は天を仰いで笑った。

 狂気だ、いや、嵌められた、ナタリアは焦る。


「ナタリア、悪いようにはしない、手伝えば、裕福に暮らせるんだ」

「……何が、裕福だ!!」


「まあ、そんなに熱くなるなよ、それより、狙うお宝が知りたいだろ?」

「……」

「シドニア公爵家が王から拝領した、王家の紋章入りの水差しだ」

「……? そんな物を盗んでも、簡単には売れないぞ、本当に大丈夫なんだろうな?」

「ああ、盗んだ後は俺がやる、おまえには関係無い」

 男はコップに入った残りの酒を一気に呷った。


「……分かった、それで何時やる?」

「明日の晩だ、明日の夕刻、此処へ来てくれ。正確な時間はまた、鳩を遣る」

「ところで、あたしはあんたの事を何と呼んだらいいんだ?」

「任せるよ、何でもいい。だが、知らないなら……呼ぶな! 迷惑だ!」


 男は口を歪め、ニタリと笑った。

 だが、仮面の下の目は笑っていない、奇妙な光景だった。


 確かに男を呼ぶ必要も無いかもしれない、ただ、得体の知れない態度のデカイ男は苦手だった。

 





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