序
夜の闇の中、石畳の町を赤の怪盗が走り、それを追う黒の騎士。
赤を黒が追いかけ石畳の町を走り回る、それはルーレットを連想させる。
赤の怪盗は名の如く、赤い仮面に赤いマントを翻し、赤尽くめの衣装だった。栗色のカールした髪は肩まで伸び、身体は華奢で、女のようだった。
貴族のお宝ばかりを狙う怪盗で、最近、この国を騒がせていた。
黒の騎士もやはり黒尽くめの衣装で、黒の仮面に黒のマント、こちらは美しいブロンドの髪を黒のリボンで一つに結び、やはり女のようだった。
だが、黒の騎士はもう一人いた。仮面やマントは同じだったが、こちらは背がスラリと伸び痩せ型ではあったが、鍛えられた肉体をした男だった。髪は暗い栗毛だ。
逃げる途中で赤の怪盗がもう一人増える。
今度は金髪の男、仮面もマントも女と同じ、その男は女が盗んだ品物を受け取ると、また路地へと消える。
そして、いつしか女のほうも路地へと吸い込まれたように居なくなってしまった。
「また逃げられた! 逃げ足の速い奴だ!」
黒の騎士の男のほうが悔しそうに嘆いた。
「ああ、いつもこの辺で逃げられる、何かある、調べてみてくれ」
やはりブロンドの髪のほうは女だった。
声は細く高い女のものだ。
「分かった、だが、今宵掴んだお宝が偽物だと気付いたら、腹を立てるだろうな」
男は面白そうに言った。
だが、男のその言葉に
「ああ……」
とブロンドの髪の女は気の重そうな相槌を打っただけだった。