エピローグ 鳥達は飛ぶ
今日はゲンとゴフレードの死んだ日。宇宙船をこの手で殺した日。そして、今の宇宙船が生まれた日だ。私はあの時、船長としてはあまりに未熟だった。あの時と同じ失敗をしないために、ゲンとゴフレードのために今日は祈ろう。
「早く準備しなよ、ラノミナ。船長が待っている」
「もう! まだ準備が終わって無いからちょっと待って!」
ラノミナはすっかり元気になった。セノアーの忍耐強い介抱があったお陰だ。時々、寂しい顔をしていることがあるが、それもいつしか消えるだろう。
ゲンの使っていた道場らしき空間。そこを私達は墓地に改造した。ゴフレードに教えてもらったイメージで作ってみたが、これで良かったのだろうか。もし、形や埋葬の仕方が間違っていても、弔う気持ちが込められているならばそれで良いのだろうが。
「リィリス船長~ やっと来ましたね。遅いですよ」
ミュエネは相変わらず優しい。あれだけ酷いことがあったのに、皆立ち直れたのはミュエネのお陰だ。一時期、ナタークがご執心だったが、柔らかい言葉で手厳しく拒絶しているのを何度も見たので、おそらくは振ったのだろう。
そのナタークは…
「やめて! 止めてくれよ! 髪が痛い! 痛いから」
コリュがナタークの髪の毛を弄ろうと触る。振り払うと一秒くらいは止めるが、すぐに手を伸ばす。
「ふふっ。コリュちゃんが懐いちゃったみたいですね。いいのですか? コリュを盗られてしまって」
「駄目っ。なんであんなへなちょこに懐くのよっ! 私もくしゃくしゃする!」
リィリスは駆け出す。ナタークの髪をぐしゃぐしゃにしてやる。二人だけで楽しそうにするなんて許せない。コリュとは私が遊ぶんだから。
「船長は子供だなぁ」
セノアーが呆れて呟く。その声を聞き逃しはしなかった。
「だれが子供だってっ!」
ゴフレードとゲンの死体は見つからなかった。だから、ゲンの方は部屋に残されていた木刀、ゴフレードの方はラノミナが貰っていた前の宇宙船のネームプレート、を墓標の下に入れた。
全員集まって手を合わせる。ピンクのユニコーンはもういない。コアニーも一緒に居なくなった。データの断片からコリュが作り直そうと試みたが、駄目だったらしい。コリュはまだ諦めていないそうだ。人工子宮の制御プログラムをコリュが作ったから、来年くらいには新メンバーが完成するかもしれない。メンテナンス装置が復旧するまで、人はいくらいても居すぎることは無い。
「さあ、行こうっ!」
墓標を背にして叫ぶ。後ろばかり見ていられない。私達は、自分の足で立つのに忙しいのだから。