憧景
照明を消した部屋の中、静か呼吸をしながらラノミナは過去をなぞっていた。つい最近まで続いていた、沈鬱な灰色の日々。
ユニがあんな風になってしまってから、駄目になってしまっていた。落ち込んでいてはいけないことがわかっていても、感情がどうにもならなくなって、皆を傷つけた。
「でも、ゴフレードが変えてくれた」
振る舞い、動作、陰のある笑顔。全てに心が高鳴った。
苦しいようなこの想い。嫌じゃない。
もし、陰鬱で不気味なあの宇宙船を探索していなかったら、
ゴフレードを見つけることができなかったら。
私はここに、このようには居られなかった。
「…ありがとう」
ラノミナは感謝した。ゴフレードに、出会えた運命に。
幸せだった。確かな幸せだった。
もっと近づきたい。あの人に。
時折みせる影のある表情。もの想いにふけっている時の不安そうな顔。
そんな部分まで全部好き。
恋というものがあるのなら、こういう感情を言うのだろう。
「明日も会いに行こう…」
◆◆◆
眠れず電灯をつけて研究資料を確認する。
「こんなことより寝た方がいいよな」
セノアーはそう一人ごとを呟いた。
起きていれば想うのはラノミナの事ばかり。自分と同じ銀の髪。澄んだ瞳。強気な態度や言葉。みんな好きだった。
そのラノミナは最近この宇宙船に来たゴフレードに夢中だ。ゴフレードは悪い奴じゃない。自分が知らないことも知っていて、話も面白い上、態度も紳士的で、寧ろ完璧な人間だ。
自分より男として数段上だよな…。
そう思うと、心臓のまわりが麻痺したような感覚がしてきた。
「研究資料の確認1つしか終わってないじゃないか」
集中力がまるでない。手は完全に止まっていたようだ。やはり、さっさと寝るべきだ。
こうなることは予測できていた。
自分はラノミナの幸せだけ望んでいた。
ラノミナは幸せになった。
いいじゃないか。何が問題なんだ。
自分の気持ちはわかっていた。何が問題かもわかっていた。
でも、それを認めて言葉にするのが怖かった。
怖いから、わからないままにしておきたかった。
この物語は恋愛物語ではないのです。ちなみに私の恋愛経験は片思い1回だけです。その他には、好かれてご飯に誘われて、その後すぐに振られるという奇妙な体験をしたこともあったけど。
あ、読者にとってどうでもいい情報を書いてしまった。ごめんなさい!
あ、ちなみに、僕は変な人です。