ハイイロタマゴ 6
剣術ちうのは死ぬことを生きることに変える術のことや。どないな状態でも身一つで、ぜええんぶひっくりかえすってことなんや。でも、この静寂に包まれた宇宙船の中では使う機会はないやろな。残念やな~
~ ゲン・オイスター・アカツ ~
轟音の鳴る機械室を歩く。
この「ソラノタマゴ」は無数の機械から成り立っとる。点検すべき項目はどエライ沢山ある。朝から晩まで点検して回って、やっと終わるくらいや。
わてはこの宇宙船の整備士。他の乗組員とはちゃう、ちびっと特殊な立場にいる。わての父親も、わても、ツミワラ・カンパニーの技師なんや。この宇宙船は「見えざるピンクのユニコーン世界教会」によって発注されたもので、そのせいか最初の乗組員は全員「信者」ということになっとるんや。
でも、ウチのご先祖様は、宗教とは無縁のただの会社員だったらしいんや。なんでも、会社の命令らしいんや。全く、難儀なことを請け負ったもんやわ~
信者とちゃうっちゅうことで、ミドルネーム「オイスター」を名乗ってるんや。なんでも「見えざるピンクのユニコーン」と敵対する存在のことらしいんやが、なんのことだか、わてにはさっぱりわからへん。
ふと今歩いている通路の近くに、「人工保育システム」があることを思いだした。技師である父親は、「人工保育システム」を変則的に操作し、クローンに近い形で「ゲン・オイスター・アカツ」を誕生させたのだ。
久しぶりに「人工保育システム」に触れてみる。
「ほんまになんでここまでして、この宇宙船の整備をしなかんねん!」
でも、自分も父親と同じことをして、この終わらない仕事を継続させるだろう。なんだか、不思議とそんな気がした。
「まあ、整備ゆうても、な~んも起らんし、故障もせいへんしな。楽なもんや。ささっとやってしもうて、のんびりしよ。」
ここまで何世代も賭けて続けるに足る仕事なのだろうか。仕事だから命を賭けるのか。そんなしょーもないようなことを考えながら、今日も機器のチェックを終えた。