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宇宙の卵(ソラノタマゴ)  作者: しゃくとりむし
第3章 心を求めて [前編]~ゴフレード~
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嫌われもの

その男は嫌われ者だった。


何かにつけて悪態をつき、人を貶めて自分を称賛すべきことを語った。意味不明な言いがかりをつけていつも誰かに怒っており、傷つくような事を敢えて言うため、皆、彼を憎んでいた。そんな状況にも関わらず、自分では自分は親切で良い人間だと思っているのだった。



ゴフレードも、その男に散々絡まれていた。傷つくような事も2、3度言われた。周りの同僚にはこの男を無視する者も多かったが、ゴフレードはそうはしなかった。この男にとって、唯一、そうのような行動だけが、人と関わる方法だということを知っていたから。喧嘩をしたいのではなく、人恋しいだけだとわかっていたから。



しかし、ほとんどの人間達は、彼を憎んでいた。




◆◇



ある時、ゴフレード達は宇宙船の装甲をメンテナンスするために、船外活動をすることになった。



メンバーは、ゴフレードを除き5人。その5人の中に、悪態をつくあの男が混ざっていた。




皆、黙々と作業をする。




下手な会話をすると、あの男に絡まれるから。














ゴフレードはスパナで装甲板を固定していた。その時、後ろから声がした。



「おい。ゴフレード!お前は馬鹿か! 装甲板を固定するボルトはまず、4点を軽く留めてからきつく固定するんだよ!お前のそんなやり方じゃ装甲板が歪むだろが!」



「は。はい」



いつもの事だ。ゴフレードは適当に返事をして作業を続けようとした。

あの男を見ないようにして、装甲板に手を伸ばす。



手の上に足が乗った。



一瞬何が起こったのかわからなかった。



「重いし、痛いです。止めてください」



「はあ?痛いだと?センサー切り替えできるんだろ?お前は人間じゃないし、壊したところで修理できるんだろ?機械の分際で俺様に反抗するのか!」



「止めてください…」



ゴフレードは他の4人の顔を見た。どの顔もこの男への憎しみに溢れているように見えた。



こんな馬鹿なこと、続ければ続けるほど、皆嫌うようになるだけなのに…



「やめてください!」


自分の心配がこの男に伝わるように。そう祈ってゴフレードは俯きながらもそう叫んだ。



「お前の命令なんぞきくか!」


男はそう言って何度も手を踏みつけた。



「やめてください」



ゴフレードはそう言って目を閉じた。




急に手を踏みつける足が離れるのを感じた。


「うっ。貴様っ!!」



ゴフレードはゆっくり目を開ける。



目の前の男の宇宙服の中は血まみれだった。男の後ろには、さっきまで憎しみの目つきでこの男を見ていた同僚達がいた。その手には先の鋭く尖ったナイフがあった。



「ゴフレード。大丈夫か。」



「そ、それよりも! こんなことをして! 早く助けなければ!」



「やめとけ。殺すためにやったんだ。皆、同意済みだ。」



「皆が認めたって、駄目な事は駄目なんだ!」



「悪いことだとわかっている。 だが、こいつは死んでもらう。」



強いに憎しみがこもるその目に対して、ゴフレードは言い返すことができなかった。



この後、4人は交代でこの男を一刺しづつ、刺した。皆で罪を共有するかのように。





「ゴフレード。お前もだ」



「えっ。私もですか」



「そうだ。皆、やりたくないことをやっているんだ!お前だけ逃げるのか」



血が付着したナイフが渡される。





できるわけがない








死んだはずの男の口元が微かに動いている気がした。男のヘルメットに顔を急いで近づけた。




口が微かに動いている。




急いでヘルメットに耳を当てる。



微かに声が聞こえた。



「殺してくれ… お前が殺してくれ… お前だけが俺に優しかった… 俺を… 」




ゴフレードは、後ろで立っている4人を睨みつけた。



誰が、この男をこんな哀れな状態にしてしまったのだ。自業自得。それはそうなのかもしれない。この男の不幸を思うと、胸が苦しくなった。



… 弔ってやる。 せめて、死 だけは望み通りのあり方で。



宇宙服は簡単に破れ、ナイフが筋肉組織を突き抜けた



ナイフから痙攣の振動が伝わり、男は息絶えた。






◆◆◆






絶命した男を、5人で宇宙へと放り投げた。男はゆっくりと宇宙船から離れていった。ヘルメットの中は血でいっぱいで、顔は見えなかった。ゴフレードにとって、それが唯一の救いだったのかもしれない。




宇宙船内に帰っても、誰も追及しなかった。同じ罪を犯した4人もこの話はしなかった。






自分の汚れた手を見て、心に抱いていた確信を何度も呟く。



「私にゴフレードという名は相応しくない」







内向的になった機械仕掛けの青年は、徐々に社交性を失い。周りから孤立していった…









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