正しき日々
-この世界で生きはじめてから、3年が経った…
腕から、コードや破れた人工筋肉が垂れ下がっている。
「全く、どうやったらこんな風になるんだ!」
ひげ面のもさもさ頭が、コードを繋げながらそう言った。
「痛くはないのか?」
「ええ。感覚器官を停止させていますから。大丈夫です」
「そうか。でも、無茶をしすぎだ。痛みは無くともダメージはあるからな」
ひげ面の男は顔を上げた。
「で、今日は何があった?」
◆◇◆
ゴフレードは、仲の良い同僚とともに、機関の整備にあたっていた。
「おい。ゴフレード!スパナとナットを取ってくれ」
この日の作業は、ベルトコンベアのベルト部分の交換だった。マニュアルに書かれた手順に従って、部品を一つづつ外していく。慣れた作業、使い込んだ道具。
「この作業が終わったらランチにしよう。でも、お前は食べれないんだったけ?」
「気にするなよ。午後の作業がはじまつ前に道具を整備しておきたいしさ」
「そうか悪い」
ゴフレードは会話をそこで止め、目の前の作業に集中した。緩めたボルトを静かに外した。
…
2人でベルトを外し、新しいベルトを装着した。
「よし。これでいいな。新品はキレイだ」
同僚は笑顔で手をパンパンと払ってから道具を片付けはじめた。ゴフレードもちょっとした達成感に浸りつつも片付けを始める。
「お。こっちの機械。汚れてんな~。新品を見た後だと、なんか気になるな」
そこには使われているかも怪しげな、薄汚れた機械があった。交換したベルトよりさらに更に古いベルトが装着されたままになっている。機械の奥に、ピラピラとした紙が挟まっているのをゴフレードは見た
「なんだこれ?」
同僚は手を伸ばした…その時機械が動き出した!
「おい!やめろ!」
ゴフレードは叫んだが間に合わない。ベルトを駆動している回転体がゆっくりと手を巻き込んでいった。
「うあわああ!!」
声にならない声をきいて、ゴフレードは焦った。なんとかして機械を止めなければならない。
… 電源? そんなの知らない。
… 腕を引っ張るか?
次の瞬間、ゴフレードは機械の中に腕を突っ込んでいた。。
痛みの間隔をオフにする。
古ぼけた機械は、ゴフレードの堅い体までは巻き込めずに止まった。
「だいじょうぶか。」
「あ。ああ。大丈夫だ。ありがとう。それよりもお前の腕…」
◆◇◆
「そうか。そんなことが」
ひげ面の男は大きく頷いた。
「その行為は立派だ。ゴフレード。お前の精神が行為に示されている」
ゴフレードは、思いがけず褒められて目を大きく開けた。
「ゴフレード。覚えておけ。この今の穢れなき自分の心をな。時が経てば経つ程、心の上にも塵が積もる。曇った心で、悪いことも考えるようになるかもしれない」
「私が悪事など…」
ゴフレードは首を横に振った。
「いいから聞け。いつかわかるさ。でもな…もし、塵が積もっても、塵を拭き取れば、今のような澄んだ心がでてくるんだ。それを、それを絶対に忘れるな」
「…は。はあ」
ゴフレードには抽象的過ぎる話で理解できなかった。
「お前は正しい心を持っている。私が、そのように作ったのだからな」
ひげ面の白衣の男は、そう言った後、笑った。
そして、楽しそうな表情で腕の修理を進めていった。