赦しの秘跡は願わない
コリュと一緒に部屋へと戻る。何を話せばいいんだろう。こんな時は。コリュから相変わらず表情が読み取れない。やっぱり、失敗を慰めるべきなのかなぁ。…いや、ここは関係の無い楽しい話題がいいかも。
リィリスがそんなことを考えていたところ、並んで歩いていたコリュが急に言葉を発した。
「船長。あのね。。」
「えっ!何っ!」
「いい。やっぱり。」
急にコリュに声をかけられて、びっくりしてしまったことをリィリスは後悔した。せっかく、コリュの方から声を掛けてくれたのに。
「コリュっ。なんでも話して。私は絶対にコリュの味方だからっ。」
コリュの方を見ると、なんとなく目が潤んでいるような気がした。あれだけ嫌なことがあったんだ。ここでコリュを受け止めてあげないと、ずっと離れてしまう。そう思った。
「…」
コリュは俯いたまま何も話さない。
「一人で抱え込まないでっ。話してっ。」
リィリスはそう言ってコリュの手を握った。
「あのね。今日。ラノミナの事。裏切った。」
コリュは訥々と話だす。前を向いたまま、目を合わせずに。
「そうね。…でも仕方なかったよっ。コリュ。はじめから成功するとは限らないことはわかってたんだし。」
コリュは首を横に振った。
「そうじゃない。そうじゃない。 最初からユニを人形にするつもりだった。…」
「そんなっ。」
薄々はそんな可能性もあるんじゃないかと思っていた。ユニを消そうとしていたくらいだから。でも実際にコリュがこんなに酷いことをするなんて。嘘をついていたなんて信じられなかった。
「ラノミナが傷つくこともわかっていた。わかっていたけど、ミスリードした。それが一番効率良く皆を守れる方法だと思ったの。…でもあんなにラノミナが苦しむなんて。」
コリュやゲンは全員の利益のために動いた。それが正しい行為だということはみんなが知っていた。それを、だれが咎められるだろう。コリュは正しい選択をして苦しんでいる。
「こうなること、頭では十分わかってた。和解できる程度で事態が終わることも全部予想していたんだよ。ラノミナが恨まずないことも全部。わかっていたのに。私、凄く…苦しい…の。」
…やめて。もう、やめて。苦しむ姿はもう見たくないっ。
リィリスは動揺を隠して、少し明るめな声で慰めた。手から感情が伝わらないように必死で抑える。
「コリュっ。コリュも十分苦しんだんだし、もういいよっ。済んでしまったことだし仕方が無いよ。もし、気が晴れないなら、ほとぼりが冷めてからラノミナのところに謝ろう。私も一緒に行ってあげるからさっ。」
コリュは唇を噛み、呟く。
「仕方なく無い。謝っても私のしたことは無くならない。済んでしまったことでも酷いことをしたことは変わらない。 どんなことをしても、何をしても、悪いことをしたことは私から離れないの。」
あまり感情を表に出さないコリュが、苦しみをこんなにも吐露している。コリュは、コリュの考えうる選択肢の中から、ベストを選んだだけ。それが苦しい方法だっただけ。誰もコリュを責めたりしない。悪かったなんて言わない。ラノミナでさえ、それはわかっている。
それでもコリュは自分を責めている。
リィリスは、コリュの苦しみを少しでも無くしたいと思ったが、考えを巡らせても、何もできないことがわかっただけだった。
どうしようも無い感情に苛まれ、リィリスは握った手にちからを込めて、ぎゅっと握った。
… 私って、どうしようも無い船長だなぁ。何一つできることが無い。皆を傷つけてばかり。
こんな苦しいこと、コリュにさせて、慰めることすらできない。
…
…
コリュの部屋の前。コリュの手はすっと離れた。
リィリスは「元気だしてねっ。」と手を振ったが、コリュは頷いただけだった。