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宇宙の卵(ソラノタマゴ)  作者: しゃくとりむし
第2章 船長の風格 ~ リィリス ~
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壊れないために 3

「よっと。これでええんか?」


ゲンが換気口の格子の上に更に金網を被せ、針金で固定している。


「お~い。こっちもできたよ~。」


ラノミナが手を振る。ラノミナは、入口を封鎖するようにテーブルや棚を並べた。それも布と紐で固定する。



これは何?…なぜこんなことをする必要があるの?バリケートのようだけど…


コリュは、非常に集中して端末から何かを入力し続けている。ウィンドウを時々睨みつけるようにみながら。


…話しかけづらいなぁ。でも、気になるし…


「コリュ。なぜ、こんなに厳重な封鎖が必要なのっ?何をそんなに怖がっているのっ?」


勇気を振り絞って話かけてみたけれど、返事が無い。やっぱり邪魔しちゃってるのかも。怒って返事してくれないのかなぁ。




「…念のため。」


やっと答えてくれた!じゃなくてっ、


一言じゃわからないよ。質問に答えてよ。コリュっ。


「どういうことっ。ねえっ。はぐらかさないで教えてっ。」


コリュは俯いたまま答えた。


「嫌だ。言いたくない」


「コリュっ~。なんでだめなのっ!」


リィリスは叫びながらコリュの体をゆさゆさと揺らした。



「リィリス船長。遊んでないで手伝ってくださいよ。コリュの邪魔をしちゃいけませんよ。」


ナタークはそう言い、コリュからリィリスを引き剥がした。


「だって~っ。理由を全然教えてくれないんだもん。」


「さっき、散々みんなで訊いても教えて貰えなかったんだから、訊いても無駄ですよ。コリュさんは頑固だから。諦めましょう。」


「え~。」


コリュが作業の手をピタリと止めた。


「作業が完了。」



◆◆



コリュの周りにみんなが集まった。ユニはラノミナの腕に抱かれていた。


「やるよ。成功するかどうか。わからない。それでもいい?」


みんなは頷いた。


「いいよっ。やってっ。」


コリュはボタンを一回だけ押した。




ユニのグラフィックが一瞬消えて、コリュの前に、床面に立った状態で現れた。


「… ユニ!」


ラノミナが走り寄った。ユニに触れようと伸ばした手は、届かないことを思い出して引っ込めた。


「良かった!これで、あなたは消えずに済むわ!そうでしょ、コリュ!ゲン!」


コリュは頷いた。


それを見たラノミナは中腰でユニに話しかけた。


「さあ、一緒にお部屋に帰りましょ。沢山遊んであげるからね。」


しかし、ユニは動かなかった。


まるでラノミナのことを覚えていないかのように、ラノミナの方を見上げたまま虚空を見つめていた。



ラノミナは振り返り、叫んだ。


「コリュ!ユニがおかしくなっちゃった。」





◇◇◇





「ごめんなさい。」


コリュは目をつぶり顔を伏せて謝った。


「何で謝るの!… もしかして失敗したの!」


「ごめんなさい。」


「記憶を無くしただけ?それともプログラム本体が駄目になったの?」


「ごめんなさい。」


「そうね。あなたに頼んだ私が馬鹿だった。。こんな、、こんな抜け殻みたいなのじゃユニじゃないじゃない!!」


目からポロポロと涙を流し、その目を手で蔽ってラノミナは座り込んだ。





沈鬱な空気が部屋を包む。ミュエネも思わず涙を流している。


リィリスは問いかけた。


「コリュ。戻せないのっ? っていうのは愚問だよね。…あったらやってるはずだもんね。」


「できない。」


「うん…。そうだよね。。」



「いいわ。もう帰る。こんなのもうユニじゃ無い。…もう、何もかもどうでもいい。私、疲れちゃった。」


そう言ってラノミナは扉に向かって泣きじゃくりながら歩いていく。


机や棚を無理やり押しのけ、ガラガラと山を崩し、引っ掛かっていたイスを蹴飛ばす。


「ラノミナっ。ごめんなさいっ。私のせいでっ。」


リィリスは大きな声でラノミナに謝った。その声は震えていた。



「リィリス。別に恨んだりしてない。コリュも。怒ったりしてない。事故だから仕方ないよね…。そんなこと、わかってるの。…でも、何だか疲れちゃって、苦しいの!…」



ラノミナはロックを外し、扉を開けると走って出て行った。



◆◆



無反応な触れることすらできない人形と化したユニが、ポツンと立っていた。


「これ。どうする。コリュ。不気味だし、貨物室に入れておいてくれない。」


ナタークは何の変化も無い落ち着いた顔でそう呟いた。


「ナタークっ。ちょっと待って。失言よ。いくらこんなことになったからって…」



リィリスの言葉を遮り、ミュエネが刺々しく言い放つ。


「ナターク。あなたは何で泣かないの。ユニを守ろうとしてたのに、どうしてそんな酷いこと言えるの。」


「只のプログラムじゃないか。しかも、今は記憶も機能もそこに無い。」


「だからって…。」




「もう。  いいよ。  …」



ずっと下を向いていたセノアーが肩を震わせながら、掠れた声を絞り出した。


その声でみんな、会話を止めた。


「もう、いいんだ。こんな風になったんじゃどうしようも無いじゃないか。見ていても苦痛なだけ。本当に苦しいくらい辛いんだ。…だから、いっそ、この像は消してくれないか。」



「セノアーっ。それでいいのっ?」



「ああ…。辛いから。」



コリュが静かに口を動かした。


「ユニは私の部屋に置く。投影も消したりしない。」



「ユニを治せるのっ?」



フルフルとコリュは首を横に振った。



「…いつか。ユニを元に戻して、連れてきて。…連れてきて欲しいなぁ。…」


セノアーは泣いてしまい、最後は何を言っているかわからなかった。





「もう、ここらへんで解散としまへんか。皆も今日はいろいろありすぎて疲れましたやろ。」


ゲンがパチッと手を打った。


「そうねっ。…解散。」


そして、それぞれに、口には出せない胸の内も抱えながら、自分の居住スペースへと戻っていった。


皆、下を俯きながら。











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