壊れないために 2
「は~い。できましたよ~。」
エプロン姿のミュエネが嬉しそうな顔で料理を運ぶ。
「えっ。これ、何っ?」
「これはクリームシチューっていう料理よ。この部屋で育てた土栽培の野菜と植物性食糧生産ユニットで作っている小麦で作ったの。ただ、ミルクは無いから合成したカゼインカルシウムをいれたり…こにょごにょ。… まあ、食べてみて!」
宇宙船内の料理のパターンは限られている。特に温かい料理は少ない。
テーブルの上に並べられたクリームシチューは湯気を立てておいしそうな匂いを出していた。
「おいしい。」
「…ほんまや。」
「凄い。人参もすごく甘いっ。」
全員が感激した。
「喜んで貰えて私も嬉しい♪ 沢山つくったからどんどん食べてね。」
◆◇
リィリスがお腹一杯になった頃、ミュエネの部屋の扉が開いた。
「何このいい匂い。。あっ!!ずる~~い。私も食べたい!!」
そう叫んだのはラノミナだ。セノアーもナターク、ユニも一緒に部屋に入ってきた。
ラノミナは食べ物につられた心を、首を横に振って自戒している。
「そんな場合じゃないわね…。ねえ!ユニのことなんだけど!」
気を取り直して叫んだラノミナに、ミュエネはクリームシチューの入ったカップを渡した。
「まあ、まあ。これでも食べて。ね♪」
「う、うん。」
ミュエネの勧めに負けて、ラノミナは戸惑いながらもイスに座った。
「ねえ、ねえっ。ラノミナは説得できたの?」
リィリスは、セノアーに尋ねる。
「まあ、一応。ね。気になることがあるんだ。」
セノアーはそう答えて、部屋の入口の方に視線を向けた。
そこには青い髪をした小さな少年が立っていた。
◆◇
…もぐもぐ…
「ふぉいでね。その青い髪の子はコアニーみたいなの。コリュがやったんでしょ。…もぐもぐ…コゆ。何ほかいいなさいよ。何がもくへきなの?」
食べながらラノミナが尋ねる。
「ほんまか… どないこっちゃ。コアニーまで実体化するなんて。 これをやったのは本当にコリュちゃんなんか?」
「…そう。」
コクリとコリュは頷いた。
「でも。完全な実体化では無い。触れることはできない。」
コアニーに一番近くにいたリィリスが突っついてみる。確かに触ることができない。
「ワタシはモトに戻してほしいのデス。自由に移動できないし、不自由デス。触れないのに体がアル必要なんてありまセン。」
コアニーはそうコリュに向けてそう言った。
その言葉を無視して、コリュは話出した。
「私。いろいろやってみて、気づいたことがある。これを見て。」
コリュの端末からスクリーンが投影される。そこには2つの棒グラフがあった。
「左がユニ。右がコアニー。同じ実体化しているけれど、使用電力はここまで違う。」
2つの数値は100倍近い差があった。
全員が首を傾げた。セノアーが問いかける。
「2オーダーも違うなんて。”触れる”技術はそんなにも電力を消費するのか…」
「違う。次はこれを見て。」
コリュが次に映したのは円グラフだった。ほとんどの部分が真っ赤に塗りつぶされていた。
「何これっ。」
リィリスが思わず叫んだ。
「これは、ユニ関連の使用電力の内訳。90%を占めている赤い色の部分。それが靴下を盗むための演算処理やデバイスに関わるもの。残り9%が”触れる”技術に関するもの。その他で約1%」
ラノミナもシチューを食べる手を止める。
ナタークが身を乗り出した。
「それって、つまり、靴下を盗むためだけに大量の電力を使用しているってことか?」
「…」
コリュはコクリと頷く。
「ばっかじゃないの!!」
ラノミナは思わず立ち上がってそう叫んだ。
「ばっかじゃないの!!」
「…あ、二回言った。」
思わずミュエネが呟く。
「じゃあ!!その部分だけ削除すればユニの問題は解決するんじゃないの?」
「…」
コリュは頷いた。
「そのために、コアニーで実体化について調べていた。」
「で、靴下盗む機能なんて馬鹿げた機能を消すことはできるの!?」
ラノミナの問いに、コリュは頷いた。
「10分の1でも電力消費は多いから、”触れる”機能は外さなきゃいけないけど。」
…
ラノミナは数秒迷った後答えた。
「いいわ。それなら。」
ここまでのやり取りを見てリィリスは話をまとめた。
「じゃあっ。コリュとラノミナの言うと通り、無駄な機能や電力消費の多い部分を外すってことでいいかなぁ。なんだか、解決が見えてきたねっ。やっぱり、みんな集まってよかったっ!」
みんな明るい顔で、頷いた。セノアーもほっとした表情でユニの頭を撫ぜた。
コリュも相変わらずの無表情のままで、静かに俯いた。