壊れないために 1
「さあっ!行こうっ!!」
リィリスは元気に両手を高く掲げてそう言った。
「ほんま元気やなぁ。さっきまで泣いてはったのに。」
コリュは何かやるべき作業があるらしく、歩きながら端末を使って何かを必死に入力していて無反応だ。
「コリュ、コリュっ。コリュも一緒にやってよっ~。」
「オーっ。」という掛け声とともにリィリスは拳を突き上げた。
「お~。」
コリュも左手は作業を続けたまま、右の拳を突き上げた。
◆◇
「セノアー! 扉、開くよ!」
ミュエネが叫んだ。
「リィリス船長を待ってて! 必ず僕はナタークとラノミナを連れて帰ってくるから!!」
そう言ってセノアーは勢いよく飛び出した。
…
勢いよく飛び出したものの…
「どこに行けばいいんだ…。」
セノアーは途方に暮れていた。ラノミナもナタークも全く見当たらない。自分の思慮の浅さを反省した。
「時間は無い。ここは総当たりで探すしかないか。。」
ラノミナの研究スペースを中心に、総当たり法で探すことを考えた。手段も時間も無い。この方法で本当にいいのだろうか。
効率よく、探すには…
その時、セノアーの頭に一つの映像が舞い降りた。
… うん。 これで行こう。
小さい頃、地球の環境を扱ったアーカイブ映像でイルカの狩りの仕方についてのものがあった。知恵ある行動に感動したっけ。
「ラ~ノミ~ナ~!! ナタ~ク~!!」
精一杯の声で叫ぶ。
「ラ~ノ~ミ~ナ~~!! ナ~た~ク~。」
逃げ場のない宇宙船の隅っこに誘導するように… 周りからじっくりと。。
「ラ~ノ~ミ~ナ~~!! ナ~タ~ク~。」
もし、呼びかけに応じる気があるならでてくる筈。もし、逃げているなら、、追い込んで捕まえる。
「ラ~ノ~ミ~ナ~~!! ナ~タ~ク~。」
何かが走っている気配がした。確実に誰かがいる。手を握り締める。鼓動は少し早くなった。
走った影からすれば、ここか!
セノアーは部屋の扉を開けて飛び込む。
目の前に、目をカッと見開いたナノミナが現れた!
「うわあっ! うぐっ。… 」
セノアーは床の上に崩れ落ちた。
◆◇
「悪いな。セノアー。こうするしかなかったんだ。」
後ろ手に縛られたセノアーは、床上でもがいた。
「離してくれっ! 僕は君達2人を害しようと思ってきたわけじゃない。信じてくれ!船長はこの問題はみんなで決めるべきだって。一人一人で勝手に決めるもんじゃないって。だから、説得しに来たんだ。話を、話を聞いてくれないか。」
ラノミナは、ユニを抱いたまま、上からセノアーを見下ろした。
「何を話すのか、話す前からありありとわかるわ。みんなで決めるべきだ!?そんなことしても、はじめから結論は一つでしょっ。宇宙船のためにユニを殺すんだよね。」
刺すような目でセノアーを見てから、天井を見上げる。そんなラノミナの姿をセノアーは震えながら見ていた。
「みんな生き残るために、一人を犠牲にする。多数決でもとるつもり!?そんなのおかしい。みんなで決めて、ユニを殺して仕方無かったんだって笑って済ますつもりなんでしょ!? みんなで決めるべきだよね、、はいはいってついて行くほど私は馬鹿じゃない!」
ラノミナの叫びに、セノアーは言葉を失っていた。確かにその通りだ。ユニを消すという選択肢が一番合理的な選択肢なのだ。そんなことはみんなわかっている。多数決をしても、議論を尽くしても、ユニを犠牲にすることへの言い訳でしかない。
「わかってくれればそれでいい。私達のことは放って置いてくれ。」
ナタークが捨て台詞を吐いて、部屋の外に出ようと、扉をあけた。
◆◇
「アレ? ナターク、ラノミナ、ココニいたのですカ。セノアー!なんてことを。ダレがそんなひどいことヲ。」
ナタークが一歩踏み出した先には、青い髪をした小さな少年が立っていた。
「なんだ。こいつは。」
「あ、そうなんデス。数時間前に、なぜか体ができてしまっテ。ドウヤラ、コリュの仕業のようなんですガ、、。」
「もしかして!コアニー!」
ラノミナが思わず、声をあげた。当然だろう。コアニーは貧相なグラフィックがモニターに時々映されるくらいの、ほとんど音声のみからなる教育プログラムだったから。
セノアーは、ユニとコアニーを見比べた。
コリュがこれをやったとすると、何が目的だろう。単なる気まぐれか。コリュは僕たちが知らない何かを知っている。
「ラノミナ。ゲン。 コリュは、おそらく僕たちが知らないことも沢山知っている。しかも、ユニはプログラムだ。プログラミングのスペシャリストであるコリュがユニを消すのは簡単なことだろう。」
ラノミナは振る向かずに答えた。
「だから何!?」
「いくら、映し出された虚像を守っても、ユニを守ることなんてできない。コリュは、コアニーに仮の姿を与えることもできる。」
ナタークは頷きつつ、反論した。
「ああ、力の差は認めるよ。でも、それがどうしたんだ。力の差があってもユニを消すのに同意しない。」
「そのコリュが今はロックを解除している。… もしかしたら、何か、ユニを助ける方法を思いついたのかもしれない。 僕はそう思うんだ。」
ゲンとラノミナは互いに顔を見合わせた。
「みんな一度集まろう。君らもユニを守るには情報が少なすぎるだろう?話し合ってみたら、ユニを助ける方法が見つかるかもしれない。結論を出すのはそれからでいいのでは?」
セノアーはそう言って2人に向かってニッコリと微笑んだ。