靴下事変 3
わからないっ。全然。どうしたら解決の糸口が見つかるんだろう。
「コアニー。各部屋を毎日回っているような人はいないっ?」
「サア。ワタシは全員の行動は把握できてないのデス。ただ、そのような行動のヒトがいればわかるとオモウのでス。メモリーにはそのような記録はアリマセン。」
うんざりだ。コアニーなんて使い物にならないポンコツプログラムだ。
しょせん教育プログラム。頼ったのがバカだった。
「どうすればいいのよっ!全然手がかりが無いじゃないっ!コリュ!何かわからないっ?」
小さく頭を傾けながらコリュが答えた。
「想定パターンは無数。…例えば、犯人が記録を全部改竄したり、コアニーやみんなの目をくぐり抜けたり、人じゃない可能性。知らない誰かが潜んでいる可能性だってある。」
う~ん。探す範囲を無意味に広げるのはいかがなものか。
可能性は全く無いとは言わないけれど、人以外の何かが靴下を盗んだり、まだ知らない誰かが靴下を盗んだりなんて、考えにくい。この中に犯人がいて、バレないように工作していると考えるのが自然よね、
ナタークがなんだか話したそうな煮え切らない表情をしている。
もしかしてっ、何か手がかりになりそうなことでもわかったのかなっ。
「ナタークはなんか言いたそうだけど、何か気づいたのっ」
「大したことでは無いのですが、私達が信仰している『みえざるピンクのユニコーン』は、靴下が大好きだと言います。皆さん、ご存じ無いようですが…」
期待して損した。そんなくだらない話知らないよっ。ほんとに大したことないよ!ひどい。私の期待を返せ!
「それが何なのっ?盗まれることと関係あるとは思えないよっ。」
「悪い。。ごめんなさい。。変なことを言ってしまって。」
どうして。どうして、こんなバカばっかりなのっ。
誰か犯人を教えてよっ。絶対この中にいるハズなんだからっ。
落ち着きなく手が動く。
行き場所を無くした手は、野菜ジュースのコップを掴んで落ち着いた。
コップに入っていた野菜ジュースを口の中に流し込む。
しかし、時間が経ってぬるくなってしまったジュースは、望んでいたような清涼感を既に無くしてしまっていた。
「じゃあっ、ナタークが犯人なんじゃないっ?」
「私… 私ですか…。」
信じられないという顔をしている。ナタークが犯人じゃない可能性もあることなんてわかっている。わかっているけどっ。
「そうよっ。あなたよっ。動機がある。宗教的に靴下が重要なんでしょっ。靴下を集めたっておかしくは無いでしょっ。動機がある人はあなただけよっ。」
ナタークの困り顔を見て、ミュエネが反論した。
「ちょっとそれは強引なんじゃない?おかしいよ。大体、ナタークは皆に見つからないように盗めるほど器用じゃない。」
じゃあ、誰よっ。誰が盗んだのっ。
…
「セノアーが怪しいっ。。一人だけそんなに盗まれるなんて変じゃ無い?セノアー以外で最初に盗まれた人は、部屋が近いラノミナだしっ。ラノミナの靴下が目的で、その他の人も盗まれたのは隠ぺい工作のためじゃないの?」
「いや、違うよ!!僕はやってない!」
両手を振って、犯人じゃ無いと主張するセノアー。
ラノミナは「悲しい物」をみるような目でセノアーの方を見た。
「セノアーは違うと思うのデス。セノアーは物事の計画をぴっちりと立ててから進めるタイプで、計画とその進捗管理表を常に作成していマス。見る限り、靴下を盗む時間は無いのデス。この5日間で、計画表と違う行動をとったことは、ロードロックシステムが解除された日だけデス。」
コアニーの言葉を聞いてラノミナも頷き、
「まあ、コアニーはセノアーの所にいる時間も多いし、アリバイはとれているかもね。」
と援護した。
… ううっ。じゃあ。誰っ?
「ゲン。。ゲンが犯人っ。」
笑いながらゲンが答える。
「適当すぎるんとちゃいますか~。冗談はやめておくんなはれ。」
「根拠はあるっ。まず、宇宙船内の機器のメンテナンスをゲンはしているっ。だから、それを通じてこの宇宙船の構造は一番良く知っているはずでしょ。抜け道もわかるんじゃないのっ?もしかしたら、機械を通じてみんなの行動もわかるかもしれないっ。」
ゲンの表情がやや引き攣った笑顔に変わる。
「買いかぶり過ぎやで~。そこまではわかれへん。せいぜい、ヒトが住んでいる部屋はどこかくらいや。そりゃあ、本気で調べればわからんことも無いで。抜け道は排気口を辿る方法もあるが、排気口を使っても靴下を盗むことができるとは思えまへんな。」
セノアーがゲンの言葉に続けた。
「それに、やっぱり動機が無いよ。靴下を盗むなんて。」
私が話せば話す程、険悪な雰囲気になって来た気がする。。犯人扱いしたせいっ?
どうすればいいのっ?
ミュエネが
「もう、犯人捜しは止めにしない?リィリス。お互いを疑うなんて駄目。ここで打ち切りにしませんか?」
… 何を言っているの?それじゃあ、何のために全員集めたのよっ。
わかった。ミュエネが犯人ね。いや、みんなミュエネのところに集まってるし…違う…
残っている野菜ジュースを飲み干す。生ぬるいジュースは、ざらざらしていた。歯の間に粘度の高い液体が付着するのを感じた。
その時、リィリスの目はコリュの所で止まった。
リィリスは、コリュの神業のようなプログラミング技術、時折みられる子供っぽい行動や仕草を思い出した。
「そうよっ!!コリュねっ!!犯人!」
立ち上がりコリュを指さした。
コリュは頭を横に振った。
「私、違う。」
「私、違う!!」
「あなたなら、データの改竄も可能だわっ。動機は悪戯ねっ。」
ナタークが話を遮る。
「ちょっと、その辺で止めといた方が…」
ナタークの言葉が終わる前に、コリュが立ち上がった。
手は微かに震えているように見えた。
「ど、どこに行くのコリュ?」
ミュエネが呼び止めるが、返事もせずにコリュは部屋を出て行った。