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宇宙の卵(ソラノタマゴ)  作者: しゃくとりむし
第2章 船長の風格 ~ リィリス ~
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靴下事変 3

わからないっ。全然。どうしたら解決の糸口が見つかるんだろう。


「コアニー。各部屋を毎日回っているような人はいないっ?」


「サア。ワタシは全員の行動は把握できてないのデス。ただ、そのような行動のヒトがいればわかるとオモウのでス。メモリーにはそのような記録はアリマセン。」


うんざりだ。コアニーなんて使い物にならないポンコツプログラムだ。

しょせん教育プログラム。頼ったのがバカだった。


「どうすればいいのよっ!全然手がかりが無いじゃないっ!コリュ!何かわからないっ?」


小さく頭を傾けながらコリュが答えた。


「想定パターンは無数。…例えば、犯人が記録を全部改竄したり、コアニーやみんなの目をくぐり抜けたり、人じゃない可能性。知らない誰かが潜んでいる可能性だってある。」



う~ん。探す範囲を無意味に広げるのはいかがなものか。

可能性は全く無いとは言わないけれど、人以外の何かが靴下を盗んだり、まだ知らない誰かが靴下を盗んだりなんて、考えにくい。この中に犯人がいて、バレないように工作していると考えるのが自然よね、


ナタークがなんだか話したそうな煮え切らない表情をしている。

もしかしてっ、何か手がかりになりそうなことでもわかったのかなっ。


「ナタークはなんか言いたそうだけど、何か気づいたのっ」


「大したことでは無いのですが、私達が信仰している『みえざるピンクのユニコーン』は、靴下が大好きだと言います。皆さん、ご存じ無いようですが…」


期待して損した。そんなくだらない話知らないよっ。ほんとに大したことないよ!ひどい。私の期待を返せ!


「それが何なのっ?盗まれることと関係あるとは思えないよっ。」


「悪い。。ごめんなさい。。変なことを言ってしまって。」



どうして。どうして、こんなバカばっかりなのっ。

誰か犯人を教えてよっ。絶対この中にいるハズなんだからっ。

落ち着きなく手が動く。

行き場所を無くした手は、野菜ジュースのコップを掴んで落ち着いた。

コップに入っていた野菜ジュースを口の中に流し込む。

しかし、時間が経ってぬるくなってしまったジュースは、望んでいたような清涼感を既に無くしてしまっていた。



「じゃあっ、ナタークが犯人なんじゃないっ?」


「私… 私ですか…。」


信じられないという顔をしている。ナタークが犯人じゃない可能性もあることなんてわかっている。わかっているけどっ。


「そうよっ。あなたよっ。動機がある。宗教的に靴下が重要なんでしょっ。靴下を集めたっておかしくは無いでしょっ。動機がある人はあなただけよっ。」


ナタークの困り顔を見て、ミュエネが反論した。


「ちょっとそれは強引なんじゃない?おかしいよ。大体、ナタークは皆に見つからないように盗めるほど器用じゃない。」


じゃあ、誰よっ。誰が盗んだのっ。



「セノアーが怪しいっ。。一人だけそんなに盗まれるなんて変じゃ無い?セノアー以外で最初に盗まれた人は、部屋が近いラノミナだしっ。ラノミナの靴下が目的で、その他の人も盗まれたのは隠ぺい工作のためじゃないの?」



「いや、違うよ!!僕はやってない!」


両手を振って、犯人じゃ無いと主張するセノアー。

ラノミナは「悲しい物」をみるような目でセノアーの方を見た。


「セノアーは違うと思うのデス。セノアーは物事の計画をぴっちりと立ててから進めるタイプで、計画とその進捗管理表を常に作成していマス。見る限り、靴下を盗む時間は無いのデス。この5日間で、計画表と違う行動をとったことは、ロードロックシステムが解除された日だけデス。」


コアニーの言葉を聞いてラノミナも頷き、


「まあ、コアニーはセノアーの所にいる時間も多いし、アリバイはとれているかもね。」


と援護した。



… ううっ。じゃあ。誰っ?


「ゲン。。ゲンが犯人っ。」


笑いながらゲンが答える。


「適当すぎるんとちゃいますか~。冗談はやめておくんなはれ。」


「根拠はあるっ。まず、宇宙船内の機器のメンテナンスをゲンはしているっ。だから、それを通じてこの宇宙船の構造は一番良く知っているはずでしょ。抜け道もわかるんじゃないのっ?もしかしたら、機械を通じてみんなの行動もわかるかもしれないっ。」


ゲンの表情がやや引き攣った笑顔に変わる。


「買いかぶり過ぎやで~。そこまではわかれへん。せいぜい、ヒトが住んでいる部屋はどこかくらいや。そりゃあ、本気で調べればわからんことも無いで。抜け道は排気口を辿る方法もあるが、排気口を使っても靴下を盗むことができるとは思えまへんな。」


セノアーがゲンの言葉に続けた。


「それに、やっぱり動機が無いよ。靴下を盗むなんて。」



私が話せば話す程、険悪な雰囲気になって来た気がする。。犯人扱いしたせいっ?

どうすればいいのっ?


ミュエネが


「もう、犯人捜しは止めにしない?リィリス。お互いを疑うなんて駄目。ここで打ち切りにしませんか?」



… 何を言っているの?それじゃあ、何のために全員集めたのよっ。

わかった。ミュエネが犯人ね。いや、みんなミュエネのところに集まってるし…違う…


残っている野菜ジュースを飲み干す。生ぬるいジュースは、ざらざらしていた。歯の間に粘度の高い液体が付着するのを感じた。


その時、リィリスの目はコリュの所で止まった。

リィリスは、コリュの神業のようなプログラミング技術、時折みられる子供っぽい行動や仕草を思い出した。


「そうよっ!!コリュねっ!!犯人!」


立ち上がりコリュを指さした。


コリュは頭を横に振った。


「私、違う。」


「私、違う!!」



「あなたなら、データの改竄も可能だわっ。動機は悪戯ねっ。」


ナタークが話を遮る。


「ちょっと、その辺で止めといた方が…」


ナタークの言葉が終わる前に、コリュが立ち上がった。

手は微かに震えているように見えた。


「ど、どこに行くのコリュ?」


ミュエネが呼び止めるが、返事もせずにコリュは部屋を出て行った。





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