靴下事変 1
あれから、気軽に話せる仲になるまで、そんなに時間はかからなかった。だって、この世界ソラノタマゴには7人しかいないのだから。そんな、ある日、事件が始まった。
「やっほーっ。ミュエネっ。」
「今日はいつもより早いですね。リィリス船長。」
いつものように席につく。毎日1回は、こうしてミュエネの部屋に行こうと決めている。私は船長だし…。他のみんなは、来なかったり来たりばらばらだけど、誰かは来ていることが多いかな。
「お飲み物でもいかがですか?」
「じゃあっ。野菜ジュースでっ」
ミュエネの作る料理はおいしい。食品ラインで自動的に製造されるものとは一味もふた味も違う。特に、野菜の栽培からこだわったこの野菜ジュースは格別だ。なんでも、培養液ではなくて土を使って栽培しているらしい。
「ぷふぁ~。おいしいな~っ。」
「ふふ。ありがとうございます。」
平和な日々、いつまでも満喫したいなぁっ。
リィリスが2杯目を飲み干した時、ラノミナが部屋に入ってきた。
部屋に入るなり、ラノミナは大声をあげた。
「ふ~。はァ。はァ。事件よ!!これは事件よ!!」
ラノミナの顔は紅潮している。相当慌てて走ってきたようだ。怒っているのかもしれない。
「どうしたんです?」
ミュエネが尋ねる。
「私の靴下が盗まれたの!!絶対盗難よ!!変態がいるのよ!」
足元を見ると、靴下を片方の足しか履いていないようだ。
「ナタークよ!きっと。セノアーかもしれない。絶対、とっ捕まえてボコボコにするんだから!」
物騒なラノミナの発言にミュエネは狼狽しているようだ。
「ラノミナ。落ち着いて。私も、今日、靴下を無くしたよ。よくあることだと思うよ。ほらっ、洗った後に片方の足づつバラバラになっちゃうから、無くなりやすいんだよ。」
「でも、ロードロックシステムが解除される前は一度もなかったの。解除されてから、靴下が無くなったのはこれで5度目よ!毎日よ!このペースで行くと私の靴下は1か月で底をついちゃう!」
「ふぁ~あ。眠い。」
コリュが入ってきた。朝からずいぶん時間が経っているのに随分眠そうだ。目をごしごしこすってるし、だらしがない恰好をしている。シャツが出ているし、頭はボサボサ。靴下も片方しか履いてない。。。履いて無い。 靴下!!
「コリュっ。靴下はどうしたのっ。片方しかはいてないけどっ。」
「無かった。」
「コリュも盗まれたのっ?」
「わからない。」
そう言われれば、私自身の靴下も、随分数が減っている。。気がする。あんまり普段から気にしていないことだからよくわかんないやっ。
「ナタークめ~~。」
ラノミナ的にはナタークが犯人らしい。完全に決めつけちゃっている。
そのナタークが頭をポリポリ掻きながら入って来た。
「あ。みんな~。私の靴下みてないですか。ちょっと無くなっちゃって。」
申し訳なさそうに尋ねた。
「ナターク!あなたがやったんでしょ!自分も無くしたなんて白々しい!」
ラノミナがくってかかる。
「私は何も。。…ラノミナさんも靴下なくしたんですか?」
「あなたと一緒にしないでよ!!っていうか犯人はあなたでしょ!」
う~む。これは事件だ。大事件のようだ。質量保存の法則が保たれているこの船内で、靴下が消えるとは。
…
「これは由々しき事態ねっ。全員召集をかけることにするっ。」
リィリスは、明るく嬉しそうな声で召集を決定した。