タマゴ達の邂逅 16 ~ セノアー ~
ここは植物性食糧生産ユニット。
ミュエネの管理しているとっても広い部屋だ。数種類の野菜が培養液によって生産されている。ほとんどの機器は作動しておらず、照明も一部しか点灯していない。
「じゃあ、まずミュエネからねっ」
船長は機嫌が良さそうだ。子供みたいだ。
「そうね。まあ、さっきいた休憩談話ルームも私が管理しているんだけど、この植物性食糧生産ユニットと植物研究ルームも私の仕事場ね。」
「自己紹介を改めてするけれど、私の名前はミュエネ・ハッシュ。基本的には皆さんのご飯の素をつくっているの。植物関連の仕事は私が全てしているはず。」
ミュエネさん。やわらかな茶色の長い髪、深みのある瞳の色が特徴的な人だ。
服には作業道具らしきものが沢山ぶらさがっている。
やわらかいけれど運動するのが好きそうな、そんな印象を受ける。
まあ、あくまで印象だけど。
「私、ミュエネさんの自室がみたいなぁ。」
ラノミナがリクエストする。
「それはちょっと嫌かな。」
「いいじゃない。ねえ!一度だけ!」
そんな中、
リィリスとコリュは培養液を手ですくい、ナタークの背後に…
びしゃ
「ふぎゃああ! ちょっと、やめてくれよ。」
リィリスはケラケラと笑った。コリュはまだ培養液をかけようとしている。
「ああ、この人達は、ほんまに自由やなぁ。もう少し落ち着いた方がええんとちゃう?」
温厚そうなミュエネも流石に怒るかもしれない。その前になんとかしなければ。
「ちょっと!培養液に手を突っ込まないで!もし、雑菌が繁殖したらご飯が食べられなくなるよ!ラノミナさんもいい加減にしてよ!」
手遅れだった。
◆◆◆◇◆
怒ったミュエネをなだめて、次に近いナタークの居住スペースの部屋に来た。
「特に何にもないね。」
ラノミナはそう呟いた。確かに普通だ。普通過ぎる。
「何かないのっ。こう、ミュエネさんみたいにどこかの部屋を管理しているとか。」
リィリスが不機嫌そうに尋ねる。
「チャペルの管理が割り当てられているけれど、特に誰も使用しないというかできない状態だったから、自室が活動拠点かな。」
「自己紹介だけど、名前はナターク・ガルア。宗教関連の担当になっている。宗教はやっぱり体験や人間の輪の中で成立するものだから、今後はみんなにも講習会とか…」
そう言いかけて、ナタークは言葉に詰まった。目線の先には、問題児二人の姿があった。
「この端末のデスクトップ。かわいい子犬の絵になっている~。」
リィリス船長が勝手にいろいろいじくりまわしている。
「引出開けたら、こんなものがあった…」
コリュは引出しを開けちゃってるし。
「なになに~。かわっいい~。ピンク色のユニコーンのお人形っ。」
「ちょっと、止めてくれ~。」
ナタークは泣き崩れる。
僕から見て、ナターク自体は黒い髪、がっちりとした長身の立派な風貌の青年なのだが…
リィリスやコリュは、遊び道具くらいにしか思っていないのだろう。
可哀そうに。
◆◇◇◆
次に船長の部屋に向かった。
管制室、船長の自室をまわった。
管制室もじつに広い。種々雑多な機器が設置されている。
いつかこの機器を使用する時がくるのだろうか…
「私の名前は、リィリス・インビシブル・ユニコーンよっ。船長の名前くらいしっかり覚えておきなさいっ。」
いったい何歳なのだろうか。子供そのものだ。
金色の髪を、青いリボンでポニーテールに結んでいる。
瞳も何だか金色っぽい。自身たっぷりだけれど、その瞳だけはさびしく見える。
黒い髪で黒い瞳でなおかつ背が高いコリュと比べると対照的だ。
でもふたりともなぜか無邪気さが全身に表れている。。
なぜなんだ。
「え~と。あんさんは、何歳なんや。」
「それは、ひみつなのっ。」
「え~。ケチやなあ。教えてくれてもええのに。」
◆◇◇◆
コリュの部屋は、サッパリしていた。
というより、何も無かった。
「コリュ。ベッドと机と端末しかないのっ?」
「無い。いらないものは置きたくないよ。」
リィリスが引出しを開けると。
そこには何も無かった。
何も見なかったので、リィリスは静かに引出しを戻した。
「これだけ、殺風景だと寂しくない?」
ミュエネはそう尋ねた。
コリュは首を傾げている。
言葉は通じているけれど、意味が通じて無いのだろう。
もっと言えば、意味のベースとなる部分が異なるのだろう。
「フルネームの名前は?」
ナタークが尋ねると
「コリュ・シェアシエ…」
とだけ答えた。
◆◇◇◆
廊下を大移動して、
ラノミナの部屋に向かう。
彼女は、ラノミナ・フュサリュー。
見た目だけで言えば一番神秘的でキレイ。
白銀の髪。白い肌。華奢な体に、澄んだ灰色の瞳。
薄紫色の服も似合っている。
あくまでも、見た目だけで言えば。見た目だけ。
「ここが、宇宙測定ルームよ。主に船外の状況の観測や観測機器を使用しての天体観測が主な仕事ね。」
扉を開けた。
そこは惨状だった。いろいろな機械がめちゃめちゃに倒れていた。引出しは漁られ、物が散乱していた。
「ど、どうなってるの?」
ラノミナは言葉を失った。
リィリスとコリュが顔を見合わせ、それを見ていたミュエネが説明をはじめた。
「ラノミナさんを探すとき、なかなか見つからなくて、それでコリュやリィリスが部屋をこんなふうに。…ごめんなさい!」
「そんな。 あんなに片づけたのに。掃除したのに。。」
ラノミナは相当落ち込んでいるようだ。
何かが違う。なんだか、嗅覚に関することの気がする。
そうだ。初めてラノミナにあった時は、ひどい匂いがした。掃除でもしたのだろうか。
「そいいえば、初めてこの部屋にきたときは、あんなにくさかっ。グフっ。!」