タマゴ達の邂逅 14 ~ ミュエネ ~
「よいしょ。」
コリュは気を失ったナタークを台車に乗せた。
「悪いわね。部屋に勝手に入って来たのが悪いんだけど。ちょっとやり過ぎたかも。」
着替え終わったラノミナもちょっと心配そうにしている。
「大丈夫。息はあるし、気を失ってるだけ。薬なら一式、私の部屋に揃ってるし、大丈夫よ。」
「ミュエネさん…だったけ。ありがとう。助かる。」
「いいのいいの。変な目で見たナタークがいけないんだから。」
リィリスが笑顔で叫ぶ。
「まあっ。今回はっ、全部ナタークが悪いってことでっ 終了っ!さあ、一旦ミュエネの部屋まで出発っ!」
◇◆
コリュが、コロコロとナタークを乗せた台車を押す。なんだか、台車を押すのを楽しんでいるようだ。ただ、ナタークへの配慮は一切なされていないようで、ナタークは無造作に粗大ごみのように台車に乗せられていた。
「コ、コリュ。ほら、台車から飛び出てる。足と手。床に擦れているよ!」
ミュエネは痛そうな顔をして、コリュの顔を見た。
「いいよ。運べる。」
特に表情を変えずに、コリュは答えた。少しだけ無邪気な笑顔だ。
「いや、運べるんだけど、運べるんだけどね。ナタークが可哀そう。ほら、手とか頭とか擦れて痛そうでしょ。」
「…気を失ってるよ?」
なぜ、ミュエネはそんなこと言っているの?と言いたげな顔をしている。確かに、気を失っているから痛覚は無いんだろうけど。いや、ダメでしょ。可哀そうでしょ。
「そうなんだけど。そうなんだけど。あぁ…どうやって伝えればいいのかなぁ。難しい。。」
こうして、ナタークは引き摺られていった。
◇◆◇
「わああああ~~」
遠くから叫び声が聴こえた。
「な、何の声っ?」
リィリス船長が思わずキョロキョロと辺りを見渡す。
「ぎゃあああああああ~~~」
その声は段々大きくなって近づいて来る。
「な、なんなの?」
ラノミナがそう呟いた瞬間、目の前に銀髪の少年が飛び出した。
「セノアー!」
ラノミナのその声で、少年はぴたりと叫ぶのをやめた。息があがって、激しく呼吸をしている。…まるで何かに追われていたようだ。
「いったい何があったのよっ?そんなに走ってっ。」
「い、いや、何でもない。。ハァ。。ハァ。。」
リィリスの問いかけに、バツが悪そうに答えた。
息を整えながら、少年はしゃべりはじめた。
「ラノミナさん。部屋から出てきてくれたんですね。さっきは、失礼なことを言ってごめんなさい。でも、ラノミナさん、今はもう、くさ ゴブッ。」
ラノミナは眉間を躊躇なく、拳で突いた。
不意に眉間を突かれた少年は、パタンと前のめりに倒れた。
「えっ。どうして殴ったのっ?何にもしてないじゃないっ?」
「つっ、つい、手が滑ったのよ。本当よ。」
ラノミナの顔には薄っすらと汗が滲んでいる。
「それも乗せるの?」
コリュが首を傾けながら問いかける。表情が薄くて、困惑しているのか楽しんでいるのか、何を考えているのかよくわからない。
「うん。乗せる乗せる。」
ラノミナは、セノアーを持ち上げ、台車に既に積まれていたナタークの上にドサリと置いた。そして、汗を浮べながら叫んだ。
「さあ、いくよっ~」
「むうっ。ラノミナっ。それは私の役目なのっ~。」
リィリス船長はふくれっ面になった。
「だ、大丈夫?」
動き出した台車の上の二人を調べる。命に別状は無いようだが、気を失っている。殴られた箇所は、赤くなっていた。
コリュは、重くなった台車を一生懸命押している。台車の二人を気にする様子は一切無い。ただ、押すことに全力を傾けているようだった。
「む、む、む。」
「ちょっと、ナタークの服が車輪に絡まってるでしょ。無理に押したりしたら…」
「進まなくなった。。」
コリュは、少しだけ悲しそうな顔をした後、
一旦後退し、勢いをつけて、ガッと台車を押そうとした。
慌ててコリュを止める。
「ダ、だめだって!コリュ!そんなことしたら、怪我しちゃう!」
助けを求めて、ラノミナの方を見ると、台車の方を見ないように顔を背けて、「私は何も関係ないよ~」という空気をだしている。リィリス船長は、何かおもしろいものでもあったのか、パタパタと駆け出していった。
「ダメだ。。だれも2人のことを心配して無い…」
あぁ。もう。この人達についていけない。ミュエネはそう思い、髪の毛を掻き毟った。