第27話 二人の従者
謁見の間を出ると、廊下の先にリゼとクローネの姿が見えた。
二人とも、緊張した面持ちで僕を待っていた。
「ルカ様」
リゼが、真っ先に駆け寄ってきた。
「いかがでしたか」
「……うまくいった。レグナス殿下は、軍を出してくれる」
「本当ですか……!」
クローネが、胸に手を当てて安堵の息を吐いた。
「よかった……正直、断られるのではないかと……」
「僕もそう思ってた。でも、殿下にとっても利益のある話だったみたいだ」
「利益ですか?」
「ああ。詳しいことは、場所を変えて話そう。ここでは人目がある」
僕たちは王城を出て、王都の外れにある宿へと戻った。
◇
宿の一室。
テーブルを囲んで、僕は二人に作戦の概要を説明した。
「まず、僕たちの役割は潜入だ」
シルフィーネから受け取った地図を広げる。
「この監獄には、強力な魔法障壁が張られている。外からの魔法攻撃は全て弾かれるし、物理的に壁を破るにも時間がかかりすぎる」
「では、どうやって……」
「障壁の核になっている魔導機器がある。ここだ」
僕は、地図の中央を指差した。
「これを破壊すれば、障壁は消える」
「なるほど……」
リゼが、地図を覗き込んだ。
「つまり、少数で潜入し、この魔導機器を破壊する。それが私たちの任務ですね」
「そうだ。外壁の死角、警備の巡回ルート……シルフィーネ王女が全部、この地図に書き込んでくれた」
「シルフィーネ王女殿下が、そんなに詳細な地図を……」
クローネが、驚いたように目を見開いた。
「なぜ、そこまで……」
「さあ。パフェのお礼だって言ってたけど」
「パフェの……?」
クローネが、きょとんとした顔をした。
「まあ、本当の理由は分からない。でも、彼女が偽の情報を渡す理由もない、だからこの地図は信頼できるはずだ」
僕は、話を続けた。
「僕たちが魔導機器を破壊したら、合図を出す。それと同時に、レグナス殿下の軍が突入する」
「殿下の軍が……」
「ああ。障壁さえ消えれば、あとは数の勝負だ。殿下の軍なら、監獄の警備くらい蹴散らせる」
「そして、囚われた亜人たちを解放する……」
リゼが、静かに呟いた。
「それが成功すれば、ドミニク公爵の亜人部隊は——」
「戦う理由を失う。家族が自由になれば、もう公爵のために命を懸ける必要はないからね」
「……見事な作戦です」
リゼが、感心したように頷いた。
「正面からぶつかれば苦戦必至だった亜人部隊を、戦わずして無力化できる」
「ただ——」
僕は、二人の顔を見た。
「潜入は危険だ。失敗すれば、僕たちは敵地の真ん中で孤立する。命の保証はない」
「……」
「だから、改めて聞いておきたい。本当に、ついてきてくれるか?」
沈黙が落ちた。
リゼが、最初に口を開いた。
「愚問です、ルカ様」
彼女は、真っ直ぐに僕を見つめた。
「私は、主の剣。どこへでもお供すると、誓ったはずです」
「リゼ……」
「例え地獄であろうと、主の傍を離れるつもりはありません」
その青い瞳には、一点の迷いもなかった。
「……私も」
クローネが、小さく、でも確かな声で言った。
「私も、行きます」
「クローネ……」
「アリア様のためです。それに——」
彼女は、少しだけ頬を赤らめた。
「お二人だけに、危険な目に遭わせるわけにはいきません」
——お二人。
その言葉に、どこか引っかかるものを感じた。
でも、今はそれを追及する時ではない。
「……ありがとう。二人とも」
僕は、深く頭を下げた。
「必ず、成功させよう。全員で、生きて帰る」
「はい」
「はい……!」
二人の声が、重なった。
窓の外では、夕日が沈みかけていた。
作戦決行の日が、近づいている。




