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第16話 闇オークション

案内されたのは、会場の奥にある小部屋だった。

「取引所」と呼ばれているらしいが、実態は売り手と運営が交渉するための場所のようだ。

部屋には、数人の男たちがいた。

帳簿を手に亜人たちを数えている者。酒を飲みながら談笑している者。

その中で、一人だけ——明らかに格が違う男がいた。

上質な服を身に纏い、指には宝石の指輪。他の男たちに指示を出している様子から、ここの責任者だろう。


「……あの男だ」


僕は小声でリゼに告げた。


「私も同意見です。他の者より明らかに身なりが良い。王家のペンダントの意味も理解できるでしょう」


「よし。行くよ」


僕は責任者らしき男に近づいた。


「——あんたが責任者か?」


男が振り返る。


「ん? ああ、売り手か。その亜人を引き取ってほしいってことか?」


「そうだ。こいつを買い取ってもらいたい」


リゼを前に押し出す。

男は、じろじろとリゼを見た。


「ほう……悪くないな。猫人か」


「ああ。飽きたから、新しいのと入れ替えようと思ってな」


「なるほど、なるほど。旦那も分かってるじゃないか」


男は下卑た笑みを浮かべた。


「いくらで買い取ればいい?」


「その前に、少し話がある」


「話?」


「ここの運営について、詳しく聞きたい。資金の流れとか、後ろ盾とか——な」


男の目が、すっと細くなった。


「……何を言ってる?」


「分からないか?」


僕は一歩、前に出た。


「ここの帳簿を見せてもらいたいんだ」


「……おい」


男の声が、低くなった。


「何者だ、お前」


「答える必要があるか?」


「——やれ」


男が合図を出した瞬間、周囲の男たちが動いた。

だが——それより早く、僕とリゼは動いていた。

僕は腰の剣を抜き、責任者の喉元に突きつけた。

リゼは同時に二人の男を組み伏せ、動きを封じている。


「——っ!?」


「動くな」


「て、てめえ……!」


「静かにしろ。騒げば、この場で斬る」


「くそっ……!」


男は歯噛みしながら、僕を睨みつけた。

そして——。


「……いい度胸だな、小僧。だがな、俺たちに手を出すとどうなるか、分かってるのか?」


「どうなる?」


「この催しにゃ、宰相閣下が関わってるんだ。お前みたいな小物が手を出していい相手じゃねえんだよ」


男は、不敵な笑みを浮かべた。


「今すぐ剣を引けば、見逃してやる。だが、これ以上ふざけた真似をするなら——宰相閣下が黙っちゃいねえぞ」


「……そうか」


僕は——懐から、あるものを取り出した。

クローネから預かった、王家の紋章が刻まれたペンダント。

男の顔が、凍りついた。


「これが何か、分かるか?」


「お、王家の……!?」


「アリア王女殿下の命により、この場所を調査している」


「な……そんな、馬鹿な……!」


「宰相がどうしたって?」


僕は、冷たく笑った。


「王家の調査に、宰相が口を挟めると思うか?」


「……っ」


男の顔から、血の気が引いていく。


「大人しく協力すれば、命は助けてやる。だが、逆らうなら——」


剣先を、僅かに押し当てた。


「分かっているな?」


「わ、分かった……! 分かったから、殺さないでくれ……!」


男は震えながら頷いた。


「それでいい。まず、ここの帳簿と書類を全て出せ。資金の流れが分かるものだ」


「あ、あっちの……奥の部屋に、全部ある……」


「案内しろ」


「は、はい……」


僕は男の襟首を掴んだまま、立ち上がらせた。


「リゼ、残りの奴らを眠らせてくれ。後で騒がれると面倒だ」


「承知しました」


リゼは倒れている男たちの首元に手刀を打ち込み、完全に意識を断った。


「これで当分は起きないでしょう」


「よし。僕たちは奥へ行くぞ。いいか、変な動きをすれば——その瞬間に斬る。分かったな?」


「わ、分かった……! 分かったから……!」


男は震えながら頷き、奥の部屋へと僕を案内した。



案内された部屋には、棚が並んでいた。

その中には——大量の書類が詰め込まれていた。

帳簿。取引記録。顧客名簿。

僕は手早く書類を漁っていく。


「……これは」


一枚の書類に、見覚えのある名前があった。

『マルシャン宰相閣下より、運営資金として——』

金額と日付、そして宰相の署名らしきもの。


「……見つけた」


宰相との繋がりを示す、決定的な証拠だ。

他にも、資金の流れを示す帳簿、顧客の名簿——全て揃っている。

僕は必要な書類を手早くまとめ、懐にしまった。


「よし、これで——」


立ち上がろうとした時、隣の部屋から微かな物音が聞こえた。


「……隣は何だ?」


「ひっ……あ、あれは在庫の保管場所です……」


「在庫?」


「ま、まだ舞台に出していない……商品を置いてある場所で……」


商品。

つまり——まだ売られていない亜人たちがいる、ということか。


「……案内しろ」


「は、はい……」


男に連れられて隣の部屋に入ると、そこは薄暗いバックヤードだった。

客席からは完全に隔離された場所。窓もなく、外からは見えない。

壁際には鉄格子で仕切られた牢がいくつも並び、その中に——怯えた目をした亜人たちが、じっとこちらを見ていた。

舞台に出される順番を待つ、「在庫」として。

壁には鍵の束が掛けられている。

——派手に動くことはできない。

今夜の目的は、証拠を押さえることだ。騒ぎを起こせば、全てが台無しになる。

全員を助けることは、できない。

でも——ここは客席から離れたバックヤードだ。静かにやれば、気づかれない。


「……せめて、見える範囲だけでも」


僕は壁から鍵の束を取った。

男を睨みつける。


「声を出すな。出せば——分かっているな?」


「は、はい……!」


男は震えながら頷き、口を押さえた。



鉄格子は、いくつかに分かれていた。

僕は一つ目の牢に近づき、鍵を差し込んだ。


「……静かに。助けに来た」


中にいた亜人たち——獣人の男女が、目を見開いた。


「ほ、本当に……?」


「ああ。裏口から逃げろ。今なら見つからない」


「あ、ありがとう……! ありがとう……!」


二人は涙を浮かべながら、裏口へと走っていった。

次の牢。

鍵を開ける。

中にいたのは、年老いたエルフの男性だった。


「……逃げられるか?」


「ああ……なんとか」


「裏口だ。急いで」


男性は頷き、よろめきながらも歩き出した。

次。

また次。

一つずつ、鍵を開けていく。


「……ここも」


最後の牢の鍵を開けた時——中から、何人かの亜人が出てきた。

その中に、一人の少女がいた。

薄緑色の髪を、サイドテールに結んでいる。大きな瞳は、エメラルドグリーン。尖った耳——エルフだ。

背は低く、スレンダーな体型。外見は僕たちと同じくらいの年頃に見える。


「……行け。裏口から逃げろ」


「……っ」


少女は、大きな目で僕を見つめていた。


「……ありがとう」


小さく、震える声で言った。


「この恩は……絶対に忘れません」


「いいから、早く」


少女は頷き、他の亜人たちと共に裏口へと走っていった。

その姿が闘の中に消えるのを見届けてから、僕は振り返った。

全員は救えなかった。

会場の舞台では、今もオークションが続いている。既に舞台に上げられた亜人たちを助ける余裕は、今の僕にはない。

でも——少なくとも、このバックヤードにいた者たちは救えた。

今はそれでいい。


「……行こう、リゼ」


「はい」


僕たちは、闇の中を静かに抜け出した。

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