第12話 婚約破棄へ
大聖堂を出ると、空は青く晴れ渡っていた。
「……ルカ様」
リゼが、静かに声をかけてきた。
「聖女様とは……随分と親しいご様子でしたね」
「ん? ああ、昔の話をしたからね」
「……そうですか」
リゼの声は平坦だったが、どこか不満そうな気配があった。
「リゼ?」
「何でもありません。それより、次の行動ですが——」
「ああ、そうだね」
僕は、ティアーヌから聞いた情報を反芻した。
マルシャン宰相が、亜人を使って何かをしている。
だが、具体的なことはまだ分からない。
「……クローネに連絡を取ろう」
「クローネさんに、ですか?」
「ああ。彼女は王城の内部にいる。もっと詳しい情報を掴めるかもしれない」
「畏まりました」
僕は歩き出した。
やるべきことが、見えてきた。
まずは、マルシャン宰相の不正を暴く。
そのために——クローネの力を借りよう。
◇
その夜。
僕たちが宿に戻ると、クローネからの手紙が預けられていた。
『明日の夜、お会いできますか? お伝えしたいことがあります』
◇
翌日の夜。
クローネは、前回と同じようにフードを被って現れた。
「お待たせいたしました、ルカ様」
「いや、そんなに待っていないよ」
「それならよかったです。実は、お伝えしたいことがあったんです」
クローネは、真剣な表情で言った。
「実は……マルシャン宰相について調べていたのですが」
「奇遇だね。僕も、君にそのことを頼もうと思っていたんだ」
「え?」
僕は、ティアーヌから聞いた話をかいつまんで伝えた。
亜人を捕らえて何かに使っているらしいこと。その中心にマルシャン宰相がいるらしいこと。
クローネは、真剣な顔で聞いていた。
「……やはり、そうでしたか」
「やはり?」
「はい。私も、王城内で似たような噂を耳にしていたんです。それで、独自に調べていたのですが……」
クローネは、懐から一枚の紙を取り出した。
「ようやく、具体的な情報を掴みました」
「……!」
「三日後の夜。王都郊外の廃倉庫で、『闇オークション』なるものが開催されるそうです」
「闇オークション……」
「捕らえた亜人をオークション形式で売りさばき、落札した貴族たちが……自分たちの趣味に使う。そういう催しだと」
「趣味……?」
「はい。労働力として使う者もいれば、もっと……酷いことに使う者もいるそうです」
クローネは、顔を歪めた。
「人として扱われない。道具のように……玩具のように……」
「……っ」
怒りが、腹の底から込み上げてきた。
亜人を捕らえて、売り買いする。自分たちの欲望のために使い潰す。
そんなことが——許されていいはずがない。
「そして、この闇オークションには……マルシャン宰相が裏で関わっているようなんです」
「裏で……?」
「はい。表向きは別の貴族が主催していますが、資金の流れを辿ると宰相に繋がっているとか……」
クローネは少し考え込むように言った。
「宰相自身は現場には姿を見せないでしょう。でも、もし資金援助の証拠や、宰相との繋がりを示すものを押さえることができれば……」
「それを材料に、アリアの婚約破棄を——」
「はい。少なくとも、交渉の切り札にはなるかもしれません」
クローネの目が、決意に燃えていた。
「確実ではありませんが……今の私たちには、これが一番の手がかりです」
「ああ」
僕は、紙を受け取った。
三日後。王都郊外の廃倉庫。
これは——大きなチャンスだ。
「クローネ、ありがとう。君のおかげで、道が開けた」
「いえ……私は、アリア様のためなら何でもします」
クローネは、静かに、しかし力強く言った。
「必ず……アリア様を、救いましょう」
「ああ」
僕は頷いた。
三日後。
マルシャン宰相の不正の証拠を掴む。
そして——アリアを救う道を、切り開く。




