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木漏れ日交番物語  作者:


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第4話 落とし物と、ひとつの約束

井の頭公園の朝。

薄い雲のすき間からこぼれる木漏れ日が、小道に淡い金色を落としていた。


三枝賢が交番を出て巡回に出たところで、

「あ、巡査さん!」

と、小さな声が背中を引き止める。


振り返ると、小学生の女の子が赤いランドセルを揺らしながら駆け寄ってきた。

手には、くたびれたウサギのぬいぐるみ。


「これ、公園で拾ったの。誰かのだと思って…どうしたらいいか分からなくって」


賢はしゃがみ込み、子どもの視線に合わせて微笑む。

「届けてくれてありがとう。とても大事にされてたんだろうね。君の名前は?」


「ゆい。三年生です」


「そっか、ゆいちゃん。じゃあ交番で預かって、持ち主を探してみるよ」


ゆいは胸をなでおろしたようにほっと息をつく。

けれど、賢がそのぬいぐるみを受け取った瞬間、

ぽたり、と小さな涙が落ちた。


「……どうしたの?」


「これ…私のお姉ちゃんがくれたの。だけど私、昨日ケンカして、もういらないなんて言っちゃって…

でも落ちてるのを見たとき、胸がぎゅーってして……」


賢はそっとぬいぐるみを抱え、ゆいの頭を軽くなでた。


「ゆいちゃん。傷つけたと思ったら、ちゃんと“ごめんね”って言えれば、気持ちは届くよ。

落とし物は届ければ持ち主に戻る。気持ちも同じだよ」


ゆいは涙をぬぐい、決意したように胸を張った。


「ありがとう…帰ったら言ってみる!」


「うん。きっと伝わるよ」


ゆいは何度も頭を下げ、走り去っていった。

赤いランドセルが木漏れ日の中で揺れ、やがて見えなくなる。


賢はぬいぐるみを丁寧に袋に入れながら、

ふっと優しい笑みを浮かべる。


――気持ちは、届けようとする人がいる限り、必ず行き先を見つける。


彼の胸にも、そんな温かさがそっと灯っていた。


そして交番の窓口に戻ると、

先ほど別れたばかりのゆいとそっくりな、少し年上の女の子が立っていた。


「すみません…ウサギのぬいぐるみ、届いてませんか?」


賢は微笑んだ。


「うん、ちょうどついさっきね」


そう言って奥から袋を取り出す。

その背中に、また木漏れ日が静かに落ちていた。

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