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本の紹介28『花田清輝批評集 骨を斬らせて肉を斬る』

作者: ムクダム
掲載日:2025/12/07

戦前・戦中・戦後の社会を見つめた評論家の批評集

 「肉を切らせて骨を断つ」という慣用句をもじったタイトルが目を引きます。慣用句の意味は、自分もかなり損害を受けるが、その代わりに相手には決定的な損害を与えるというものですが、順序が逆になっているので、自分が滅びることになっても相手に一撃加えるという捨身のスタンスを示したものでしょうか。

 本書は作家・文芸評論家である花田清輝氏が1938年から1960年にかけて発表した論考をまとめ、編み直したものであり、タイトルはご本人発案ではないかもしれません。年代を見ればわかるとおり、第二次世界大戦前・戦中・戦後という時代を股にかけた論考が集められており、社会を支配していた価値観が大きく変化していく中で、その渦中にいた評論家が社会・芸術に対してどのような批評を行なっているかを知ることができます。

 敗戦はそれまで社会で是認されてきた価値観、一言でいえば、戦う人間が偉いという価値観を大きく揺るがすことになったと考えます。私は今のところ、戦争をしている国で生きたことがないので、それまで善として蔓延していた考え方が突如として悪とされるような、大転換の場に立ち会ったことはありません。だから、敗戦により人々の生き方、考え方がどのように変わったかは当時の記録等から想像するしかないのですが、戦争映画やドキュメンタリーでよく見られる、八月の玉音放送で国民がみんなで泣き崩れる描写というのはちょっと嘘くさいなと感じてしまいます。戦時中、国の方針に疑問を持たずに従う人もいれば、反発した人、従うふりをしながら舌を出して内心では馬鹿にしていた人など様々な人がいたと思うのです。そのため、一人の評論家のフィルター越しに過ぎないかもしれませんが、敗戦という社会の大転換のなかで、当時の人間のものの考え方がどのように変わったのか、または変わらなかったのかを興味深く読むことができました。

 また、社会の機運という大きなもの以外にも、著者の思考の根元にあるものを垣間見ることができたように思います。これまでの価値観が覆る状況下において、単に時流に乗っているだけの評論家の言葉はメッキが剥がれて脆く崩れ去っていくでしょうし、確固たる芯を持っているのであれば時代の変化の中でも消えることのない個性、オリジナリティが残ると考えます。私自身は、本作から著者の芯を感じることが出来たように思います。

 その意味で言うと、戦後生まれの世代は世界がひっくり返るような経験をしておらず、評論家や批評家の正体は未だ明らかになっていないと言えるのかもしれません。後々どんなみっともない正体が明らかになるか分かりませんから、色んな意味で声の大きい人に心酔するのは一旦保留した方が良いでしょう。

 確かに、戦後から現在に至るまでの間に社会の常識や価値観は変わってきました。仕事、家族、教育、性別などに対する捉え方は10年前と現在を比べても多くの差異が見つかります。しかし、こういった更新はあくまでガワの問題に終始しており、戦後から続いている価値観、より多くお金を稼ぐ人間が偉い、より多く満たされている人間の方が幸せという欲望肯定の価値観には一切手をつけていないと考えます。

 現代の価値観は歴史上の一時点に置かれたものに過ぎません。私たちが当たり前のように受け入れている資本主義という考え方にしても、人類の歴史全体から見れば、そう古いものではないのです。今の世の中のあり方が真っ向から否定される時が来る可能性は決して低くないものだと考えます。その良し悪しは分かりませんが。終わり

 

 

 

 

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