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前編

 私は祖母の家の雨樋が苦手だった。

祖母の家は北陸の山間部の村で、名前に雨がつく村だった。確か名を、濃雨村(のさめむら)

 夏になるとよく祖母の家に遊びに行っていたが、いつも、決まって雨が降っていた。

祖母の家での記憶で一番古いのは小1の夏だった。当時はテレビもブラウン管で、そういう山間部の村では

テレビの普及率が高いほうじゃなかった。祖母の家はそれこそ今で言う“古民家”だったが、テレビの配線関連の工事にお金がかかったのだろう、祖母の家にはテレビもなく、ただ嫌に涼しい畳の部屋と、祖母がきゅうりを切る音が一番、印象の強いものだった。


 中1の冬、私は初めて冬に濃雨村に連れて行かれた。

原因は父との確執だった。

 離婚までは行かなかったものの、母は父ととんでもない大喧嘩をして私を引き連れて、実家である

濃雨村に帰省した。

去年は中学受験で忙しくて、母だけの帰省だったから、実質2年と3ヶ月ぶりだった。

 「おかえり」

その日はいつにも増して雨が降っていたから、祖母は私たちを気遣ってバスタオルをくれた。

「あんた、隆治さん(父)と喧嘩したんだって? 何があったの」

 祖母・私・母は薄暗い居間のちゃぶ台に座り、コーヒーを飲みながらその確執の真相を聞いた。

父は衣服を製造している会社の社長だったが、経営がうまくいかなくなり倒産していた。

母は父を極端に責め、稼ぎ頭がどうするとまくし立てたらしい。父は最初こそ穏やかに対応していたが、

最終的にはほぼ激昂状態になり、喧嘩の火力は強くなった。母は祖母に、「反省しているの」と言い、

 それ以上この話題について口を開こうとはしなかった

祖母も深入りするのは良くないと思ったのか、それ以来この話題をすることはなかった。

 ふわーっと、風が吹いた。

 そこには、祖父がいた。

祖父は恰幅が良くて、いつもニコニコしていた。だが、その祖父は上裸で、あばらの骨が見るくらいに

痩せこけ、目は睨みつけているような、クマのある死んだ目をしていた。

でも見えたのは一瞬だったから、私は怖がったけど、その感情は持続しなかった。

 私は食卓の方へ首を動かした。


 でもそこに、祖父がいた。私の顔の至近距離に顔を出して。

「うわ、うわああああああ!」私は今まで出したことのないような大声を出した。

 「ど、どうしたの?」母と祖母が聞く。

「お、おじいちゃんが、おじいちゃんが!」私は指を指しながら言った。

「こら、おじいちゃんに指さしちゃだめでしょ?!」母に怒られた。

「おじいちゃん?」

 なんで二人は祖父を認識しているの?

「おじいちゃんは、2年前に急性心不全でなくなったよね?」

「何いってんの」お母さんは言った。

「おじいちゃんは今も生きてるでしょ?」

 祖父は「存命していた」のか?

謎だった。その瞬間、今まで少し小雨になりかけた雨の音が一気に変わった。

なにか、もっと重いものが落ちてきているような。

 「雹だね、雹に変わった。」

 祖母は障子を開け、窓の外に見た。


窓の外にも、祖父が立っていた。

「うわあああ!」私はまた大きな声を出した。

でも、その瞬間、祖父は消えた。

「あんた、さっきから何いってんの!?」母が怒った。

「だって、おじいちゃんが、しゅ、瞬間移動した」

「おじいちゃんは2年前に心不全でなくなったわよ?」祖母が首を傾げながら言った。

どういうことだ?祖父は生きているのか、それとも私の認識どおり…。

 「今日はねなさい。」

母と祖母に強引に寝かされた。

第2話までの連載予定です。

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