1.その少女は現れた。
「青桐くん…待っててね…会いに行くからっ…!」
…夢か…誰だったんだろう今の…何か大切なことを忘れた気がする…
高校2年生、今朝の夢のことが気になりながらも、夏休み1日目に俺は教室に忘れ物を取りに来た。誰もいない真夏の日光が差し込む教室で、ふとふざけたくなった。机のの上に立ち、隣の机に、隣の机にとアスレチックのように飛び移っているところだった。
「青桐くん、何してるの?」
うわっ見られたか…
窓のほうから聞こえた声に驚いて振り替えると、風でなびく黒い綺麗な髪の美しい少女がいた。
誰だろうあんな奴いたっけ…
「誰だよ、おまえ?」
「うふふ…青桐くんは僕のこと見えるんだね。でもやっぱ、覚えてないんだね…」
少女は透き通るような声でそう言った。
だが、その少女のことなんか覚えてなんかいない。俺の名前も知ってるみたいだし、僕のこと見えるんだねってどういうことなのか?ほかの学年か?とりあえず先生よぶか…
俺は先生を呼んできた。
「見かけない少女?いないじゃないか。見間違えじゃないか?」
「はぁ?いますよ窓際に立ってる…見えないんですか?」
でも確かにその少女は居る。
「青桐くん、無駄だよ。先生は見えないってっ…」
先生は少女の声も聞こえないみたいだ。そうなるとこいつは幽霊か幻覚になるな。
「先生、ちょっと用事があって…」
「おい、お前は幽霊か何かなんだろ!」
少女はすこし間を開けて笑いながら答えた。
「…そうだね。幽霊が一番近いと思う。ちなみに僕の名前は雫、白銀雫。よろしく」
雫…聞いたことあるような気がする。
「覚えていないって言ってたけど、俺とお前は知り合いだったのか?俺が忘れているだけか?お前幽霊なんだよな、記憶を操ってるとかじゃないだろうな?」
「まあそんな感じ。僕のこと、思い出してくれたら教えてあげる。」
でも思い出させる方法なんて聞いてないけど…
「思い出してくれないと成仏しないよ。僕、」
「わかったよ…思い出してやるよ。で、どうすればいいんだ?」
雫はニヤリと笑い、
「僕が生きてるときに僕と一緒にやったことをやることだよっふふっ」
そんなことで思い出してくれるならいいんだけどね…でも僕が消えるまでぐらいまた一緒にいたいしな。
「わかったよ。俺たちは何してたんだよ。」
「まずは映画館に行かなきゃ。夏休み中だから授業は受けられないし。あ、大丈夫だよ、僕は幽霊みたいなもんだからチケットは一人分でいいよ」
「わかった、どの映画館か教えてくれ。」
そう答えたら、雫は嬉しそうに笑った。
「スマホある?検索するから。」
「はい」
…やっぱり連絡先も消えてるか…あ、そうじゃなくて…あった!これだ!
「ここだよ、ここ、」
「そんなとこあったんだ…」
ビリッ… なんだ?今の…
そっか…そのことも忘れちゃったんだね…
「ここにはね僕と二人で行ったんだ。少し古かったけど人いなくて結構よかったところだよ。懐かしいな。今回もホラー映画見なきゃだよ。」
「へぇ…ホラーか。とりあえず行くか…」
なぜだろうこんな場所あることすら知らないのに、道がわかる…
「道、よくわかるね。もしかして行ったことあるの?」
「いや、ないな。こんな場所があることすら知らなかった。小さいし古いから行くわけねーよ。でもなんとなくわかるんだ、最初から知ってたみたいに…思い出してきたのかもしれない」
「そうなのかな…そうだと嬉しいな…」
まさか…まさかね…冗談で言ったことなのに…偶然かな…
「なぁ雫はどんな奴だったのか?何か思い出せるかもしれないと思って…でも俺たち恋人だったんじゃないのか?2人で映画館行くぐらいだし。」
「そうだよ。僕と青桐くんは恋人みたいな関係だったよ。去年の入学式に初めて会ったんだよ。よく思い出してみなよ。何か覚えてるかもだよ。」
恋人みたい?恋人じゃなかったのか?いや…まさか結婚ではないよな…まだ15歳だったし。じゃあ友達か?でも俺が高校生になってすぐに市川と堀部と鹿野と友達になって…いつも5人でいたはず…
ズキンッ…
―—――—―——それなら僕たちは親友だね
…なんだ…今の…雫の声に似ていた気がする…
「どうしたの?なんか泣いてる…?どうしたの…?」
「え?…いや…何でもない…」
あれは雫だったのか…?じゃあ…俺たちは親友だったのか?
「俺たちは親友だったのか?」
「まあ、表向きはそんな感じ。」
表向きってなんだよと思いながら俺はなぜ出てきたかもわからない涙をぬぐった。
「つぎの角右のところだよな?」
雫はうなずきながら少し懐かしそうな眼をした。
「ここだよ。僕と青桐くんで観に行った映画館は…」