「君の妹と結婚したいと思う」「100人いますがどの妹ですか」
「俺は君の妹と結婚したい。君のような子は嫌だ」
式場で流すテーマソングで揉めたところで、夫となるハザードが言った。
えええもうカセットテープは準備しましたよと、おろおろとするウエディングプランナー。
エリザベスは落ち着き払って尋ねた。
「妹は100人おります、どの妹でしょうか」
「まって、妹100人、嘘だろう」
「父がこれでもかと妾を作りまして、皆平等に最低一人は産ませたところ、全員女性で」
「平等といっていいのか」
「私の母はちゃんと兄と弟を生みましたので後継ぎ問題はオールオッケーです。母は父を愛していますが、父の性豪っぷりにだけは愛想を尽かしておりましたので。求人募集に『父の夜伽を務めてくれるなら手当てあり、産休、育休完備』とつけましたところ次から次に応募がくるわくるわ」
「君は娘として微妙な気持ちにならなかったの」
「父はあの通り美形で文武両道、不老不死以外の全てを手に入れた男ですので、まあ子孫繁栄した方がいいよなあ……と納得しております」
「そんな男を見慣れた君の夫になる覚悟が足りない気がした」
「でしたらどうぞどうぞ、妹を。妹100人おりますけどどの子ですか」
「よく考えたら妹も全員君と同じ父親なんだよね? やっぱり覚悟が足りない気がした」
「令嬢に婚約破棄をつきつけたのですから、あなたも吐いた唾は飲み込みなさいますな」
「いきなり君の圧が変わった」
「ほらほら、早くどの妹がいいのかおっしゃいなさいな」
「ええ……」
「ほらはやくはやく」
「じゃあ一つ下の妹……?」
「わかりました、ロザーナですね」
「初めて聞いたよ」
「では私の妹ロザーナとお試し結婚ということで、じっくりご検討ください。どうせ披露宴会場には「ムッシュ侯爵家とドブルス侯爵家の結婚披露宴」としか書かれないので、私だろうがロザーナだろうが、他の99人だろうが些事です」
「書類仕事って雑だなあ」
「家系図だって令嬢は所詮女としか書かれないので、多少違ったって誰も気にしませんよ」
「僕は気にするし、ロザーナも気にしないの? そもそもロザーナに確認取らなくていいの」
「ロザーナはいいって言ってます。私の心の中で」
「言ったんだ……」
「チェンジは年一しか許しませんよ」
「許してくれるんだ」
「100人全部を試したら100年かかりますわね」
「さすがにそんなことはしないよ」
「そうですね、父もまだ現役なので100人お試しがおわったらおかわり300人くらいいるかも」
「まじか」
そんなこんなでハザードはエリザベスの下の妹、ロザーナとお試し結婚した。
結局その後毎年お試しで交換して、そのうちにハザードは天寿を全うした。
100人の妹が実は全部髪型を変えたエリザベスだったことは、2年目くらいで気付いたけれど、なんだかんだ二人とも100人の妹の嘘はそのままで続けた。
結婚したけど離婚してまた来年は別の妹、なんて感じで。
エリザベスの父は実はエリザベスが4歳の時に亡くなっている。
エリザベスと兄と弟と母、四人を天災から守って亡くなった、優しく強い父だった。
けれどエリザベスとハザードの嘘の中では、永遠に父は優しく強く性豪で、300人の妹を産んで繁栄した優しい父だった。嘘の中で母は「あの人ならそういう人生でも許したのにね」と笑っていた。
たくさんの姉妹の振りをして生きたエリザベスと、たくさんの姉妹を愛したハザードは最期の肖像画まで手を繋ぎ合っていた。