タイムリミット
夢を見ていた。その夢には今まで五人で経験した、たくさんの思い出が次々とフラッシュバックする。今まで皆が僕にかけてくれた何気ない言葉などがが次々と思い出される。その言葉達を思い出せば出すほど今の僕の胸にはなぜか苦しいほどに突き刺さる。そして「等々この時が来た。」僕はそう思った。
「じゃあね!」
「ほな!」
「じゃあな!」
芽衣に続いて継志、朝陽はそう言い、僕の下から去っていく。
「今までありがとう、広人。」
「はっ!」
僕は言葉に表せない喪失感とともに勢いよく目を覚ました。
「なんで・・・。」
気がつけば僕の頬から涙が伝っていた。夢は思い出せないのに、この胸の奥の喪失感はなぜか消えなかった。
「っ!」
次の瞬間大きな揺れが僕を襲った。ここまで経験したことがないほどの揺れに僕は一瞬ヒヤッとする。
「止まった。」
しばらくすると揺れが収まり、ほっと息をつく。
僕はリビングから母の声が聞こえてきた。僕はその声を聞くと早足でリビングに向かった。
「はっ!」
僕はそれを見て目を見開いた。
東京の一部地域が水没による被害を受けたというテレビニュースが報道されていたからだ。誰も予想できなかった突然の出来事にニュースでは大きく騒ぎ立てられていた。政府はこのことで急速に都民の移住う計画を早めると発表した。
そんなニュースを見ていると突然、僕のスマホから着信音が聞こえた。僕はズボンのポケットからスマホを取り出すと、そこには芽衣の名前が表示されていた。
「おはよう芽っ」
「広人どうしよう!」
電話に出た瞬間、芽衣がとてつもなく焦った声で僕に言った。
「芽衣落ち着いて!どうしたの?」
僕はそんな事を言いながらなにか嫌な予感を感じていた。
「広人もニュース見たでしょ!あそこ舞の家の近くなの!。」
「えっ・・・」
「舞にも連絡したんだけど全然繋がらなくって!」
僕は次の瞬間頭が真っ白になり、思考が停止した。なぜ思い至らなかったのかは僕にも分からなかった。
気づけば僕は玄関から飛び出し走り出した。
「舞さん・・・」
街は多くの人が慌ただしくしていた。
「俺急いで家に帰えんねぇと。」
「今日会社休業だって。」
多くの人は突然早まった変化に困惑していた。
広人は駅に向かって一生懸命に走った。
「っ!」
駅につくとそこは人で溢れていた。さっきの揺れや路線の一部が水没に巻き込まれ電車は運休したようだ。
「どうすれば・・・」
するとスマホの着信音がなる。見るとそれは継志からだった。
「もしもし継志。」
「広人どこにおるっ?」
「今近くの駅まで来たんだけど電車が動いてないんだ!」
「当たり前だ、東京の殆どの電車が今止まっとる。」
「っ!?」
「俺も向かうから広人はとりあえず学校の方に向かっとってくれ!」
「分かった!」
僕は学校に向かって走り出した。
「やっと着いた。」
学校付近まで着いた頃には汗をかき息も荒くなっていた。
「奥野っ!?」
「高木先生!」
学校を通り過ぎようと横切った時、偶然高木先生と鉢合わせた。
「お前何やってんだ?お前の家ここら辺じゃないだろ。」
汗を流し、息の荒い僕を見て困惑しながら先生は言った。
「あの、僕舞さんの所に行かなきゃいけなくて!」
「っ!?お前何言ってんだ、行かせられる訳ないだろ!」
僕が答えると先生は一瞬驚き、焦ったような仕草でそう言った。
「何か知ってるんですね・・・じゃあ何で!」
「危ねぇからに決まってんだろ!さっき水瀬の両親から連絡があった。水瀬がどっか行っちまったって。」
「舞さんが・・・」
舞さんの行方がわからないことを聞き、僕の焦りを加速させた。
「とにかく後のことは大人に任せてお前は家に帰れ。」
「嫌だ。」
高木先生から言われた一言に僕の心の声が漏れる。
「嫌ってお前・・・」
「僕やっと見つけた気がするんです大切なものを。これから僕たちは離れて行きます。もしかしたらもう二度と4人と会えないかもしれない。僕たちのこの行動も無駄なのかもしれない。分かってるんですそんなことは。」
「お前何言ってっ」
「でも、今伝えたいこと、伝えなきゃいけないことがあるんです!」
「・・・」
「もう一度、後一度でいいから四人に会いたいんだ!」
僕は今の気持ちをを全力でぶつけた。
「・・・俺は担任になってから2年間お前達を見てきた。」
先生は僕の言葉にうつむきながら目を瞑ったあと、高校の教室の窓を見て話し始めた。
「最初はなんて能天気なガキ達が入ってきたなと思ったよ。」
先生は笑いながらそう言ったあと「でもさ」と続けた。
「お前達を見ていく内に気づけばお前達が眩しく見えた。お前から俺は元気をもらってたんだ。だから俺は思ったんだ、俺は間違ってたんじゃないか、お前達ならこの先どんな事があっても幸せに生きていけるんじゃないかって。」
「先生・・・」
「未来が暗い訳ないよな、きっと今よりも幸せになれるに決まってる!」
僕が、僕たちがずっと言ってもらいたかった言葉。この言葉をずっと僕らは、先生達大人に笑顔で言ってほしかった。
「こんな俺に大切な事を教えてくれてありがとな、お前らは俺の誇りだ!」
そんな先生の姿を見て、僕は笑いながらも涙が流した。
「先生のクラスで良かった。」
僕が感謝の意を込めて言うと、一瞬笑みを浮かべた。
「お前達の両親には俺が説明しとく、だから行って来い!」
「はい!」
僕は先生の言葉に背中を押されるように走り出した。
今から約一時間前
「もしもし、高木ですが。」
「もしもし、突然のお電話してすみません。水瀬舞の母の水瀬加奈恵と申します。」
「あっ、舞さんの・・・どうされました?」
「実は娘がどこかに行ってしまったみたいで、そちらに向かったのではと思ったんですけれども。」
「なるほど、すいませんが娘さんはこちらには・・・」
「そうですか・・・あっいえいえこちらで探しますので・・・はい・・・突然お電話して申し訳ありませんでした、それではっ」
「あっすいません、どうして娘さんがこちらに向かったと?」
「実は・・・私の仕事が忙しいこともあって、娘とは随分前からしっかりと向き合えてないんです。」
「他のご家族とは?」
「夫は随分前に他界してしまったものですから。」
「っ!?それは失礼しました。」
「でも・・・最近の娘は高校に入学してから、なんだか楽しそうに見えたんです。」
「・・・」
「だから思ったんです、きっと舞にとって大切なものは学校にあるんだなって。」
「そうですか・・・娘さんはきっと何か、唯一のなにかに出会ったんだと思いますよ。」
「幸せだったぜ、俺も。」
彼女の元へ駆けていく広人を見ながら高木呟いた。その表情はどこか寂しそうでそれでいて晴れやかだった。
「ハァーハァーハァー」
広人は水没の被害地点へ走っていた。すると後ろから車が迫ってくる音が聞こえてくる。
「広人!」
「継志に朝陽!?」
横を振り向くと五人乗りの車には助手席に座る継志に運転している朝陽、後部座席には芽衣が座っていた。
「急ぐから後ろ乗れ!」
その言葉で僕は後部座席に急いで乗り込んだ。
「この車どうしたの!?」
「親に借りたんだよ!18歳になって速攻免許取って良かったぜ。」
現在水没の災害により道路はどこも混雑していた。朝陽は運転経験もまだ浅いことも相まってどこか緊張した様子だった。
水没地点の付近。そこには今はもう使われていない工場跡だけが残っていた。この場所も先程の水没により建物が一部崩れ、地面には所々水が浸水してきている。
「私、なんでこんなとこまで・・・」
人の気配などないこの空間に彼女の声だけが響く
「なんで逃げてきちゃったかな・・・」
彼女はしゃがみ込むと、地面にある水溜まりに映る自分を見て呆れ笑うように呟いた。
「芽衣、舞から連絡は?」
朝陽が名に話しかけた。
「だめ、繋がらない」
「あっこは水没のせいで電気とか電波は停止しとるらしい!」
継志がスマホで調べながら言う。
「ていうか、全然前に進まないんですけど!」
その時、カーナビからこの先3キロ渋滞していると言うアナウンスが流れた。
「3キロ先までこのままなの!」
「これじゃあ、しばらくは前に進めねえな。」
芽衣の後に朝陽がため息をつきながら言う。
「僕ここで降りる!」
僕はいても立ってもいられず車から飛び出し、走り始めた。
「ちょっと広人!」
「ごめん、先に行く!」
芽生に呼び止められるが僕は足を止めずにそう言った。
「もう!」
芽生は少し怒ったように言った。そんな芽衣を見て、内心は広人が羨ましいんじゃないかと朝陽は思った。
「ったくあいつは・・・」
朝陽は呆れたように言った後、嬉しそうに笑い出した。
「もしかしたらさ、舞は広人を待ってんのかもな。」
朝陽は一人そう言った。




