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時が経てば  作者: たいと
4/7

分岐点

3年生になり僕たちはそれぞれの進路に向けて進み出した。僕は家族との検討の末、名古屋にある大学の文学部を第一志望にしていた。

「よっ広人!頑張っとんのー。」

放課後、僕が教室で受験勉強していると継志が教室に入ってきた。

「継志!なんか久しぶりだね。」

「最近は五人で集まることも減っとるしな。」

三年になってから僕たちは全員違うクラスになっていた。それぞれ忙しいこともあって、五人で集まる機会は減っていた。

「継志はここで油売ってていいの?」

「俺は実家の石川に帰って、実家の家業を継ぐ予定やからぶっちゃけ暇なんよ。」

継志は実家に帰り、家業である農業を手伝うそうだ。まだ将来のことを明確に決めてない僕にとって、既に進む道を明確にしている継志には凄いなと思わされる。

「そっか、なんか就職するって聞くと急に継志が大人になった気がするよ。」

「そんな事ねえよ、俺はまだまだ子供だ。」

本人はそう言うが、僕はどんどん大人になっていく継志を見てなんとなく感慨深い気持ちになった。

「俺達将来どうなんのかな?」

そんな事を考えていると、継志が突然ボソッと呟いた。

何気なくつぶやかれた一言。だけど、その継志の表情を見て僕はあの日の朝陽の表情と重ね合わせた。

「どうしたの急に?」

「いや、なんか高木先生の話思い出してさ。」

継志の言葉で僕の脳裏にも高木先生の言葉が思い返された。

「僕は大人になりたくないな。」

気づけば僕の口からも言葉が溢れた。


茨城県日立市のの水没から始まって1ヶ月、僕は晴れて第一志望の大学に合格していた。だと言うのに、僕の気持ちはどこか晴れなかった。スマホには毎日のように水没による災害の進行のネットニュースが掲載されている。


「あっ広人!」

教室に入ると、久しぶりに聞く優しく透き通るような声が僕を呼んだ。

「久しぶり舞さん!」

都民の移住の問題により今日僕たちは一足早く卒業を迎えた。僕たちは卒業式後に五人で教室に集まることになった。

「聞いたぞ芽衣オーストラリアに行くんだって?」

「まあね!あっちの大学に入学しながら英語の勉強もしようと思ってるんだ!」

朝陽の質問に相変わらず元気に答える芽衣を見て、僕は芽生は相変わらずだなと思った。

「まだ全然勉強中なんでしょ?なのに一人で行くって聞いたときは僕もすごい驚いたよ。」

芽生の行動力の凄さは前から感じていた。僕が受験勉強していた頃聞いた、芽衣のオーストラリア行きの話は僕が受験を頑張れた理由の一つだ。

「私はそんな性格で実は教師目指そうとしてるこっちのバカに驚いたけどね。」

「うるせーな!」

最近朝陽はこの話でからかわれている。朝陽は広島にある大学で教師を目指すらしい。

「継志は石川で家業を継ぐらしいし、広人は名古屋だろ。舞は九州だっけ?」

「うん。私は福岡の大学に行くつもり。」

僕は今まで舞さんの進路を聞けなかった。

「そういえば舞の両親はどうするの?」

「親は父方の実家の愛媛に移住するって」

「こうやって聞くとみんなそれぞれの進路に向かってくんだなって実感するね。」

突然芽衣がしみじみとそういった。その表情には少しの嬉しさと不安や寂しさが写っていた。

「今まで俺たちちゃんと将来について話したことなかったもんな。」

そう、僕たちはこれまでどこか将来に対する本音や話題そのものから逸してきた。

「僕はすごいと思ったよ。みんなが将来についてそんなに一生懸命に考えてるなんて知らなかった。」

「そうやね。今の話聞いてみんな少しずつ変わっていくんやなって思ったわ。」

僕たちはもうすぐ来るだろう別れの時を意識する。それでもどうにか前向きに明るく会話を続けようとしている。

「俺はこの居心地が良くて面白いこのグループが好きだったからさ、少し寂しいぜ。」

朝陽も同様に、笑いながら冗談っぽく口にした。普段の朝陽なら冗談でも言わないことを話しているということが、五人の別れの時が迫っていることを予感させる。

「ずっとこのままだったらいいのにね」

舞の何気なく発した言葉が教室に響く。

「そりゃ無理だな。」

数秒の沈黙の後、教室のドアの方から声がした。

「誰だっていつか大人になる、時間の流れには逆らえない。」

そこには教室に入ってきた高木先生の声がした。

「そんなこと・・・私達だってわかってます。」

高木先生は「そうか。」と先生は呟いた。

「お前ら自分の将来とちゃんと向き合え、じゃないと後悔するぞ。」

その発言は今までの高木先生の発言とは思えないほど僕たちの核心を突き、胸に刺さるものだった。

「俺みたいになるなよ。」

この時の先生の言葉はなぜか僕たちの心に残った。


あたりが暗くなり始めた頃、学校を出て僕たちは解散し、今は舞さんと二人で幾度も通った通学路を歩いている。僕と舞さんの別れの時も着々と迫っていた。それなのに僕たちの間の会話はいつになく少ない。

「広人。」

僕の前を歩いていた彼女は不意に止まり、僕の名前を呼んだ。

「なに?舞さん。」

「私あの時先生に言われた言葉がさ、ずっと心に残ってるの。」

「・・・。」

「私先生を否定したかった。これからも私達は一緒だって。けど、できなかった。」

「うん。」

「広人はさ、未来が怖くないの?。」

「僕は・・・。」

怖くないわけない。でも僕は今の舞さんに何をどう伝えるべきかわからなかった。

「私はやっぱり・・・怖いよ。」

僕は俯く彼女の背を見ていた。彼女は声を震わせて言った。

「僕も怖い」

本当なら僕はここで励ましの言葉を送るべきだったかもしれない。でも僕には嘘をつくことはできなかった。

「僕は今まで四人がいたから怖くなかった。四人が僕を未来への不安から守ってくれてた。」

四人といる時、その空間は僕たちだけが共有できる特別な空間で、この時間だけはいろんな不安なんて忘れてしまうほど僕にとっては鮮明に輝いていた。

「僕、もう少しで見つかる気がするんだ。顔を上げて前に進んでいけるような()()()()()()()。」

僕は今の自分の感情を全力で彼女へとぶつけた。彼女は目を見開いて驚くような表情を浮かべた。

「舞さんも見つかると思うんだ。うまくいえないけどきっと答えはもう舞さんの中にある。」

「そうなのかな・・・」

舞さんは僕の言葉にうなずき、噛みしめるように返事をした。





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