道
高校ニ年生という僕達にとって特別な一年間はあっという間に過ぎていった。東京の水没予測がされている為、移住する必要がある僕たちは進路決定のリミットが早まっている。僕たちは3年生になり、間もなくそれぞれの進路に向けての準備が始まる為、僕たちは忙しくなる前にもう一度遊びに行くことにした。
「みんな、おっはよう!」
「自分から遊園地に誘ったくせに一番最後に来るってどうなんだ?」
いつもの元気な挨拶で駅前にやってきた芽衣に朝陽は待ちくたびれたと言うような表情で言った。
僕たちは今日遊園地に行く事になっていた。僕はみんなと来るのを楽しみにしていて、昨夜はなかなか寝付けないほどにワクワクしていた。
「朝陽、今日楽しみにしすぎて一時間も前から待ってたんだって!」
「余計なこと言うなよ舞!」
朝陽が恥ずかしがっているのを見て僕も笑ってしまう。
「可愛いね朝陽君、そんなに私と行きたかったんだ。」
「違ぇよ!別にお前と行きてぇ訳じゃねぇ!」
「またまた〜」
そんな朝陽を揶揄う芽衣に朝陽が猛烈に反論していた。僕たちはこんなやりとりを見ながら笑っていた。
「それじゃ行こうぜ!」
気を取り直した朝陽の言葉に続いて僕たちは遊園地に入場した。
「ハー!ジェットコースター楽しかったー。」
芽衣の未だ興奮冷めやまぬような声が響いた。
「芽衣、後ろの方の席の人に笑われてたよ。」
「めっちゃ騒いだったもんな!」
「舞だって叫んでたじゃん。」
そんな芽衣がおかしかったのか、舞と継志が笑い出した。
いくつかのアトラクションに乗り僕たちは少し休憩をしていた。
「ほらよ!」
元気が有り余ってる三人をよそに僕は少し離れたベンチに腰掛けていると、朝陽が買いに行ってくれた飲み物を僕に渡した。
「ありがとう。」
「あいつ達テンション上がりすぎだろ。」
僕の隣に腰掛けた朝陽は笑いながらそういった。そう言う朝陽もさっきまでテンションが高かったけどと思いながらも口には出さない。
「まあ、当分はみんなで集まれないからね。」
「そうだな。しかし随分仲良くなったもんだよな俺たち。」
三人を見て、朝陽は少し懐かしむようにそういった。
「うん。一年前まではこんなに仲良くなるなんて思っても見なかったよ。」
「だな。」
共通点も特にない個性的な五人がここまで仲良くなれたのは今でも少し不思議で、僕はそのことが嬉しく感じていた。
「俺はさ広人、俺を受け入れてくれるお前らにすげー感謝してるんだぜ。」
「どうしたの急に?」
恥ずかしげもなくそういう朝陽に僕は笑いながら聞いてみる。
「いや、なんとなくさ。」
そんな朝陽のこれまで垣間見えることのなかった表情に僕は印象付けられた。
「そっか。」
普段なら言わないような発言をする朝陽に珍しさを覚えながらも僕はうなずいた。
「僕も好きだよ。この空気はなんというか居心地がいい。」
「ああ、おかげでこの一年はすげー楽しかったよ。後は彼女さえできれば俺の高校生活文句なしだ。」
僕の言葉に朝陽は冗談を言いながら笑った。その笑顔はいつもの朝陽そのものに戻った。
「そうだね。」と僕が笑いながら言うと、
「で、広人はどうなんだ?このまま卒業する気か?」
「どういう意味?」
朝陽の唐突な質問に驚き、訪ねた。
「どうって恋の話だよ、俺はてっきり・・・」
朝陽がそう言いかけた時、芽衣の「早く次行くよー!」という元気な声が聞こえてきた所で朝陽との会話は終了した。
日が沈み始めた遊園地の広場には笑顔で帰っていく学生やまだ帰りたくないと親に向かって駄々をこね始める子供の姿があった。
「もう暗くなってきちゃったね。」
舞も残念そうな声でそういった。もうすぐ楽しかった時間が終わるのが悲しいのだろう。
「最後だし観覧車乗ろっか!」
未だに元気な芽衣からの観覧車に乗ろうという提案で僕たちは最後に観覧車に乗ることになった。
「でも5人はちょっと狭いやろ。」
「じゃあ二手に分かれよっか!」
芽衣の提案により僕たちは2グループに分かれることにした。
「どうやって決めよっか?」
僕はみんなに案を求めた。
「ジャンケンでいいんじゃね?」
という朝陽の提案によりジャンケンで決めることになった。
「じゃあみんなグーかパー出してね。行くよー!」
芽衣が元気よく開始の合図を出した。
「「「「「ジャンケンポンッ」」」」」
日が沈みかけた観覧車前の広場に五人の楽しそうな声が響いた。
ゴンドラからはあたり一面を見渡す事ができ、沈む夕日はゴンドラからの眺めをより一層の絶景へと変えていった。
「二人で話すのってなんか久しぶりだね。」
舞の少し気恥ずかしそうな声色がゴンドラに響く。
ジャンケンの結果僕は舞さんと二人でゴンドラに乗ることになった。乗る前に朝陽からサムズアップをされたが、その時の表情は妙にムカッときた。
「そうだね、最近は大体五人でいることが多かったし。」
僕たちは五人で行動するようになってからは二人で話をする機会は随分と少なくなっていた。そのせいか対面するような形で座るこの状況は、舞さんだけでなく僕も少し照れ臭く感じていた。
「今日はあっという間だったなー、やっぱりみんなといると、色んな事を忘れられるなって思った。」
舞はゴンドラの窓の外を見ながら嬉しそうでどこか寂しそうな表情でそう言った。
「だからさ、これからなかなか頻繁には会えなくなると思うと少し寂しい。」
「うん、僕も。」
しばらくは会えないということを今日が終盤になるに連れ、僕は実感していた。
僕たちはずっと友達だと僕は信じたい。だけどこれから時間が立つに連れ、ずっとこの関係のままではいられない。そんな気もしていた。
そんな時ヒューという音が聞こえてくる。外を眺めると光が空に上昇していく。やがて光は大きな音とともに華麗に爆ぜた。
「わ〜!綺麗・・・」
彼女は花火に釘付けになっていた。僕も花火を通してたくさんの思いを巡らせる。
しばらく花火を見ていると、
「私、まだやりたい事はわからないけど、とりあえず大学で色々学んでみることにしたの。」
舞さんを僕の方を見ると笑顔でそう言った。
「そっか。舞さんはきっと好きな事をやるのが一番あってると思う。今はすごく楽しそうだ。」
僕は彼女にそう言うと彼女は「そうかな?」と照れくさそうに言った。
「出会った頃と比べると舞さんは笑顔が増えた気もするし。」
「うん。みんなと過ごすようになって、私皆から勇気をもらってるの。皆といると自分も好きなことを思い切りやろうってだんだん思うようになった。」
そう言った彼女の表情は音楽を語る時の表情と重なった。
「広人は何がしたいの?」
「僕はその答えがまだ見つかってない。でも、最近思うんだ。誰かの背中を押してあげられるような誰かの人生に影響を与えられるような人になりたいなって。」
僕は初めて自分の胸にとどめていたことを話した。
「そっか、なんか広人らしいね。」
彼女はクスッと笑いながらそう言ってきた。彼女の意外な反応に、彼女が僕という人間を理解してくれているような気がして少し嬉しくなると共に、先程と立場が逆転するように僕は照れくさいような気持ちになった。
「広人なら絶対なれるよ!そんな気がする。」
彼女は確信したような様子で僕を見つめる。彼女の表情は僕を釘付けにする。
「君だから大丈夫だよ。」
花火の光に照らされた彼女の言葉と笑顔は花火よりも僕の心に残るものだった。




