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時が経てば  作者: たいと
1/7

出会いと始まり

 「怖い。」

あたりは真っ暗で唯一見えるものは前方に見えるのはブラックホールのようなもの僕は何もしなくてもやがてあれに呑まれるだろう。あの先には何かがあるのかどうかもよくわからない。だけど、誰かが言う。

「あの先は地獄だ」と、



僕はずっと何かに怯えている。何に怯えているのか、何がきっかけなのか具体的なことは自分でもよくわからない。ただ僕は、僕たちは漠然と未来に怯えている。


「今日のニュースです。山形県の水没災害から3年が経過しました。政府や自治体などによる懸命な復興活動により、現在は元の姿を取り戻しつつあります。そして次の水没地点として予測されているのはここ東京を含む関東地方ですが政府は・・・」

 

「ピッ(テレビの電源を消す)」

現在の日本は数年単位で水没する災害が起こっている。予測では関東の水没が始まるまで約3年半から4年と予想されている。関東地方に住む人々はそれまでに移住しなくてはならず、従来の水没災害とは違い、特に東京の復興となると元の姿まで復興するまでの目処は予測できないそうだ。

 

「行って来ます。」


桜が咲き始めた4月の東京。太陽の白色光がアスファルトで反射し周りの景色も少し白味がかって見える。そんな中まだ着慣れていないグレーのズボンに、ネイビー色のブレザーを纏って、少しばかりの緊張感を帯びながら登校する一人の青年がいる。


「高校生活、少し緊張するなー。」


これから始まる入学式に不安と少しばかりの期待を抱きながら奥野広人(おくのひろと)は高校の最寄駅からの通学路を歩いていた。周りには同じ制服を着ている高校生達が歩いている。この通学路は桜の街路樹に包まれていて、どこか新生活の始まりを予感させた。


「体育館ってどこだ?」

なれない通学路を通り無事についたはいいが、現在入学式が行われる体育館の場所が分からず校舎をさまよっていた。この学校の校舎は建て替えられてから間もない校舎でユニークでオシャレな雰囲気ではあるが、それ故に校舎の構造は複雑だ。間もなく入学式が始まることもあり、僕は早足で体育館を探していた。


「うぉ!」

「あっ!すいません!」

僕はキョロキョロしながら歩いていると、曲がり角で男性教師と衝突してしまった。

「ったく、新入生か?気をつけろよ。」

そういった教師は少し小太りな髭をはやした40代くらいの男だった。首にかけた教員証には高木健二(たかぎけんじ)と書いてある。

「体育館を探していたら早足になってしまって。」

僕はごまかすように笑いながらそういった。

「はー、急いでるのはわかるが、前見て歩けよ。」

僕の反応を見た高木先生は呆れたようにそう言う。僕は「すいません」。と言いながら誤魔化すように笑った。

「体育館ならあっちだぞ。遅れないうちに行きな!」

「あっ、はい。ありがとうございます。」

そうお礼を言って僕は再び歩き出した。



体育館に着くと、そこには既にたくさんの新入生が集まっていた。彼らの顔にはまだあどけなさが残っており、表情には不安と少しの期待の色を帯びているような気がした。


「在校生の皆さんご入会おめでとうございます。我が校は・・・。」


入学式が始まり校長先生からの祝辞や来賓の紹介などが行われる。教師陣の中には目を瞑る人や気だるげに聞いている教師もいる。広人は辺りの新入生を見ながらこれからの学校生活を想像していた。僕はクラスに馴染んだりするのが苦手だ。僕自身別に人付き合いが苦手なわけでも人見知りなわけでもない。ただ、なんとなく感じる集団独特の窮屈さが僕はたまらなく苦手だった。入学式が終わると僕はなれない空間から逃げるように学校を出た。




入学式が終わり僕は行きにも通った通学路を帰っていた。しばらく歩くと、小さな橋とその下に川が流れている場所があった。そこはまるで東京とは隔絶されたような自然あふれる場所で、人通りが少なく静かでどこか落ち着けるような空間だった。先程まであったどこか息苦しいような気分も気づけば忘れていた。登校時は緊張のためか気づかなかったが、どこか自分らしくいられるこの場所を僕は妙に気に入った。

この場所の雰囲気に思わず見惚れていると、ふと誰かの気配がした。その気配に僕は、何故か一生懸命に探すように振り向いた。そして僕の振り向いた先には1人の女の子がいた。偶然であった女の子。でも、この出会いが確かに僕の人生を変えた。


「おい広人、カフェ行こうぜ!」

授業終了のベルが鳴ると直ぐに前の席に座っている男子から話しかけられる。

「授業がやっと終わったってのに元気やな朝陽は」

するともう一人の男子が近寄ってくる。

「ははっ相変わらず朝陽は変わんないね。」

「まあな!」

この二人の男子は僕の友達の篠崎朝陽(しのざきあさひ)山田継志(やまだけいし)。入学してから一年が経ち、僕は二年生になった。思えばこの二人とは一年生の頃からいつも一緒にいる。

「幸せそうでいいな高校生は。遊ぶのもいいが程々にしとけよ。」

3人で話をしていると担任の教師の高木先生が僕たちの会話を聞いていたのか皮肉めいた口調で言いながら教室を出て行った。

「それで二人は行くだろ?」

「ごめん二人共、今日僕バイトなんだ。」

「マジかよ~」

朝陽は少し残念そうに言った。

「しゃあねえ、継志と行ってくっか!」

入学式から一年がたった今でも僕は何も変わらず、僕が入学したあの日と同じ通学路を歩いている。思えば今日はこの桜道に暖かい空気に涼しい風もあの日とどこか似ている。

しかし駅のホームに着いた時、いつもの見慣れた景色とは少し違うと感じた。それはきっと見慣れたはずのホームに1人の女の子が立っていたからだと思う。

「あの子・・・」

春の匂いを届ける爽風に長い黒髪をなびかせるその子はの姿は、なぜだかとても尊く感じた。それはその淡麗な容姿からくるものではなく、彼女の雰囲気からくるものだろう。

「あっ!こんにちは」

彼女はこちらに気づくとすぐに挨拶をしてきた。僕は既に彼女のことを知っていた。

「君はっ」

「私は水瀬舞。広人君だよね、久しぶり!」

彼女はどうやら僕の名前を覚えていてくれたようだ。

「覚えててくれたんだ。」

「もちろん。」

「舞さん帰り道こっちだったの?」

「私少し前に一人暮らしを始めたの。それで・・・」

「そっか・・・」

一年も関わる事のなかったせいか頭が回らず、上手く話せない。話したい事はたくさんあったはずなのに。

「広人君は学校どう?」

「ああ、うん。友達もできたしまあそれなりに」

「そっか、良かったよ元気そうで!」

彼女は僕の返答を聞いて嬉しそうに言った。

一度しか会った事がないのにも関わらず、彼女の笑顔は相変わらずだなと思わせるほど印象的な笑顔だった。  

「舞さんは?最近どう?」

「私はそうだねー。結構充実してるかな!」

そう答えた彼女の花が咲いたような笑顔はこの一年間の舞さんが幸せだったという事が伝わるものだった。

「・・・良かったよ、なんか安心した。」

「なんでそんなに嬉しそうなの?変なの!」

僕はその言葉を聞いて、高揚するような嬉しさが僕を包んだ。その反応がおかしかったのか、彼女はクスッと僕を見て笑った。


そこから同じ電車に乗り久しぶりの会話を楽しんだ。先程まであんなにぎこちなかった会話もしばらくすれば時間を忘れてしまいそうなほど楽しいものへとなっていた。

「じゃあ私はここで。」

「うん、またね!」

しばらくすると彼女は途中で降りていった。僕の胸には明日への期待を抱いていた。


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