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ひも  作者: 二時夢!
8/8

3 戦闘

 ルリは暗闇に向かって叫ぶ。

 「おい、出てこい。恥ずかしがるようなタマじゃないだろう。」

 ルリの美声が静寂に響く。

 彼女の美声の波は別の声によって消散する。

 「いやいやいやいや、新しいお洋服を手に入れたあなた様に比べたら私なんて下の下ですよ、リナリア様!」

 両手を広げながら柱の裏から出てきた男は仰々しい態度でルリに喋りかける。

 「その名前で呼ぶな、インパチェンス。」

 ルリはインパチェンスと呼んだ男を目を細めて睨む。

 男はその眼光に怖気づく芝居をすると、一瞬で態度を変えて芝居がかったセリフを叫ぶ。

 「ははっ裏切者が生意気な口をききますねぇ!流れるままに生きるのが信条の私からしてもリナリア様、あなたは超超大大大大だーいピンチなんですよ?分かってます?」

 「嫌われ者のあんたよりピンチってこと?」

 「そーゆーことです。」

 ルリはため息を一つつくと男に確認を取るように言う。

 「昼にここに来た時に気が付いた。あの変態が来てる。知ってるだろう?」

 男は少しわざとらしくうんうん左右に揺れ、悩むそぶりを見せたのち

 「まあ、はい。そうですね。今の私、その変態の下僕なので。」

 「くそったれ!」

 男の発言の次の瞬間、物陰から黒ずくめの「何か」が飛び出してきた。ルリは一言叫ぶと腰に下げた刀を抜くと押し寄せてくる「何か」に対処を始める。

 「放置しすぎたかっ!」

 次々に襲い掛かってくる「何か」の攻撃を捌く。

 振り降ろされた刀を刀で受け止め力で払い、空いた腹に蹴りを入れる。

 破裂音がして「何か」が後方に吹っ飛んでいく。

 後ろから薙がれる刀を、体を前に倒してよけたかと思ったらその流れで回転し彼女の周囲に密集する「何か」の足元を薙ぐ。

 回転の勢いで態勢を立て直した彼女は倒れた何かの頭を踏み潰す。

 鮮血が彼女の美しい頬を染める。

運よく頭を踏み潰されなかった「何か」が彼女に襲い掛かる。

あまりの数の多さに、ルリはだんだんと押され気味になってしまう。

「ちょっとやばいか」

 運のいい「何か」がルリの刀を払い落とすことに成功する。

 「まずった!」

 喜び勇んだ「何か」達は先刻よりも嬉々として彼女に突進する。だがしかし、その進軍は簡単に潰えることになる。

 「この程度でピンチなんて言わないんだよぉお!」

 そう叫んだ彼女のパンチが先頭の「何か」の顔面に炸裂したかと思うと、顔面から噴き出す血を燃料のようにして「何か」が吹き飛んでいく。

 それにひるんだ「何か」達に向かって雄叫びを上げるとそれを合図に彼女は一方的な虐殺を開始する。

 次々と頭や内臓を潰されていく「何か」達。

 最後の一体の心臓をルリが刀で貫いたのを見るとインパチェンスは拍手を始める。

 「いやぁーお見事。」

 「あんたもこうなりたくなかったらとっとと変態ボスを出せ。」

 血に濡れた顔でインパチェンスを睨むルリ。

 「来てますよ。なんかお土産があるみたいですけど。」

 彼は彼女の睨みを受け流すと彼女の背後を指さす。

 「はぁ?お土産ぇ?」

 ルリは振り返る。

 「お土産」を知覚した瞬間、彼女の瞳孔が開く。

 「ご、ごめんなさい、ルリさん。」

 「リナリアぁ、ペットにはちゃんと首輪をつけとかなきゃ駄目だよぉ。逃げ出そうとしたから捕まえてあげたんだ。感謝してよ!」

 ルリの目に映ったのは二度と会いたくなかった「変態」と守ると誓った「同居人」であった。

 「私のリサを離せ、ヤグル!」

 ルリは刀を抜くとヤグルに叫ぶ。

 「散々私達の下僕ちゃんを殺してくれたんだ。リナリア、これくらいがちょうどいい貸し借りなしってやつなんじゃない?」

 ヤグルはリサにナイフを突き立てる。

 リサの首筋から血が流れる。流れ出た血はいくつもの支流になって地面に落ちていく。

 ヤグルはリサの首筋から流れる血を一滴指ですくうと口に運ぶ。

 「んーいい血だね。リナリアちゃんが育てただけある。それにこの学校の子なんだから高く売れるよ。よかったね。三割あげる。これで、貸し借りなし。」

 ルリは歯を食いしばると爆発したように食って掛かる。

 「勝手に話を進めるなぁ!リサは売らない。あんたにも渡さない。返しなさい。返せっ返せ!」

 「これは決定事項よ。リナリア。私はこれであなたが救えるとも言っているの。あなたは散々私たちの邪魔をしてきた。マギクは、あなたのことをもう殺す気でいるよ。」

 「関係ない!私はリサを守るって決めたんだ。あんたに迷惑をかけるつもりもない。」

 「そう、じゃあ仕方ない。力づくで奪ってみなさい。」

 「最初からそのつもりだよぉっ!」

 リサを下ろしたヤグルはルリに向き合う。

 はじかれたように飛び出すと二人の刀が激突する。

 夜の広場に響くのは刀が鳴り響く音。

 ある種の美しさも感じるその音は夜明けまで鳴りやまなかった。


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