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ひも  作者: 二時夢!
7/8

2 秘密

 リサがルリのヒモになってから1カ月がたった。

 リサとしては日々申し訳なさが募っていく。ルカは本当に何でもできてしまうからだ。

 部屋の掃除は細かく、何もかもが清潔に保たれている。

 洗濯も気が付いたら干して、取り込んでいる。

 そして何よりも料理が絶品だった。三ツ星レストラン(行ったことないが)に匹敵するものなのではないかとリサは本気で思っている。

 そんなハイスペックなルリとは反対に、リサは何もしていなかった。

 買い物にはついていくことになっていたが、荷物持ちをさせてもらえるわけでもなく、ただついていくだけであった。

 リサとしては何かをしたほうがいいのは分かっているのだが、気を使おうと思った次の瞬間にはそれが無駄になってしまうのだからやることがない。ルリは完璧すぎた。

 リサは何か手伝わせてほしいと何度もルリに提案しているが、ルリはいつも

 「ヒモは何もやらないからヒモなんだよ、リサ。映画でも見てなさいよ。」

 と言って躱されてしまう。

 そんなルリの部屋にはベッドが一つしかない。

 その言葉が意味するのは二人で一緒のベッドで寝るしかないということだ。

 毎日のごとく床で寝ると主張するリサをルリは、抱きしめて

 「一緒に寝てくれる?」

 と聞いてくるもんだからリサは承諾せざるを得ない。散々迷惑をかけている相手のお願いを聞かないわけにはいかないのだ。

 正直に言うとリサはルリがこう言うことを分かっていた。夜はまだ少しあの日を思い出して体が震えた。そんな自分の強がりを彼女が理解してくれているのだと理解はしていた。だが、それに気が付いていないふりをするほうが楽だった。

 そうやって流されるまま、リサのヒモ生活はある意味では順調に進んでいた。

 だが、リサに人間的な生活をさせない程の完璧超人であるルリにも少しおかしなところがあると、彼女が気付いたのはヒモ生活が始まってから二週間がたったあたりのことだった。

 ある夜のこと、いつも通りルリと床に就いたリサは訳の分からない喪失感に苛まれて目を覚ました。

 喪失感の正体はすぐに分かった。ルリの姿が見当たらない。

 散々床で寝るだの言ったくせにいなくなればいなくなったで寂しさを感じている自分に苦笑いしながらもリサは彼女を探そうと部屋の扉を開ける。

 キッチンにもいなければ、お花を摘んでいるわけでもなさそうだった。

 学生アパートのワンルームの部屋だ。居るとしたらそれらの場所しかなかった。

 散歩に出たのだろうか。

 そう考えたリサは玄関の靴を確認しようと玄関に足を延ばす。

 その時、扉のドアノブが回った。そしてその奥からマスクとフードを被ったリサが出現した。

 一瞬、リサは不審者かと思って身構えたが発せられた声によって警戒を解くことになった。

 「リサ、私だよ、私。ルリ。」

 フードを取りながらルリは警戒を解くように促す。

 「ル、ルリさん。どうしたんですか。買い物とか?」

 「いや違うんだけど、まあその散歩…みたいな?」

 「熱くないですかそんな、マスクにフードなんて。」

 リサはルリの体を上から下まで眺める。玄関から出現した時には気が付かなかったが、ルリが着ているのは、和服のような、魔法使いのローブのようなよくわからない服装だった。

 リサの視線にルリは少し恥ずかしそうにすると

 「ちょっと恥ずかしいんだけどな。そんなに凝視されると。」

 「コ、コスプレですか?撮影とかだったら手伝いますよ。」

 「ありがとう。いいんだ。写真を撮ってるわけじゃなくって、えっとええっと、ただ着てるだけだから気を使わなくていいんだ。ね?」

 「そ、そうなんですか。もし助けが必要なら手伝いますから。かっこいいですよそれ。」

 リサはルリの服装を指して言う。

 ルリは目を左右に泳がして困ったように笑うと

 「ほんとに大丈夫だよ。ね?先に寝てなよ。私はシャワーに入ってから寝るからさ。」

 と言って部屋に戻るように促す。

 リサは違和感を感じなかったわけではなかったが、お世話になっているルリの言うことには素直に従うほかなく、眠かったのもありベッドに入ってからすぐに寝てしまった。

 翌朝、隣を見たらいつものとおりルリが静かに寝息を立てていたのでリサは夜中に感じた違和感のことなんてすっかり忘れることにした。安心感が勝ったのだ。

 それからというものリサはルリが時折夜中に外出していることに気が付くようになった。

 それだけ彼女の中でルリの占めるところが大きくなったということでもあったが、ルリのことが心配なことには変わりなかった。

 リサが家にやってきてから一カ月記念だと言ってルリがいつもより力の入ったご馳走を作ってくれた日の夜中、二人で床に入った後ルリが布団を抜け、家をでたのをリサは知覚した。

 最初にリサが気が付いた外出の、次の外出からルリは帰ってくるとき普段着で帰ってくるようになった。だがしかしフードとマスクは欠かさずつけており、すぐにシャワーに入ってそしてベッドに戻ってくることには変わりはなかった。

 あの夜以降、リサは彼女がいなくなる度に目を覚ますようになってしまい、何もしないでいるのもあれだからとルリに懇願してシャワーを浴びた彼女の髪の毛を乾かす役割を担わしてもらうことにした。

 最初は髪の毛を乾かそうというリサの提案をルリは固辞したが、結果的に、どうしてもこれくらいはやらせてほしいというリサの言葉に負けることとなった。

リサは恩人に貢献できるからルリの外出が少し楽しみになっていた。だが、気になるものは気になってしまう。

リサはルリを尾行しようと考えた。彼女が何をやっているのか知りたかった。好奇心には勝てなかったのだ。

リサはフードのついた上着を羽織ってルリの跡を追っていく。

ルリは学園に向かっているようだった。

彼女の部屋から学園はたいして遠くない。夜の散歩としては最適だと思うが、何か違う目的があるようにリサは思っていた。

学園の正門に入った少ししたとき、ルリは突然歩みを止めた。

気付かれたかとリサは思い、柱の陰に隠れたがどうやら彼女は気が付いていないようだった。    リサが柱の陰からルリを見ていると、おもむろに彼女が腕を振り上げ次の瞬間には彼女の服装があの日の不思議な装いに変わり、右手には黒い日本刀が握られていた。

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