表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひも  作者: 二時夢!
3/8

0.333333…

 自殺未遂をしたものの赤の他人である私を彼女は躊躇なく家に上げようとしてくれた。

 「遠慮しなくていいから、ね?」

 玄関で靴を脱ぐことをためらう私に彼女はその美声で語り掛ける。

 脱いだ靴をそろえるのは先ほどのことを思い出すからだろうか、手が震えてうまくできない。右を前に出したと思ったら左をその先に配置してしまう。

 そんな私を見かねて彼女は左手を私の左手に絡めながら包み込むように後ろから抱きしめてくれた。

 「そのままでいいよ。」

 耳元からささやかれたその美声は脳を麻薬漬けにする。思考が止まった脳みそは私に安寧をもたらすがその安らぎもつかの間、また涙が出そうになる。治まったと思っていた体の震えの余震を感じる。

 おかしいものだ。数十分前まであんなに死にたくてたまらなかったのに今となっては死のうとしていた自分が怖い。死に、極限まで近付いていたことが怖い。何もかもが怖くてたまらなかった。

 そんな私を助けた美声の主は泣きだした私を優しく抱きしめてくれている。

 あれだけ求めて、結局得ることのなかった愛の熱を会ったばかりの他人から受けている。他人だが不快感はない。他人のような気がしない。でもそんなことを考えても仕方がないと思った。

 今はただ、彼女の温かさを感じていたい。夜の寒さと死の恐怖によって冷え切ってしまった私の心と体がゆっくりと溶けていくのを感じる。

 「そのまま寝てもいいよ。」

 ぽしょぽしょとささやく彼女。

 ああ、私きっとひどい顔してるんだろうな。

 思ってはまどろみに溶けていく私の思考。

 彼女は私の手をずっと握ってくれる。頭を優しくなでてくれる。

 こんなに他人の愛を感じたのは初めてだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ