【短編】ただのシスコンだと思っていた義兄、実は最強でした。
突然浮かんだ短編です。
「ミアーナ、好きだよ。今日も可愛いね」
「ありがとう」
毎日、私に可愛いだの好きだの言ってくるのは義兄のクリス。間違いなくシスコンだ。
「結婚しよっか」
「遠慮しとくね」
昔は結婚しようなんて冗談で言っていると思っていたけど最近は本気で言っているような気がしてきた。何故なら、この国は血の繋がりがなかったら誰とでも結婚出来る。勿論、義兄とも。
そして、クリスは恋人を作ったことがない。理由を聞いたら「俺はミアーナしか考えられないから」らしい。私のことを兄弟として好きなのか恋愛感情として好きなのか本当にわからない。
「ミアーナはなんで俺じゃ嫌なの?」
「なんとなく」
「ねぇ、真面目に答えて」
クリスの問いかけに無言を返して、魔法を習う、貴族学校に向かうために馬車に乗り込む。私の髪飾りがシャラリと揺れた。クリスは私の後ろではぁ、と溜め息をつくと馬車に乗って私の横に座る。
「もしかして、」
クリスが何か言おうとして、言葉が止まっている。なに?と思いクリスの方を見ると顔色が悪かった。
「クリス!?どうしたの?」
「あのさ、ミアーナって、もしかして……」
またクリスの言葉が止まった。私はよくわからなくてクリスを見つめる。
「……好きな人が、いるの?」
「へっ?……いな」
「ごめん、忘れて」
急に好きな人がいるか聞かれて変な声が出た。すぐにいないよ、と言おうとしたけどクリスの言葉と重なって言えなかった。
クリスが少し俯く。あ、そういえばさっき顔色が悪かったんだった。クリスの顔を下から見ようとすると、クリスは慌てて窓の外を見た。
つられて私も窓の外を見る。花畑で色々な花が咲いていた。桜色の花を見て、思わず呟く。
「綺麗……」
「……そう、だね」
あれ、クリスはいつもならミアーナの方が綺麗だよとか言うのに。やっぱり、体調が悪いのかも知れない。前に習った治癒魔法を少しかけてあげればよかったかも。
いつもはクリスが話をふってくれるから一緒にお喋りをしていたけどそれがなかったため、花畑から何も話さないまま学校についてしまった。
「……じゃあね」
「うん。また」
クリスはすぐに馬車を降りてどこかへ行ってしまった。いつもはクリスと行くからなんと私が一人で校舎に入るのは久しぶりだ。少し寂しい気がした。
その時、後ろから肩がぽん、と叩かれる。そして目が冷たい手で塞がれた。
「誰でしょう!」
「えっ……声的に、シャル?」
「残念!声はシャルだけどこの手は私、ローラでーす」
なるほど、声を出したのはシャルで目を見えなくしたのはローラということか。流石に分からなかった。
ちなみにローラとシャルは入学当初からのお友達で偶然に二人とも3年間同じクラス。
「ミアーナ、貴方の兄は?喧嘩でもした?」
「よく分からない……突然、私に好きな人がいるか聞いてきて。あ、それに体調も悪そうだった。何かしたつもりはないんだけど……どうしたんだろう」
そう言うと、二人は「あぁ」と納得したように頷く。そしてローラが口を開いた。
「後でクリス様の教室行って来たら?いつもクリス様から来てばっかりでミアーナからは行ってないでしょ」
「え?確かに、分かった。鞄置いたら行ってくるね」
そして今日も一人じゃなくて、誰かと一緒に校舎に入った。
「いってらっしゃーい」
「うん!すぐ戻ってくるね」
ローラとシャルに手を振って私は歩き始めた。一つ上の学年は階が違うので階段に向かう。
階段は結構静かだったけど廊下に行くと沢山の声が聞こえる。それは全部教室の中から聞こえる声で、廊下で話している人はいなかった。
そこで私はヤバいことに気が付いた。
クリスの教室を知らない。全部回れば良いかもしれないけど私にはそんな勇気ないし四年生は七クラスあるのだ。
これは無理かな、と階段を降りようとしたときに、声をかけられた。
「もしかして、ミアーナ様?」
振り向くと、上着には紫のライン。クリスと同じ学年だ。いきなり初めましての人を名前呼びするのはどうかと思うけど上級生にそんなことは言えず、ペコリとお辞儀をした。
「やっぱり?ちょっと付いてきて欲しいだけど」
「すみません……私、用事がありまして」
そう断っても「いいからいいから」と言って手を握ってくる。普通に気持ち悪い、止めてほしい。
そして腕を引かれ、空き教室まで連れて行かれた。誰か、助けてと叫びたかったけど怖くて、声が出ない。それに叫べたとしても教室の声が大きいから私の叫び声なんて誰にも聞こえないだろう。
「ねぇ、俺と付き合ってよ」
「……は?嫌ですね」
人を空き教室まで攫って何を言うのか。すぅっと目を細めて睨むとその男は私の両手を取って壁に押し付けた。
「俺はミアーナが良いから、ね?」
「だから嫌ですってば」
身体を動かせなくて、苛立ちをその男にぶつける。まぁ、苛立ってるのもこの男のせいなんだけど。
男の足を少し蹴る。これで抜け出せたりしないかな、と思っていたけど男はビクともしなかった。
「痛いなぁ」
まったくそう思ってなさそうに男は言う。その目は少し笑っていて、何がおかしいのかと殴り飛ばしたくなった。
氷魔法を少し出せるか試してみる。つららは出来たけど、それは男に届かず男の火炎魔法によって消えてしまった。
「あのクリスが邪魔だったんだけどさぁ、今日はなんか別々だったしね。丁度良かった」
私は出来るだけ男を睨む顔を作る。本当は、すごく怖かった。今すぐにでも泣きたい。だけど、そんなことは出来なくて。精一杯虚勢を張る。
片手が開放されて、するりと頬を撫でられた。私は開放された手で男を殴ろうとしたけど、動かない。
「気持ち悪いっ……!」
どれだけ睨んでも目の前の男は怯まない。
「好きだよ。ね、結婚しよ?」
「絶対嫌」
この男に結婚しようと言われても不快感しかなかった。クリスに言われてもそんな感情はなかったのに。私は自分が思っているよりもクリスのことを気に入っていたのかも知れない。
開放されていた片手をまた押さえ付けられた。私、どうなるんだろうと思った瞬間、一つの声がこの空き教室に響いた。
「何やってんの」
居たのは、クリスで。私は安心で、視界が歪んだ。
パッと男が私の手を離した。
「ミアーナ?大丈夫?」
「……大丈……」
いつも通り、大丈夫と答えようとしたけど止めた。頬に冷たいものが走った。
「っ、怖かった……!」
そう言った瞬間、男が凍った。
凍っている。え?もしかしてクリスがやった?でも、人やものを凍らすのは才能がある人が何年もかけて出来るようになる魔法。それをなんでクリスが使っているの。
そんな私の疑問を見透かしたようにクリスが言う。
「実は俺、面倒くさいから実力隠してただけで本当は最強なんだよね」
え、と言葉が漏れる。『最強』という言葉は自意識過剰っぽいけど確かにクリスは最強かもしれない。だって、男を凍らしたから。
男の氷にそぉっと触れる。少し冷たいけどそこまで冷たくない。中の人間は動けなくなるだけで死んだりはしないらしい。ただ、少し魔法を変えると心臓ごと凍って死んじゃうとか。クリスにはその魔法を覚えては欲しくない。
「クリス……?」
ギュッと、抱き締められた。私の涙がクリスの服を濡らす。
「どこからこんなところに連れて行かれたの」
「えっと……丁度階段のとこ」
「階段?ここの階に用事があったの?」
「まぁ……ちょっと、朝に何かしたかなって教室に聞きに行こうと思って。だけど教室が分からなくて、帰ろうとしたらこの男が……」
クリスの私を抱き締める力が強くなる。私も手を回したらクリスの肩が少し震え上がった。
「朝はどうしたの。私に、好きな人がいるか聞いて来たり」
「ああ……俺はミアーナが好きだから、気になって。だけどもしいるって言われたらって想像してたらちょっと、動揺してたの」
「そう、だったんだ」
さらりと言われた「俺はミアーナが好きだから」。それを聞いたときに頭に浮かんだ言葉は「私も」だった。
もしかしたら、私はクリスのことが好きかも知れない。いや、好きなんだ。それを自覚した瞬間顔が赤くなったのが自分でも分かった。
「俺と、結婚してくれない?」
「いいよ」
即答した。するとクリスの目が大きく見開かれる。
「本当に?本気で言ってるの?」
「……そうだけど?」
フッ、とクリスが笑った気がした。私はクリスの腕から抜け出してクリスと向き合う。
「クリスって、私のことが……その、恋愛的に好きなの?」
「うん」
「じゃあ、私と同じだね」
「……家帰ったら、婚約しようか」
コクリと頷く。そして私は一つクリスに言いたいことがあったのを思い出した。
「ちょっとこの男、一瞬凍らせてるの解除してくれない?」
「……いいけど」
クリスが手を出すとパァン!と音が鳴り、男は動き始めた。そんな男の頬を思いっきり叩いた。
「痛っ!?」
私、力はある方で。緊張したりすると全然本気を出せないけど普段は結構強いのだ。
やられっぱなしは私的に嫌だったから、叩けて満足だった。
「ちょっ……ミアーナは、面白いね」
クリスは笑いながらまた男を凍らせた。
氷を解除したときの音が聞こえたのか先生が教室に入ってくる。事情は全部クリスが説明してくれた。
「ありがとう、大好き」
「俺も」
私達が結婚するきっかけとなってくれた男に、少しは感謝した。
最後までみていただき、ありがとうございました。