悪巧み
登場人物
カレン・バロワ
クロードを自分のものにしたい悪役令嬢。苛烈な性格で友人も居ない。
アンソニー・バロワ伯爵
カレンの父親。
モニカ・バロワ
カレンの母親 けど作中にはあまり出てきません。
ミケーレ
バロワ伯爵家に長いこと仕えている初老の執事。
茶色い髪を巻いた令嬢が扉を叩いた。入れ、と声がして中に入るなり言った。
「お父様、例の話はどう? 辺境伯のほうよ」
そう言ったのは、カレン・バロワ。アンソニー・バロワ伯爵の娘だ。
気の強い、やや吊り上がった目、ぽってりと塗られた紅は少々赤すぎて、豊満とも言えない胸を強調した露出の高いドレスは下品としか言いようがない。だが彼女は満足げにこれを着ている。
「ああ、乗り気だって言ったらたいそう喜ばれてな。直接プリドール家へ見合いの申し込みをなさったらしい」
「ほんとう? よかった! これで邪魔なジゼルを追い払えるのね! それでクロード様は?」
両手を叩いて喜んだ。
――憎たらしいジゼル。お前さえ居なければ。
「ん、ああ……諦めなさい。即日に断りの返事が来た」
喜んだのも束の間、可愛らしかった笑顔が途端に般若のように激変した。
「え、いやよ!? クロード様がどうしても欲しいの! あの方はわたくしが選んだんです、ジゼルだってどこかに嫁ぐんだし!」
一気に捲し立てる。
「って言ってもなあ」
「ねえお父様、それならアレを使えばどう? わたくしが先日使った殿方はたいそう良かったって。だからクロード様にワインを差し入れに行くわ。休憩時間の直前にでも。数本持って行って、他の方には別室に用意する。それでクロード様を一人にさせて……」
「ふむ……既成事実を作ってしまおうというのか? お前は悪い娘だなあ、どこでそういう悪知恵を知ったんだか。あのすまし顔の若造もそうなってしまえば顔を歪めるくらいはするだろうな。ミケーレ、アレを数包持ってこい」
親娘で会話している、と文字面なら微笑ましいが、目の前の親娘は薄暗い部屋で物騒な話をしている。ニタつく様は不気味だな、と寒気すら感じたミケーレは、持ってこい、と言われてハッとした。
「アレはなりません! 国内では認可が下りていないものでございます、認可が下りていたとて本来なら医師のみに使用許可の下りるものです、医学の知識のない者が易々と扱っていいものではございません! どうか思い留まりを! お嬢様もでございます! 他者を嵌めたその先に幸せなどありはしません! 身の破滅をなさいます、御身を大切になさっ」
パン!
乾いた音が室内に響いた。
「持ってきなさい」
カレンがミケーレを睨め付けて一言放った。
「――かしこまりました」