表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/39

ジゼルとカレン3

 今日の終業前に、ジャンがやってきた。


「お前と話し合うよう言った。だから今日は会える」

 そう言われたから帰宅してすぐに来たのに、屋敷のどこにもジゼルの姿がなかった。雨だからガゼボに居るはずがない。サロンにも居ない。ではどこだ?


「坊っちゃま、おかえりなさいませ。あの――」

「ああ、ただいま。ジゼルは?」

 執事から、街へ買い物に出ていたジゼルがバロワ家へ行ったと聞いた。

 

「何故バロワ家などへ!?」

「わかりません。夕方までにはバロワ家でお送りするからと言われたそうですが、まだお帰りでないのです」

「もう暗いし雨も降っているぞ?!」

 クロードは嫌な予感がした。


「ローラン、おじ上達に連絡を取って。俺は馬車でバロワ家まで迎えに行く。念のため主治医を呼んでおいてくれ」

「かしこまりました」

「すれ違いでバロワ家の馬車で帰ってくるかもしれないから、その時は待つよう言っておいて」

 そう言って馬車に飛び乗った。


*  *  *


 バロワ家までは馬車でそうかからない。この雨だから安全に走ったとしてもそんなに時間は掛からない。遠回りする道は無い。だから、通るならこの道しかない。


 ――ジゼル、ジゼル、どこにいる?!


 胸の前で手を組んだ。


「坊っちゃま!!!」

 御者が御者台の小窓を開けて叫び馬車を停めた。


「あれはお嬢様じゃないでしょうか!!」

 言われて路肩を見れば、街灯の近くに疼くまる者がいた。髪の色はジゼルだ。あの色の服を持っているのを知っている。胸のところを握る仕草もジゼルだ。クロードは馬車を飛び降り駆け寄った。御者が傘を差して後に続いた。


 疼くまる女性の肩を抱いて顔を見れば愛しいジゼルだった。


「ジゼル!? ジゼル!!」

 頬を軽く叩いて呼び掛ければうっすら目を開け、笑顔を見せた。着ていた外套を被せ、抱き上げようとしたら顔をしかめて、ささやくような声で言った。


「クロー……? 会え……ごめね。手が、痺……歩けな……邪魔して、ごめ……」

 口元に耳を寄せなければ、雨にかき消されて聞こえないほどの声。


「ジゼル、目を閉じたらダメだ!」

 頬をさすりながら呼びかけて何度か目を開けたジゼルは、抱えていたものをクロードに押し付ける。


「なんだ?」

 濡れてぐしゃぐしゃになり一部破れている袋の中身は、原形をとどめていなかった。かろうじて店名がわかる。


「クロー……の、レモン……」

 そこまで言って、意識を失った。レモン?


「ジゼル、ジゼル」

 ジゼルを抱え馬車に戻ろうとしたら目の前に馬車が停まり、降りてきた男性が傘をさしてくれた。


「クロード・フォイエ様にございますね」

「あなたは誰だ」

「私はバロワ家執事をしておりますミケーレと申します。説明はあとでいたします、毛布を積んできましたからそちらの馬車にお運びいたします。お急ぎください」

 バロワ家と聞いて、ジゼルを抱いていなければ殴りたかった。彼らに関わったがためにジゼルはこうなった。だが今はジゼルが最優先だ。乗ってきた馬車にジゼルを乗せ、ミケーレが持ち込んだ毛布を敷き詰めた。毛布を被せながら冷えた手を握れは、その度に小さな唸り声をあげる。濡れた足を拭こうとして触れれば眉根に皺を寄せた。


「なんだ? 痛いのか……?」

 見た目に確認できる傷は手のひらと両膝だけだから、手足を痛がる様子に嫌な汗が背中を流れる。


「ミケーレといったな、プリドール公爵邸へ着いて来られるか」

「はい、このまま着いていきます」

 ジゼルを乗せた馬車が帰路を急いだ。


 膝の上のジゼルを見つめる。


 笑みを見せてくれていた頬、何度も重ねた唇、外を歩くときは繋いでいた手、クロードを追いかけてきた足、何もかもが愛おしいのに、今はとても冷たい。


 最悪の結果ばかりが過ぎる。


「ジゼル、死ぬな、だめだ、まだ伝えてないんだから……!」

 懸命に冷たい頬を撫でる。額に手を当てる。少しでも赤みが戻ってくれたら。そう思うのに抱いているジゼルはクタリとしたままだ。


 なぜ愛しているとはっきり伝えなかったのか。直接言わないと意味がないとクロードは後悔した。拒絶されたって構わなかったのだ。見合いの話があった時に想いを告げれば良かった。遠回りしたせいで。


「ジゼル、ジゼル……愛してるんだ、目を開けて……」

 冷え切ったジゼルの唇を温めるかのように口付けた。



アクセス・感想・お星様などなど、ありがとうございます。

励みになっています。


最後までお付き合いください。


星影くもみ☁️



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ