計画的に
それからクロードと、どういう風に"偽の恋人"として過ごすかを話し合った。
「まず、そうだな。仲良く過ごす姿をあちこちで見せよう。父母達だけでなくあらゆる人々に我々が恋人同士だと印象付ける」
「どうやって?」
「ジゼルに毎朝花を届ける。仕事が終わったらまっすぐジゼルのところに帰ってくるよ。それで家の中での仲睦まじい様子に慣れたら、出かけようか。街を、人の多いところを闊歩しよう。それがそのうち父上達の耳にも入るから、そしたら挨拶する。これを十日以内に行う。よし」
クロードはペラペラと計画を口にする。
いま思いついたにしては随分と饒舌だななど思うジゼルではない。クロードが例え偽でも恋人になったという事のほうに意識が集中していた。
「ん、ジゼルからも何かあるか?」
「え? ううん、特には。あ、もしもそれでお父様達が本気にしてしまったらどうするの、縁談が本物になっちゃうじゃない。クロードは好きな人がいるってさっき」
そう、クロードは好きな人がいると言っていたのだ。そこが気になっている。
「だから大丈夫だ。心配はいらない」
指でメガネの真ん中を押し上げ、キラリと瞳を光らせたクロードは答える。
「そう、なの……? 意味がわからないんだけど」
大丈夫、を繰り返すクロード。本当に意味がわからない。好きな人に誤解されでもしたら、ふつうは全然大丈夫じゃない。
この先告白してもややこしい事になるし、まして親に本物の縁談としてまとめられでもしたらもっとややこしい。
「嫌か?」
正面のソファに居たはずのクロードはいつのまにかジゼルの座るソファの脇に立っており、ジゼルの手を取った。
嫌ではないと答えようとした時、クッと軽く手を引かれた。強いわけでもないけれど、引かれた拍子にジゼルはクロードの胸にポスっと体を預ける格好になった。
――広い胸……クロードの好きな人は、十日経ったらこうして抱きしめられるのかな。いいな……いやだな……今だけは私の場所で、いいかな。
「嫌じゃない」
トクン、トクンと脈打つクロードの胸に手を当てて言った。
ずるいかもしれない。クロードの好きな人に心の中でごめん、と言いつつ、その胸に身を預けている自分はとてつもなくずるい。でも十日だけだから……。
「なら決まりだな」
そう言うと、腰にも手が当たり、更に強く引き寄せられた。
「ひゃあっ」
『シッ! 間抜けな声を出すな、サロンの扉が少し開いている。こちらの様子を見られているかもしれない。しばらくこのままで』
抱きしめられ、耳元で囁かれたら腰に力が入らず声も震えてしまう。腕の中から扉の方を見ようと身じろぐも全く動けないくらいにクロードの腕がジゼルを絡め取っていた。
「ん」
うなずきながらようやく出した声は言葉にならなかった。
広い胸、ほんのりと香ってくるクロードの、柑橘とウッド系の香りが混ざった匂いを思い切り吸い込んで、目を閉じた。