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そうなのかもしれない

 クロードとジャンは15歳に、ジゼルは12歳になった。


 貴族令息は15歳から3年間、学園へ入る。学園には、普通クラス、武官クラス、文官クラスの三つがあり、武官クラスは騎士を目指す者が選ぶ。文官クラスは、技官や事務官など城の中で働く事を目指す者が選び、クロードとジャンはここを選んだ。このどちらでもない生徒は普通クラスに進む。


 武官と文官は国の要職でもあるため、3年間の寮生活を送り、みっちりと叩き込まれる。実際の城のリズムで寝起きをし、心身の鍛錬も行えるカリキュラムになっていた。普通クラスの生徒とは学舎は別で、在学中、校内での接点はほとんど無い。

 普通クラスの生徒達は自宅から通った。家業を継ぐ予定があればそのほうが学びやすい。貴族ならこの歳までには読み書きや計算、ダンス、裁縫に乗馬や社交マナーなどは身につけていて、学園では、家庭で学び切れなかった、国史や法律関係、国の現況などについて学ぶ。

 文官クラスを選んだクロードとジャンは、そこから別のコースを選んだ。クロードは事務官、ジャンは技官としての道を選び、卒業後は城でそれに見合う職場に就く道ができた。


 そうして3年間の寮生活が始まった。寮は退屈で、本を送って欲しいなどわがままな手紙を寄越していた彼らの、唯一の癒しが妹ジゼルからの手紙だった。

 12歳のジゼルが書く字は拙いものだが一生懸命に書いた手紙は微笑ましく、猫かと思ったらクマだった絵には大いに和まされた。

 やがて流れるようななめらかな文字に上達し、彼らの誕生日にはイニシャルの入ったハンカチが届いた。あの小さかったジゼルが小さな手で刺繍をしてくれたと感動したのを覚えている。お返しにと、寮の中の購買部で手に入るノートやペンなどを贈ったが、色気が無いとジャンに呆れられた。


 3年も経つとかなり字はうまくなって、時候の挨拶を書いてくるようになったものだからその感動はひとしおで、小さかった雛も大きくなったとクロードは少し寂しくも感じていた。兄を差し置いてジゼルの成長を嬉しく思った。


 ジゼルからの手紙には、時折クロードの弟アベルの事も書かれていた。兄のいない寂しさからジゼルとよく遊ぶようで、庭でピクニックをした、お泊まり会をした、など、本当の姉弟のように過ごしている様子が綴られていた。


 卒業式が終わり、寮の部屋を引き払ってジャンと共に馬車で帰ってきた日のことだ。門の前にいたジゼルの姿を見た瞬間、クロードに雷が走った。あまりの衝撃に胸を押さえてジャンの方に手を伸ばした。


「ん? どうしたクロード、腹痛いのか?」

「……てん、てんしがいる、苦し……」

 薄い茶色の髪はふわりと風にたなびいて、くりっとした丸い瞳は輝いていた。その肌は絹のようになめらかで、近づいてくる馬車に向かって手を上げている。薄いピンク色の生地に濃い赤の大きな薔薇の模様が入っているドレスがとてもよく似合う。心なしか頬もほんのり染まって見え、背筋を伸ばして立つ姿は芍薬のようで、何もかもがクロードの心に突き刺さった。


「ははーん」

 ジャンは胸を押さえて悶えるクロードをニヤリと見て、小さな声で言った。


「一目惚れだな」

「声に出さないでくれ、恥ずかしい!……だが、これがそうなのか?」

「知るかよ! 妹は母上に似ているんだ。学園の行き帰りには声をかけられてるらしいよ、モテ、だな」

 

 ――一目惚れ……? そう、なのかもしれない。ジゼルの事は小さな頃から見ていて、かわいい。俺が守らなければ、と今も思っている。だが、モテとはなんだ?! その話が本当なら一大事で、自分はこれから仕事が始まるから守れない時間が増える。


「なんとかしないと……!」


 その日の夜、二人の卒業を祝う宴席がフォイエ家で開かれた。正面の席に座るジゼルを見つめるクロード。そこには兄達を追いかけていた幼いジゼルはもう居なかった。目の前にいるのは、クロードと目が合えば照れてうつむく女の子のジゼルだった。


 恋情を呼び起こすには充分だった。


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