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みかん味の

ひたすらイチャついています。

 昨夜、寝るまで泣いたらスッキリした。


 見合い回避のために買って出てくれた"偽の恋人"役。クロードからの提案だったが、好きな人がいるのにその役を担ってくれているのだから、自分も本気で振る舞おう。そう自分の中で気持ちが落ち着いた。


 そのせいかよく眠れ、今朝は目覚めが良い。クロードが来る前に身支度を整えるべく動き出した。

 良いねと言ってくれた髪型にして、薄く化粧を施す。今日は出かける予定はないため楽なドレスを選んで、サロンにお茶とフルーツ、軽食を用意してもらってクロードを待った。


「ジゼル」

 サロンの扉が開いてクロードが入ってきた。低い襟のついたシャツにベスト、トラウザースというごく普通の服装で、そこに優しい笑みと、仕事用にセットされた凛々しい髪型、眼鏡が加わるとときめきが渋滞していて苦しい。


 ――ああ今朝もカッコいい……!


 大股で近づいてきて背を屈め、座るジゼルを抱きしめた。


「おはよう、今日はもう起きてくれてたの?」

「おはよう。うん、一緒に食べられたらいいなと思って。お腹いっぱい?」

 腕の中からクロードを見上げれば、そのまま口づけられた。


「ジゼルと食べたい」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめ続けるクロードの腕をタップしてソファへ促した。


「フルーツもあるの、どれにする?」

「そうだな、アップルジュースとハムサンドにする」

 ん、と軽く返事をして、クロードの前に言われたものを置いてやる。自分の分は、たまごサンドとカットフルーツを選び取った。手を合わせ「いただきます」を言って二人の朝食がはじまった。味付けやパンの事、今日の予定などを話しながら食は進んだ。


「みかんも食べる?」

 デザートにカットされたみかんがあるのを見て、フォークに刺してクロードの口の前に運んだ。幼い頃、そうしたように。


「はい、おみかんどうぞ」

 そう言って可愛いジゼルが、幼かった頃のようにみかんを差し出してきたのだ。内心は叫びたいくらいにドキドキしながらも、渋々を装って差し出されたみかんを食べた。このみかんは食べずに永久保管できたらいいのに!


「ふふ、小さい頃みたいだね」

「ジゼルも覚えてた? 熱でうなされていたら口に突然みかんが突っ込まれてビックリしたのは忘れられないよ」

 ふたりして声を出して笑い合う。


「お熱があるっていうから心配だったのよ。私は熱が出たらみかんが食べたくなるから、クロードにも食べさせてあげるのーってワガママ言ったの覚えてる」

 そう話しながら、フォークに新たなみかんを刺したところで名を呼ばれた。


「ジゼル」

「ん?」

 横からクロードの手が伸びてきて、ジゼルが握るフォークを取りあげ皿に置いたと思ったらふわりと抱き上げられた。何事かと問う間も無く、気づいたらクロードの膝の上に乗せられていた。


「クロード? あの、これは」

「ん?」

 顔の近さ、クロードの膝の上という状況に、ジゼルが逃げようと身じろぐも、クロードの腕が腰に回っていて降りられない。


「重たいし、おろして、食べにくい、じゃない」

 まともにクロードの方を見られない。


「今度は俺が食べさせてあげる」

 ニコニコとしたクロードは、みかんが刺さったままのフォークに手を伸ばしてジゼルの口に運んだ。


「ほら、あーん」

 赤い顔をして、口を開けてみかんを頬張り、飲み込んだ時だった。カラン、と音がして、腰が強く引かれ唇が塞がれた。


 みかん味のする甘い口づけはいつもより長く深い。


「……んっ、クロ……」

 顔の角度を変えて何度も離れては重なり、やがてジゼルは身体から力が抜けるような感覚を覚えた。腰に力が入らず、クロードの膝の上から落ちてしまいそうになる。


 ――クロード、好き。好き。


 クロードがジゼルを落とすわけはないのに、必死でクロードの首に腕を回した。だがこれほどに貪るような口づけは初めてで、次第に息苦しさも覚えてきたジゼルはクロードの胸をトントンと叩いた。


「す、すまない……ゆっくり深呼吸して」

 叩かれたことでようやくジゼルを解放した。ハッハと荒く息をするジゼルの背をさする。頬は上気し、(まなじり)は濡れていた。


「い、息すること、忘れてた……」

「次は鼻で呼吸をしてごらん?」

 上がった息を整えるべく深呼吸をするジゼルにそう囁いた。


*  *  *


 この日、クロードは珍しく遅刻した。サロンでのジゼルとの時間が幸せ過ぎて、「もう行って」と背中を押すジゼルからなかなか離れようとしなかった。この押し問答を、たまたまやってきたクロードの父ロジェに見られてしまい、尻を叩かれてようやく出勤していった。


「おじ様、ごめんなさい、クロードを引き留めてたわけじゃないのだけど……」

「好きな子と朝から過ごせれば誰だってああなる。だが気を引き締めないといかん、あいつがまた暴走するようなら尻をつねっていいからな」

「はい、すみません」


 クロードを好きな気持ちは"偽"じゃない。だから十日は気持ちを抑えないで振る舞おうと思ったのに、クロード好き好きが出過ぎてしまった。クロードの仕事に影響が出るほどではいけない。明日は引き締めよう。


 ――今だけ。今だけだから。クロードに触れて、抱きしめられるのは今だけ。


 溺れないようにしよう。そう言い聞かせた。


なにせ恋人を装うわけですから、恋人らしくイチャついた方がいいってクロードが勝手に動いてしまって、連日イチャついてます。


*  *  *


アクセス・感想・お星様などなど、ありがとうございます。

励みになっています。


最後までお付き合いください。


星影くもみ☁️



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