強引な
登場人物
ジゼル・プリドール
ジゼルの父→モーリス・プリドール公爵
クロード・フォイエ
ジゼルの幼なじみで家が隣同士
背景みたいなものを少し
ジゼルの両親とクロードの両親は仲の良い友人同士で、のちに作中で語る予定ですが、たまたま隣が空き家だったから引っ越しておいでよー、うんそうするー、で隣同士になりました。
「お父様は強引なんだから……!」
サロンでひとり毒づくのは、ジゼル・プリドール。つい先ほど、彼女は父親モーリス・プリドール公爵から、見合いが十日後にあると聞いた。相手は辺境伯家らしい。
ジゼルは拒否した。断って欲しいと頼んだが、それなら十日以内に恋人を連れて来いと言われてしまった。先方はたいそう乗り気で、見合いで気が合えばその場で婚約を交わしたいと仰っていると聞いて、父の執務室を飛び出した。
だが屋敷内で逃げ込めるところといったら、私室かこの離れのサロンしかなく、日当たりの良いここで、ひとり毒づいていた。
「ジゼル」
胸元の布をぎゅっと掴んでどうしようかと考えていたら、バリトンボイスが耳に届いた。隣家の幼なじみであり、冷徹眼鏡との二つ名を持つ宰相補佐の、クロード・フォイエがやってきた。
「辛気臭い顔をしている、何かあったのか」
クロードが目の前のソファに腰を下ろすのを見届けてから、はぁーとため息を吐いてから話しだした。
「お父様から、十日後に見合いだって言われたの」
ガッと音がして、さっき座ったばかりのクロードは勢いよく立ち上がった。
「みっ見合い!? ジゼルもか」
えっ? とクロードを見上げる。そのメガネの奥の瞳が、何かを射抜くように鋭くなった。
「俺にも、昨夜」
「えっ、クロードにも? ……受けるの?」
目の前の冷徹眼鏡を見つめて、持って来させた新しいカップにお茶を注いだ。それを彼の目の前に置く。
「もちろん断った。即日、断りの返事をした。だが厄介な相手なんだ、しつこい」
「そっかあ……お互いにそんな話が……もうこうして過ごせなくなるのね」
カップを両手で包み、膝の上でくるくると回す。
クロードとこうしてお茶を楽しむ時間が好きだが、どちらかに婚約者が出来れば、2人で、というのは無理だとジゼルは思った。
「あつっ!」
回していた勢いで、中のお茶が跳ね、手に掛かってしまった。
「大丈夫か」
「ん、少し手にかかっただけだか……」
右手の人差し指の背に、はねたお茶の滴があるのを見たクロードは咄嗟にそこへ口付けた。舌でペロッと舐めあげ、皮膚の状態を確認して満足げに独りごちた。
「よし、大丈夫だ――ん? どうかしたか」
――な、な、な!
ジゼルは何が起きたのか理解が追いつかなかった。指を、舐められた。しかも好きな人に。
「顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないか」
無自覚に、おでこに手を当ててくる。その手の大きくて、温かい事といったら……ジゼルは焦り、照れた。
「や、や、大丈夫! それより私決めたの! 家出する!」
突然の発言に、今度はクロードが狼狽える。
「は? 何……家出なんてダメだ、早まるな!」
「だってこのままじゃ知らない人と結婚することになっちゃう。イヤ、知らない人にさっきみたいなことされるの」
俯いて、クロードの唇が触れた人差し指の背を、もう片方の手でさする。
――ばか。無自覚クロードのばか。
泣きそうになる。
そのクロードは、ふむ……と唸ったきり黙っていたが、少しして口を開いた。
「なら、俺と付き合おう」
「え」
突然何を言うのだろう、ジゼルは固まった。
「フリだ。恋人のフリ。父上達に、俺たちの仲を見せる。十日以内に連れて来い、だったな。十日間だけ偽の恋人になろうと言っている」
「え、待って待って、クロードはいいの? 偽でも、その、好きな人とか」
「いる。いるが、大丈夫だ」
「そ、そうなの? いいの? 私も願ったり叶ったりなんだけど」
後半は口の中で言うにとどめた。
「じゃあ決まりだな」
メガネを押し上げて、仕事の顔になったクロード。
かくして偽の恋人ができた。
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星影くもみ☁️