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ヤンデレな白鷺は空から初恋の彼女を狙っている

作者: 小本手だるふ

「翼…、いいなぁ…」


そう私はポツリと呟き、今日も二階のバルコニーから空を飛ぶ鳥達を見上げていた。


「オリビアー!おはよう」


バサバサと翼をはためかせて空からバルコニーに降り立ったのは、大きな白い翼を持つティーダ。

彼は屋敷が隣で小さい頃からの幼馴染。

歳は私と同じ19歳。

若草色の優しい瞳に、淡いクリーム色の髪は光の加減で金色にも見える。

その髪は前髪を七三に分けていて、後ろ髪もきれいに襟足が整えられている。

彼を見て頬を染めない女の子を私は見たことがない。

彼は私の……、初恋の人。



私の住むこのアニマフィー王国は、獣人と呼ばれる種族が住んでいる。

みんな外見にそれぞれの種族の特徴が出ていて、彼は白鷺族。

大きな白い翼が何よりの目印。

あの翼は本人の意思で消したり出現させたりする事が出来る。

出したままでは場所を取るので、だいたい空を飛ぶ時以外はみんなしまっている。

かくいう私も白鷺族。

私はゆるくウェーブした焦げ茶色の髪の毛が腰まで伸びていて、瞳の色は特に珍しくもない水色をしている。


「ティーダ!翼をそんなに無駄に使わないの!」

「ケチな事言うなよ。減るもんじゃないのに」

「そうじゃなくて、隣の家から飛んで来る事はないでしょって事よ」


私が今いる南側のバルコニーと、ティーダの家の北側のバルコニーとの距離はだいたい10メートルほどあって、間にはバルコニーと同じ位の高さの木が何本も生えていてお互いの敷地の仕切りとなっている。

大声で話せばなんとか会話が成立する距離だ。


「玄関から行くと時間がかかる。僕は朝起きてすぐにオリビアの生存確認がしたい」

「生存確認って…ちょっと、待って、きゃあっ!」


ティーダが翼をしまわず私の所まで歩いて来て、私を軽々と抱きしめて空に舞い上がる。

まだ朝露の残る庭の芝生が、朝日に照らされキラキラしていた。

こんな風景空からしか見られない。


「ねえ、今日も綺麗でしょ?」

「ええ、素敵ね。でも…、ティーダ、重いでしょう?もう降ろして」


私が言うと、宝物を扱うように彼は私を座っていた車椅子に優しく降ろしてくれた。


「僕の所にお嫁に来る決心はついた?」


いつからかティーダは毎日そう言ってくる。

でも、それは罪悪感からだって私は知っている。


「翼が欲しいなら、僕のをあげる」

「どうやって?」

「一緒にいればいい。君の手足に僕がなる」

「同情ならいらないわ」

「そんなんじゃないよ」


カラカラと車椅子を動かして私が向きを変えると、行く手を阻むようにティーダが立ち塞がり手を差し出してくる。


「歩けないなら、一緒に飛ぼう?」

「ティーダ。いつも言ってるけど、あの事故はあなたのせいじゃないわ。別に歩けなくなったわけじゃないし、後一週間でお医者様は車椅子に乗らなくても自分の足で歩いていいと言ってくれたわ。だから死にもしないし、生存確認なんていらないし、それに…」


優しく諭すように今日も私はティーダに言う。


「あなたが責任を取る必要はないのよ」




その事故が起きたのは3ヶ月前。

私はいつもの様にバルコニーから外を見ていた。

空には高く舞い上がる多くの鳥がいたの。

ふと視線を下ろすと目の前の木に、手を伸ばせば触れられる位近くまで小鳥が来ていた。

それを触ろうとバルコニーの手すりに手を置いた時、急に強い風が吹いて私の体が風に煽られて二階から落ちてしまった。

もちろん私は白鷺族だから飛べば地面に落ちることはない。

だけど、飛ぼうと開いた翼の片方が運悪く木に引っかかって所々破けてしまい枝に絡まって動けなくなった。

後ろから私を呼ぶティーダの声が聞こえてきて、振り向くと慌ててこっちに飛んで来るのが見えた。

ティーダに何とか翼を木から外してもらいバルコニーまで運んで貰った。

翼が欠けた影響か私の意識はだんだん遠くなってその後の記憶はなく、気付いたら病院のベッドの上だった。

欠けた翼が直ることはなく、翼の一部の骨と木にぶつかった時足首をぶつけた様で骨折が見つかり全治3ヶ月の診断を受けた。

私は1ヶ月間病院に入院をし、残りの2ヶ月は自宅療養にしてもらった。

今は車椅子に乗っているけど、後一週間したらそれも終わり。

自分で飛ぶことはもう出来ないけど、普通に歩いて生活することは出来る。


「僕があの時もっと早く助けていれば…」

「違うわ。あなたは何も悪くないわよ」


ティーダはこうやって毎日毎日朝から私の所にやって来ては謝罪するのだ。


ーーーいっそ、ティーダの提案を受け入れるべき?


私だって本当はティーダと恋仲に…って思ったけど、罪悪感を利用してまで一緒にいたいわけじゃない。それに、もしかしたらティーダにだって本当は好きな人がいるのかもしれない…。そんな事やっぱ出来ないわね。


「私が傷物になった事を心配しているの?だったら大丈夫よ」

「……どうして?」

「私まだまだ若いのよ?少し歳が離れたどこかのお金持ちの後妻くらいにはきっとなれるはずよ」


「は?」


良かれと思って冗談で言った言葉にティーダが酷く怖い声を出した。


「何それ?僕の所に来るくらいなら気色悪いジジイの餌食になる方がいいって?」

「そんな事言ってないじゃない」

「言ったよ。冗談でもそんな事言わないで欲しい」

「あ…、あなたがっ!ティーダが私に罪悪感を感じてるからそんな事感じなくて良いって言いたかっただけよ。実際そんな事しないわ」

「当たり前だろう」


そう言ってティーダが車椅子のハンドルに手をかけた。


「部屋まで送ってくれるの?」

「ああ」


なんとなく断れなくてそのまま部屋まで送ってもらう事にした。

私の部屋の前に着いたので車椅子のブレーキをかける。


「ありがとう。ここからは自分で行くわ」

「心配だから中まで付いていく」

「え?ちょっと待って…!」


断る隙もなく、ティーダが部屋のドアを勝手に開けた。

ティーダが私の部屋に来るのは何年ぶりだろう。

12歳になって、異性と距離を置くようにとお父様から言われてからだから…7年ぶりかしら。


「あ、ありがとう。それじゃあまたね」

「なあ…」

「な、何?」


異性と部屋で二人きりな事と、その相手が他ならぬティーダと言う事で私の頭の中はややパニックしていた。後に彼の気配を感じるだけでドキドキしてしまう。


「傷、見せてよ」

「嫌よ…。醜いもの…」

「見せて」


白鷺族にとって、白く美しい翼が全て。それを失った私はもう普通にはお嫁にはいけないだろう。

よほどの物好きか変わり者でない限り、私の嫁の貰い手はないのだ。


「見てどうするのよ?」


「キスしたい」


「………え?」


ドクンッ…と、全身の血が騒いだ。

今、ティーダは何て言ったの?


「キスしたい」

「な、何言って…。私の事をからかって何が面白いのよっ」

「歩き出して誰かの所に行く前に、捕まえたい」


何かとんでもない事を言われているけど、車椅子の後ろのティーダが今どんな顔をしているのかも分からない…。


不意に頭上が暗くなった。それはティーダが後ろから私に覆い被さってきたからだった。


「見せてよ、翼」


耳の後ろに息がかかってくすぐったい。

と、その拍子に翼が出てしまった。


私の右の翼は所々穴が開いていて、半分しか残っていない。お世辞でも綺麗とは言えない翼だった。


「……ねぇ。何でこんなになっても綺麗なんだろう…」

「え?」

「君の翼なら、どんな形になってもきっと綺麗なんだろうね。せっかく傷物になって一安心してたのに、これじゃだめだ」

「…ティーダ?」


「やっぱ、どこかに行かない様にするには……、身籠らせるしかないのかな?」


「……」


さっきまでのドキドキが、急に冷や汗に変わった。


ーーー隠す?誰が誰を?


私の頭はもうパニック状態になる。


「選ばせてあげるよ。今、ここで身籠るか、それとも僕の求愛を受け入れるか?」


「ティーダ、冗談は止めて!さっきも言ったけど責任なんて取らなくてもいいんだってば!」


「責任?何の?…ああ、君が小鳥を触ろうとしてバルコニーの手すりに手をかけたとき強風を僕がおこして君を二階から落とした責任?」


ーーーえ?


「傷物にしてやりたかったんだ。いつになっても君が僕に振り向きもしないから。ずっと機会を待ってたんだ。君も空を飛べるから上手く行くか分からなかったけど、僕の期待通りに事が進んでよかったよ」


ティーダは私の後ろから前に回ってきて、私の前に両膝をつく。


さっきからティーダが話す内容を聞いてると、まるで私の事を好いてる様に聞こえてしまう。

そんな訳はないと思いながらも私は確認をする。


「ティーダ。もしかしてあなた……、私の事を?」

「………好きだ。ずっと昔から、君だけだ」

「………」


思いもしないティーダからの告白に私は言葉が出なかった。


「酷い事をしたって分かってる。でも…、君を僕のものにしたくてどうしようもなくて…。…ごめん、オリビア……。ごめん……」


「バカね…」


「……」


背の高いティーダが子供みたいに体を縮めて、私に嫌われるの恐れるかの様に縮こまっている。


「でも…。本当はもっと普通に教えて欲しかったわ」


「……」


「あのね、ティーダ。実は私も…、ずっと昔からあなたの事が好きだったのよ」


ティーダが驚きの顔で私を見上げた。


「う、嘘だ。君から好意の言葉を聞いたことは一度もない。怪我をしてからも、君はいつも僕の求婚を断っていた」

「あなたは人気者よ?相手にされるわけないのに告白なんて出来ないわ。それに、怪我した後は罪悪感で求婚してるのかと思ったのよ。他に好きな子がいたかもしれないのに私が足枷になってるんじゃないかって思ったの」

「好きなのは君だけだ」


子供の様にうろたえるティーダが何だか面白くって笑ってしまった。


「ねぇ、ティーダ。さっきの話だけど…」


私は大きく息を吸って、真っ直ぐティーダを見つめた。


「あなたの求愛を受け入れます」


私がそう言うと、ティーダの優しい若草色の瞳と形の良い唇がにっこり弧を描いた。

そしてティーダが車椅子に座る私に優しくキスをした。



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