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三縁望の奪還 ~同時多発転生に巻き込まれ(に行き)ました~  作者: ひねもす
Chapter.1 同時多発転生に巻き込まれ(に行き)ました
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05.これからのこと

 八千代が落ち着いてから、オレたちは本来の目的を話し合うことになった。

 今までの会話で得た情報からオレは改めて蓮水先輩を分析する。


「蓮水先輩は見た感じ完全に前世に飲まれてる感じだったな。しかも八千代……というよりはルミベルナしか見えていないみてーだった」


 蓮水先輩は前世では知能の低い魔晶族だったのだろうか?

 しかもあの執着具合。『姉上を守れるのは僕だけでいい』とか言っていたし、あれこそ洗脳されてるんじゃねーのと思う。

 それを伝えれば「残念だけど」と八千代は首を横に振った。


「蓮水先輩……前世はルカって名前なんだけど、格で言えばルカは魔晶族でもトップクラスだった。知能もかなり高かったし、しかも私の洗脳が効かない数少ない魔晶族だったよ」


 知能が高い魔晶族で、洗脳も効かなかった?

 じゃあ今の蓮水先輩は一体何なんだ。マジでただのヤベーヤツじゃねーか。

 今でも鮮明に思い出せる。あの時の蓮水先輩は完全に目がイっていた。


 さすがに前世とはいえ弟のことを目の前で悪く言うのも(今まで散々言っていたが)はばかられたので、当たり障りのない言葉を返すことにする。


「せ、洗脳が効かないヤツもいたのか」

「ルミベルナ様と同格以上の魔晶族ならね。まー、アイリーン(あたし)とルカ……ともう一体しかいなかったけど。それだけ強力だったんだよ、ルミベルナ様の洗脳は」


 くるくると自分の髪を指に巻き付けながら、矢吹先輩が答える。

 魔晶族が何体いたかは知らないが、それでも洗脳が効かなかったのが三体しかいなかったのか……やはりルミベルナは相当強い魔晶族だったみたいだ。


 だが何故だろう――矢吹先輩の『もう一体』の言葉にどこか棘があったような気がした。


「でも実際蓮水先輩はああなってしまってるじゃないですか。今回は逃げられたけど、明日からどうやって過ごしていけば……」


 さすがに前世の記憶のない他の生徒たちがいる前であの力を使うことは無いと思いたいが……

 今何の事情も知らない他の生徒や教師を巻き込むことだけは避けたいが、の蓮水先輩ははっきり言って何をしてくるか分からない。

 あんな力をめいいっぱい使われれば、学校が半壊するのは想像に難くなかった。

 

「綾斗にだけ気を付けるなら、出来るだけ一人にならないようにすればいいけど……他の生徒まで襲ってきたらマズいよねぇ」

「他の生徒……?」

「今回気をつけなきゃいけないのは何も綾斗だけじゃないんだよ望クン」


 矢吹先輩は机に肘を乗せて手を組み、眉を寄せてオレをじっと見つめた。


「今転生者たちは皆洗脳が解けてる状態。そして厄介なことに皆前世でルミベルナ様に洗脳されてたコトを覚えてる。しかも前世でちょっと色々あって、今世ではほとんど皆がルミベルナ様もとい八千代に敵意を持ってる」

「そ、それって……」


 オレはたまに八千代が怪我をして帰宅してくるのを思い出した。

 アレは、まさか、ルミベルナに恨みを持つヤツらに……?


「おにーさんも今日までよく無事だったよね。『三縁八千代に手を出したら三縁望が黙っちゃいない』ってのは共通認識なのにさ、八千代をやるなら最初に君が狙われてもおかしくなかったんだよ。まーそこはあいつらの低知能っぷりに感謝するしかないか」


 ごくりと唾を飲みこんだオレに、矢吹先輩は続ける。


「今の綾斗がヤバいやつなのは間違いないんだけどー、あいつが八千代を執拗に守ろうとしているのはそういう理由なんだよね。実際あたしも綾斗が八千代に攻撃しようとした生徒をボッコボコにしてるとこ見たことあるし」


 いやーあれはすごかったなぁー、と明後日の方向を見ながらげんなりした表情で言う矢吹先輩に、オレは何も言葉を返すことが出来なかった。


 あ、あいつ……口だけじゃなくて本当に八千代を守ってくれていたのか。

 

 するとオレと矢吹先輩が話している間、ずっと何かを考え込んでいた八千代がようやく口を開いた。



「私が一番分からないのは、蓮水先輩が『なぜルカとして振る舞っているか』なの」



 疑問の意味が分からず、オレの頭の中に『?』マークが何個も浮かぶ。


「そ、そりゃあルカの人格に引っ張られてるからじゃねーのか? 他のヤツらみたいに」


 目を伏せたまま八千代は首を横に振った。


「ルカの人格が主体になってしまったとしても、私が知っているルカなら……『蓮水綾斗』として振る舞うはずだよ。いきなり知らない世界で目覚めても、今世の『蓮水綾斗』としての記憶がある以上、あの子ならすぐに状況を理解出来るし、前世と同じ振る舞いをするのは愚行だって分かるはずだもの」


 一瞬の間の後、矢吹先輩が「確かに」とゆっくり頷く。


「八千代の言うとおり、あのルカがそんなバカなことするわけがない」


 二人のルカに対しての信頼がすごい。

 理由を聞くとルカは魔晶族の中でも頭の良さは随一と言ってもよく、当時リーダーであった姉のルミベルナのそばでサポート兼参謀のような役割を担っていたらしい。姉の意思を尊重しつつ、魔晶族のためを考えて行動する出来た弟だったとも。

 そんなルカが『ルミベルナに戻りたくない』と言う八千代の意思を無視し、前世の人格(ルミベルナ)に戻れと言わんばかりの態度を取ること自体が考えられないという。


「綾斗のこと、ちょっと調べてみる必要がありそうだねー」


 矢吹先輩は席から立ち上がると、飲み終えた紅茶の紙コップを片付け始めた。


「望クン、明日からは出来るだけ八千代から離れないように。仮に襲われても八千代がいればどうにかなる。八千代がいなければあたしのところに来なよー」

「先輩にそこまでしてもらうには……、オレだって少しくらいならどうにか」

「転生者たちは皆大なり小なり前世の力を使えるんだよー? 只の人間の望クンに対処出来るの?」

「っ……分かりました」


 蓮水先輩が起こした風の渦を思い出し、あれを使うヤツらが今後襲ってくるかもしれないと考えると何も返せない。

 ここは素直に言うことを聞いていた方がよさそうだ。

 だが、歯がゆい気持ちはある。守ろうとしていた妹に、逆に守られることになるなんて……。

 せめてオレも転生者で、八千代を守れる力があれば良かったのに。


 ……いや、そんな弱気になっていてはダメだ。

 いくら相手にするのが人間を辞めたヤツらだろうと、オレにだって何か出来ることはあるはずだ。

 例えば警戒すべき転生者を調べ上げるとか……。 


 ……ん?

 そういえば、八千代たちはどうやって相手を転生者だと見分けているのだろうか。


「八千代たちは前世は人間じゃなかったんだよな? 前世とは見た目も違うのに何で相手が転生者だって分かるんだよ」


 もう外も暗く、図書室の本来の閉館時間が近づいてきている。

 幸い荷物は図書館に来る前に取って来ていたため、そのまま帰ることが出来そうだ。

 帰る準備をしながらオレは八千代に尋ねた。


「学校のほとんどの転生者が前世に飲み込まれてて隠そうともしてないから、見れば大体分かるよ」


 八千代は先ほど泣いたせいでまだ少し目が赤いが、落ち着きは完全に取り戻している。


「他にもお前や矢吹先輩みたいに前世に飲み込まれてないヤツはいないのか?」

「……いると思う。でもそういう人は上手く隠してるだろうし……見ただけでは私にも」

「そうか」


 学校の中にはいわゆる『隠れ転生者』もいるってことか。

 彼らは今の現状をどう思っているのだろう。


 八千代は学校の鞄を持って立ち上がると、オレに頭を下げる。


「兄さん、本当にごめんなさい。こんなことに巻き込んじゃって」


 気にしなくていいのに、律儀なヤツだ。

 オレは八千代の頭を両手で掴むと、ぐいっと上げる。


「いいっていいって、今の現状の原因が分かってスッキリ出来たし。むしろお前が前世に飲み込まれてなくて良かったよ」

「今の私は以前とは性格とか、考え方とか……変わってしまってると思うよ」

「オレはルミベルナを実際に見たわけじゃねーから分かんねーけど、今の八千代も悪くないんじゃねーの? カッコよかったぜ、蓮水先輩に啖呵切ったお前」

「あ、あれは……その……えっと」


 顔を真っ赤にしてオレから目を逸らし、しどろもどろに答えを探す。

 こういう所はちゃんとオレの知っている八千代だ。

 オレはふっと笑い、八千代の頭をぽんぽんと叩いた。


「それに、本当にどうしようもなかったら逃げていいんだ。もちろん、逃げてそのままはダメだけどな」


 逃げていい、その言葉に八千代は少し安心したようだった。


「……ありがとう。兄さんがいなかったら、私きっと今頃駄目になってたよ」

「いいってことよ。明日から、どうなるか分かんねーが……頑張っていこうぜ」

「うん、何かあったら兄さんは私が守るからね」


 そういう八千代はとても頼もしい。たとえ同族を洗脳していた前世があったとしても、八千代にとって前世の記憶が戻ったのは、悪いことだけではなかったのではとも思う。


 だが、もちろんオレも守られるだけのつもりはない。

 オレや八千代がどうすれば周りの転生者たちの敵意から逃れ、平穏に学校生活を送れるのか考えなければ。


 もう閉めるよー、と入り口で声を上げる矢吹先輩の方へ向かいながら、オレは明日からのことについて思いを馳せるのだった。

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